【魔を滅する転生樹】第0章

第零章:[転生無用](1/1)
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 嗚呼、この世界から弾かれたという事か。

 力を喪い次元の歪みからハルケギニアを追放同然に消えてしまい、そして鬼が暴れる世界に墜ちた。

 その世界の神、二柱から力を――神氣を与えられて全ての力をユートは取り戻して再びハルケギニアに還るべく、

 異界次元(アナザーディメンション)を利用する事により、次元の歪みを生み出して跳び越える。

 幾つかの世界を転々としながら、決して老いぬ身を以て千年以上だろうか?

 悪魔や魔神の世界やら、超絶美形な異端児が暴れる世界、錬金術が世に認められた世界等々……

 だけど初めての経験だ、異界次元の移動中に引っ張られてしまい、見覚えの無い世界へとこうして墜ちてしまったのは。

「困ったな……どうして、こんな地に? 地球なのは間違い無さそうだけど」

 頭を掻きながらキョロキョロと辺りを見回す。

「参ったな。また異界次元を開いてこの地球から出て行くか?」

 ユートは右掌を開くと、右腕を掲げて小宇宙を集中していく。

「異界次元(アナザーディメンション)!」

 シン……

「あれ?」

 然し何も起きなかった。

「異界次元(アナザーディメンション)!」

 シン……

「おや?」

 然し何も起きなかった。

「異界次元! 異界次元! 異界次元っっっ!」

 シン……

 然し、全く以て何も起きなかった。

「な、何で? 空間を操れない……だと!?」

 ユートは小宇宙により、マイナスにまで気温を下げていく。

「極小氷晶(ダイヤモンドダスト)!」

 ブローを放つと近くの木が凍り付いた。

「最初の……いっちゃん達の居た世界の時みたいに、力を喪った訳じゃないか」

 小宇宙の燃焼は可能で、魔力や氣も充実している。

 大体にして、力を喪ったのは邪神たる這い寄る混沌ナイアラルラトホテップとの闘いに全力を使い過ぎ、結果として生命力の極端な低下を防ぐべく、再生へと力を割いていたからだ。

 今、その必要は無い。

 ならば力は有るのだが、どうしてか次元――時空間に関わる力が発動しないとなると、それのみを封じていると推察が出来る。

 封じられているとはいえそれはユートの能力に対してではなく、この地球全土にその為の結界が敷かれているのだろう。

「どうしたものかな?」

 世界から出られないとなると還れない。

「方法は……世界を覆っている結界を消すか、若しくは結界を張った存在をぶちのめすかだな」

 これだけの大規模な結界であるし、コイツを張った本人が結界の支点となっている可能性は高い。

「やれやれ、それにしてもこの世界が何の世界か判らない事にはな。誰が結界を張った本人かも判らん」

「優斗殿?」

「蟹?」

「誰が蟹だい、誰が!」

「いや、鷲羽ちゃん?」

 赤く蟹みたいな髪型をした見た目には少女、それは【天地無用! 魎皇鬼】に登場する白眉鷲羽。

 尚、TV版の【天地無用!】にも勿論出ている。

「そ、鷲羽ちゃんさ。それでどうして優斗殿がこんな所に居るんだい? もう、天地殿達と出た筈じゃ」

「? 鷲羽ちゃんに天地殿……って、【天地無用! 魎皇鬼】の世界か!」

 まあ、或いはTV版という可能性もあるけど。

(だとしたら、僕は恐らく津名魅にでも喚ばれたか)

 【三命の頂神】と呼ばれる超越存在……即ちそれは鷲羽、津名魅、訪希深という三柱の事。

 鷲羽はすぐ目の前で神格を持たずに居るし、訪希深が干渉してくるとは考え難いから、津名魅が何らかの干渉をしてきたのだろう。

 そして鷲羽だ。

 彼女はユートの名前を呼んだ、つまりはこの世界に――【天地無用! 魎皇鬼】の世界に優斗が居る。

 存在しているのだ。

 そう、間違いなく転生をしている筈。

 とはいえ、ハルケギニアに通ずる地球へとユートは転生しているのを確認済みだから、この世界に転生をするのはその次以降だ。

「くっくっ、確かに此処なら見付かるかもな?」

 宇宙の侵食者を滅ぼし、三千大千世界を救う術を。

 ユートの目的というか、ユートが転生をさせられた理由、それが宇宙を滅ぼし得るであろう侵食者を斃す為の手段の一つとして。

 他にも様々な手を打っているらしいのだが、ユートもそんな“様々な手”――その一つなのだ。

 金色の女王が自ら産み出した存在――五源将。

 【朱翼の天陽神】
 日乃森シオン

 【蒼呀の月皇神】
 刻守クラン

 【白夜の光姫神】
 結城セレン

 【黒幻の宙王神】
 砕牙架音

 【銀嶺の討滅神】
 楠葉卦韻(ケイン)

 精霊王の上位互換である彼ら五源将もまた、様々な一手の内である。

 大いなる意思達は侵食者との戦いが一時的に終わった際、その後に関して会話を交わしていた。

 ユートはハルケギニアの時代、フォェボス・アベルとの闘いに敗れた時にそれを視る機会があったから識っている。


『ビッグバンは成功だ! ○○○は崩壊している……ビッグバンは○○○を破壊しながら拡大していく』

『然し○○○は無限だぞ、いずれビッグバンの爆発力も弱まる』

『原始的だが分子構造体を組み合わせ、○○○を攻撃する生物体を作り出す!』

『遺伝子を次々と組み合わせ、進化する戦闘的な種が良い! 我々の様な意識体ではなく、己れら同士が喰い合う種が良い!』

『喰い合う事によって強くなる、破壊せよ、同胞を殺せ、武器を作り上げろ!』

『その中で生き残った種が進化を繰り返し、星々を喰う魔物が生まれても良い』

『兵器を使って、宇宙をも消滅させる機械の化物でも良い!』

『狂気と正気の狭間に狂う魔王が誕生するのも良い』

『先のビッグバンを引き起こす火種として使い潰し、宇宙の闇に消え逝く存在の端末が再び揃い、破滅する力を導くのも良い!』


 世界を、宇宙を救う為ならそもそも今の世界を滅ぼしても構わない。

 次の宇宙さえ再誕が叶う世界なれば、決して侵食者による蹂躙は許されない、彼ら彼女らはそんな考えの基に幾つもの一手を構築してきたのだから。

「……貴方は本当に優斗殿なのかい?」

「どういう意味かな?」

「確かに魂は、アストラルのパターンは優斗殿に間違いは無いさ。だけどねぇ、詳しく調べてみなけりゃ判らないが、遺伝子が全く異なるみたいなんだよ」

「成程ね、流石は宇宙一の天才科学者の鷲羽ちゃんって訳か。僕がユートなのは確かだよ。だけど少しだけ違うのもまた事実だ」

「少しだけ違う……ねぇ」

 鷲羽から視たユートは、アストラルパターンなどが同一なれど、別人の肉体に入ったみたいな感覚。

 確かに少しだけ違うというに相応しい状態だ。

「恐らく、というより間違いなく僕は鷲羽ちゃんの知る優斗の過去世。しかも、前々世に当たる筈だよ」

「過去世……前々世ね……成程、それなら有り得る話かも知れないね」

 キランと目が光る。

 魂やアストラルボディ、それらを解析したり人工的に精製したりが可能だし、転生も普通に認知をされているだけに、鷹羽はそれを肯定的に見ていた。

「その過去世の優斗殿が、この現世に何故?」

「さて、この世界の神格に喚ばれたんじゃないかな? 流石に自分の意志で選んで来た訳じゃなくてね」

「神格……ね。ひょっとして津名魅かしら?」

 津名魅は高位次元生命体であり、この世界で神と呼ばれる存在だ。

 特に樹雷にとっては正に神であろう、何しろ樹雷では津名魅とは神聖視される皇家の樹の始祖。

 初代樹雷皇が津名魅より後の皇家の樹を与えられ、現在の樹雷星に拠を置いて始まりの皇となり始まったのだから。

 唯でさえ神聖視されている津名魅は、世界の理的にも実質的な神なのだ。

「恐らくね。津名魅の筈、訪希深だとは思えないな。それに……」

 鷲羽は目の前で何も知らずに話をしている訳だし、何よりも彼女は三命の頂神としての力、それを宝玉に封じてしまっている。

 随分と昔に観たOVAの設定だが、確かそんな感じであったと思い出す。

「ふむぅ、だとしたら君は津名魅に会わなければ元の場所に戻れない……と?」

「そうだろうね……それで鷲羽ちゃん」

「ん?」

「津名魅の依代、柾木・砂沙美・樹雷は何処に?」

「っ!? 何故、優斗殿がそれを知っているんだい? まだこの現世を識らない筈の優斗殿が!」

 勿論、原作知識でだ。

 どうやら鷲羽も既に知識として、砂沙美=津名魅であると理解している。

 ならば、きっと物語の方も可成り進んでいる筈で、出掛けたのもその関係か。

 とはいえ、OVAであれば基本的に登場をしてから鷲羽が天地達から離れた……というのは聞かない。

「僕はきっと呼ばれたんだろう。次元移動すら封じる手の込み様だからね」

「それが津名魅だと?」

「鷲羽ちゃんじゃないし、訪希深も違うだろう」

「消去法で津名魅……か。確かに私じゃないね。況してや訪希深が外時空間での優斗殿を知りはしない」

 それは会った際の鷹羽を見れば一目瞭然、訪希深は未だに上位次元に存在し、下位次元には余り興味を持ってはいないのだから。

 長女の鷲羽と次女である津名魅、この二柱は新たな可能性を見付ける名目にて下位次元へと降りた。

「だから、そろそろ出て来てくれないかな?」

「おやおや」

 鷲羽が御手上げポーズで見つめてくる。

『強引に此方に連れてきた事を御詫び致します』

「別に良いさ、津名魅」

 其処には半透明ながら、青い長髪を後ろで纏めた緋の瞳の美しい女性が、幽霊も斯くやで浮いていた。

 樹雷皇家にとって神で、高位次元生命体の一種。

 三命の頂神の次女である津名魅、船の姿では十枚もの光鷹翼を展開が可能で、現在は樹雷皇家第二皇女の柾木・砂沙美・樹雷と運命を共にしている。

 柾木優斗は自らを偽者だと泣く砂沙美に、【帰ってきたウルトラマン】を視聴させて説明をした。

 【ウルトラマン】ではなかったのは、最終回で分離しているからである。

 引き換え【帰ってきたウルトラマン】は、主人公がウルトラマンジャックとしてM78星雲に帰ったから説明には此方の方が好都合だった訳だ。

 高次元生命体が人間へと融合して、最終的には一つの存在として昇華される。

 砂沙美も納得してくれた上に、好感度も弥ましたから取り敢えず良かった。

 今の津名魅は砂沙美とは一つだが、意識が別々だからこうして自意識を飛ばす事も可能である。

『以前に優斗さんから聞いたタイミングが今だった、その為に多少強引でしたがこうして貴方に干渉をさせて頂きました』

「構わない。理由さえ判れば出る事も可能だしね」

 ユートが困っていたのは何故にこの世界に来たのか判らなかった上、異界次元(アナザーディメンション)で出れなかったからだ。

 出る手段も確保されて、理由まで判明すれば少しくらい長居しても良い。

「津名魅にせよ鷲羽ちゃんにせよ、目の保養になるから暫くは此処に居ても構わないからね」

「おや、やっぱり前々世とはいっても優斗殿だねぇ」

『そうですね』

 ブレないユートの性格、それに苦笑を禁じ得ない。

「で? わざわざの御指名の話は何?」

『いえ、実は既に終わったも同然なのです』

「は? 喚んだだけで?」

『はい』

 ニッコリと微笑みを浮かべる津名魅はやはりとても綺麗で、本当に目の保養となる素晴らしい容姿。

 砂沙美の将来の姿だ。

 年の頃ならば二二歳から二五歳くらいか、生理年齢八歳だから地球で普通に育てば約一五年間だろう。

 延命調整でン百ン千年を生きるとはいえ、成長自体は地球人とそう変わらないのだから。

『実は貴方に頼みたいのは来々世、この地に転生をして頂きたいと思いまして』

「成程、それは確かに喚んだだけで用事は済むよな。何せ、僕は既に転生をしているんだから」

『はい。優斗さんは間違いなく転生されました。とはいえそれを伝えなければ、前提が崩れますので』

「確かに……ね」

 知らなければ、ユートだって流石に来々世を此方側の世界にしたかどうか?

「僕の来世は確定してる。だから来々世か」

『はい、優斗さんの人生を一度は戴くのです。確か、優斗さんは最初の転生の折りに転生特典(ギフト)を与えられたのでしたね。だからギフトを捧げます』

「ギフト?」

『私の一部から生まれる樹――それを差し上げます』

「皇家の樹を?」

『正確にはそれと同種の……ですね。実際に、貴方が天地殿と共に誕生した時に言祝ぎ、あの子を貴方へと差し上げましたから』

 樹雷皇家の樹ともなれば確かにとんでもないギフトだろうが、それをあっさりと渡そうなどと。

「僕はそれ程までのイレギュラー足り得るかな?」

『やはり御存知でしたか。私達……三命の頂神が新たなる可能性を模索しているという事を』

「まあね。反作用体に何かあったか、或いはそいつを何とかしなけりゃ……か」

『お母様の事も!』

 光鷹翼に対する反作用体――それは即ち、柾木・美砂樹・樹雷。

 阿重霞と砂沙美の母親。

「どうやら予期せぬイレギュラーが必要となるみたいだし、依頼の件は未来の僕を見る限り引き受けてる。だから僕も勿論引き受けるさね。とはいえ、可成りの難物になってるかもよ?」

『其処は理解しています……ポッ』

「何故に紅くなる?」

 両手で頬を押さえながらもイヤンイヤンと、身体をクネクネとし始めた。

「取り敢えず、僕は僕か」

 何と無く理解する。

『はい、家事は嫌いで私――砂沙美姫に任せっ切り。仕方がないと出した案が、まさかの閃姫招喚』

「やっぱり僕は僕か……」

『まあ、その時は既に祐希さんの招喚をしてまして、然程に驚きませんでした』

「……招喚したのってやっぱりシエスタ?」

『はい』

 自分の将来が見えた気がするユート。

「だいたい判った。まあ、気の長い話だけど来々世の転生の件、確かに聞いた」

『御願い致します』

 こうして二人――一人と一柱の間に契約は為され、それを津名魅の姉の鷲羽が確と見据えていた。

「ま、これで私の楽しみは確保された訳だね」

 鷲羽はニコニコと笑い、その事実に満足をしたのだと云う。

 そしてユートは鷲羽からちょっとした器具を貰い、更にはちょっとした診察もして貰って再び次元を越えて旅に。

 津名魅は今生でのユートの許へと帰っていった。


2020/10/6