【魔を滅する転生樹】第1章

01~06

第一章:[再誕無用](1/12)
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 爆発、爆発、爆発。

 樹雷本星にて起きた魎呼と魎皇鬼の襲撃によって、大混乱が巻き起こっていたこの状況。

 全員が闘士だとはいえ、魎呼の戦闘力に対抗可能な人材は少ない。

「おのれ、妖怪!」

 その魎呼に太刀打ち可能な人間の一人、柾木・遙照・樹雷が天地剣──船穂という樹雷皇家の樹の第一世代艦のマスターキーを以て斬り掛かる。

 魎呼は飛べるから楽々と躱してしまうが、武芸に秀でた遙照は自らも跳躍して攻撃を繰り返した。

 結局の処、魎呼は目的──皇家の樹の奪取──を達する事が出来ずに撤退。

 遙照はそれを船穂で追って行ってしまう。

「待ってお兄様! 私を置いて往かないでぇぇっ!」

 腹違いの妹、柾木・阿重霞・樹雷の悲痛な叫びが、未だ燃え盛る樹雷本星に谺したと云う。

 また、遙照のもう一人の妹である柾木・砂沙美・樹雷にも異変が起きていたのだが、元気な状態で侍女の麻真が連れて来たから特に知られずに終わる。

 それから後、遙照の船穂が行方不明となった事が伝えられ、彼を婚約者として実兄以上の感情を持っていた阿重霞は心を閉ざして、自室に引き篭り食事も碌に摂らない日々が続く。

 祖母の神木・瀬戸・樹雷や実母である柾木・美砂樹・樹雷、遙照の実母の柾木・船穂・樹雷も心配をして部屋を覗くが余りにも痛々しく見ていられない。

 そんな中で砂沙美は何とか食事を摂って貰おうと、様々な料理を作ってみたのだが芳しくなかった。

 其処で逆転の発想。

 阿重霞は人参を苦手としているので、キャロットケーキを焼いてみた。

 瀬戸は苦手な人参は無理ではないかと言うのだが、そもそも好物は既に全てを試して駄目だったのだ。

 だからこそ、逆に苦手なものを試してみた砂沙美。

 ボロボロになった砂沙美がケーキを口元に運ぶと、そんな姿になってまで頑張る妹に感慨を懐き、ゆっくり口を開いて食べる。

 漸く食べてくれた喜びに砂沙美も涙を零した。

 砂沙美のキャロットケーキは阿重霞にとって、唯一の好物な人参料理となる。

 それからまた時間が経ったある日、阿重霞は遙照を捜すべく自らの船──龍皇に乗って樹雷星を発つ。

 時間凍結をしようとしたら何故か妹が乗っており、戻る訳にもいかないからか已むを得ず、砂沙美も一緒に連れて行く事となる。

 阿重霞と砂沙美が樹雷星を発って約七百年後──


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「オギャア! オギャア! オギャア!」

 銀髪の女性がベッドに寝かされており、隣には二人の赤ん坊が泣いていた。

 否、泣いているのは一人だけであって、もう一人はキョロキョロとしている。

 首が据わらないから視線を動かすだけだが……

「よく頑張ったな清音」

「お父さん」

 黒髪が混じった白髪の、初老とも云える年齢だろう男性が声を掛ける。

 呼ばれ方から彼女の父親なのだろう。

 今一人、優しそうな瞳で清音と呼ばれた女性を見つめる眼鏡を書けた男。

「それにしても双子かぁ。お義父さんじゃないけと、頑張ってくれたね」

「アナタ、ええ!」

 男は清音の夫、つまりは誕生したばかりの双子にとっては父親である。

「信幸、ワシはそろそろ戻らねばならん。此方の事は任せたぞ?」

「はい、お務め頑張って下さいお義父さん」

「うむ。然し天女の時から数十年……待望の男の子。ほんに頑張ったものじゃ」

「お、お義父さん!」

 真っ赤な顔で叫ぶ信幸。

「ほっほっ、ではの」

 彼──柾木勝仁は柾木神社の宮司だ。

 巫女さんが働いている訳
でも無し、参拝客など居なくても仕事はある。

 柾木信幸の照れ隠しを背に神社へと帰った。

 さて、勝仁の科白におかしな部分が在っただろう。

 其処を説明する。

 柾木信幸と柾木清音──この夫婦に実は子供がもう一人存在していた。

 柾木天女。

 数十年前に生まれた娘、現在はこの地に居ない。

 死んだのではなく単純に地球を出ているだけだ。

 柾木家は嘗て鬼を封じた柾木遙照の子孫で、分家に正木を置いて柾木家は遙照の直系となっている。

 そして、柾木遙照は樹雷という異星出身の皇子。

 遙照の母親の船穂が実は地球人で、彼は母親の故郷に骨を埋めたのである。

 延命調整が当たり前で、普通に数百や数千年を生きる彼ら、だから基本的には柾木家も正木家も成人したらルーツを教えられ、地球か宇宙か生活の場を選ぶ事となっていた。

 柾木天女は宇宙で活動をしており、祖母や高祖母とも面識を持っている。

 とはいえ度々、地球へと戻っているから双子の誕生も知らされていて、会える日を楽しみにしていた。

 双子の命名。

 兄──柾木天地。

 弟──柾木優斗。

 本当なら天女と天地に倣って天○と名付けたかったらしいが、清音が口にしたのは【優斗】だった。

 信幸も【天使】や【天斗】や【天馬】など考えていただけに驚いていたけど、妻が思い付いたなら構わないと容認し、優斗となる。

 後にユートはそれを聞いて【天使】なんて付けられなくて良かったと、胸を撫で下ろしながら安堵した。

「ほら、天地ちゃんに優斗ちゃんも。お母さんのお乳ですよ~」

 おっぱいをさらけ出し、双丘を二人の赤ん坊の口元へと差し出す清音。

 天地は何の躊躇いも無く乳房を口に含み、チュウチュウと吸い始める。

 だけどユートは……

「あら、優斗ちゃん?」

 一向に乳房へ口を近付けようともしなかった。

「(参ったね。判っちゃいたけどこれは恥ずい)」

 スプリングフィールドに転生した際、普通食が食べれる二歳までには意識覚醒をする予定が、

 三歳を過ぎて悪魔襲撃まで覚醒が出来なかった為に、初めからの覚醒を選んだ訳だがやはり授乳は恥ずかしい。

 とはいえ、歯も生え揃わない今は清音のおっぱいを吸わなければ餓死するし、飲まないとそもそも両親も祖父母も心配する。

 柾木アイリも確か休みの日とか、偶に此方に来ているみたいな話だった筈で、ならば下手に拒食は見せる訳にもいかないだろう。

 それに手前味噌だけど、我が母親ながら綺麗な女性だし、その乳房を口にすると考えればそれ程に悪い話でも無いかも知れない。

 覚悟を決めたユートは、いざ! とばかりに口を開いてツンと突き出たピンク色の乳房を含み、チューチューと吸い始める。

 口に含んだ乳房を舌で転がす様に舐めつつ、強く吸ったり軽めに吸ったりなど緩急を付け、閃姫を相手にセ○クスをする際に乳房を口で弄るのと同じ動き。

 それは清音に甘い痺れを与えており、ユートが母乳を吸ってお腹を満たしているのと同時に清音は……

「あ、ん! ちょっと……優斗ちゃん……だ、ダメ! あ、うう!? ひうっ! こんな……優斗ちゃんの舌が私のおっぱいを苛めて……はうっ!?」

 性的に感じていた。

 毎度毎度、清音は授乳の度に快楽を得ているから、お腹が一杯になって口を放すとグッタリとしている。

 そして、夜には悶々とした肢体を持て余すからか、信幸から搾り取る勢いにて煩悶とした想いをぶつけ、妊娠しなかったのが不思議なくらいだったとか。

 尚、天女が清音の振りをしてユートにおっぱいを上げようと──出ないけど──口に含ませた際、正体は気配の違いから判っていたから、

 特に飲まなくて良い分を清音以上に行った結果として、清音みたいに相手が居ない天女は仕方が無く自分で慰めていたり。

「うう、何十歳も年下な弟に感じさせられて自慰……もうお嫁に往けない」

 嫁ぐ気はあったらしい。

 二年後、二歳となってからユートは少しずつだけど身体を鍛え始める。

 ユートは転生者。

 それも三度も転生をした多重転生者だ。

 故に前世や前々世の特性などは引き継ぎ、魔力なども可成り高めとなっている訳だが、カンピオーネ──神を殺して得た肉体も誕生と同時に転生し、鍛えなくても普通に強靭だった。

 オマケに本来なら死ねば喪われてしまう筈の神器(セイクリッド・ギア)も、宿してはいなかった分は元より宿していた数種類……

 【白龍皇の光翼】や【聖剣創造】や【魔獣創造】なども宿って残されている。


 それに鍛練をしたなら強くなれるらしく、ユートは普通に鍛えていた。

 また両親や祖父、兄との関係は極めて良好である。

 特に母親の清音。

 二歳ともなれば普通に食べれるのだが、おっぱいを飲ませようとするくらい。

「母さん、欲求不満か? 父さんがちゃんと満足させてないのかね?」

 高が百年か其処らの人生しか歩んであない信幸と、精神的には千年を越えて在り続けた上に、基本的には性の伝道師すら務まる人生を歩み続けたユートとは、間違いなく相手にならないであろう。

 しかもユートは氣の循環を用い、遂にエセルドレーダをイカせて満足感と共に心地好い疲労感で眠らせたレベルだ。

 初めから勝負にさえならなかったりする。



 閑話休題



 まあ、清音がそんな調子だったから離乳食に切り換えるべき時期も母乳を主食にされ、ちょっとどうかと思ったユートだった。

 二歳の誕生日を迎えて、漸く普通に食事をしているのだが、それにしても祖父の勝仁が状況を知って清音を叱り付けたから。

 不満がタラったらだったのは言うまでもあるまい。

 とはいえど、人はそれを自業自得と云う。

 変に快楽を覚えさせて、それを求めた清音だからこそ起こったのだから。

「ふっ! ふっ!」

 ユートがやっているのは【緒方逸真流】格闘術の型であり、樹雷とは縁も所縁も無い武術である。

 木刀にせよ真剣にせよ、それが軽い竹刀にしてもそうなのだが、特注しないと長過ぎるから現状では格闘のみの反復練習だ。

 まあ、真剣の脇差しなら或いは丁度良い長さかも知れないが、生憎と現在は持っていなかった。

 亜空間ポケットに繋げたアイテムストレージには、大人向けの武具は普通に揃っているが、今の自分が使うのを考慮した物は容れていないのだ。

 だが、勝仁に見付かって『未だ早い』と窘められても面倒臭いし、今は良しと考えての事だった。

 実際、緒方優斗だった頃に木刀を持たされたのは、三歳から修業を始めてから五歳になってから。

 二年間は基礎固めのみをやらされていた。

 これは別に勿体振ったとかではなく、スポーツやら或いは剣道やらをしていたら理解も出来るだろうが、

 素人が基礎も出来ていない侭にボールを持ったり竹刀を持ったりしても、使い方など正しくは解らない。

 サッカーなら蹴れば良いだろうし、バスケットボールなら弾ませれば良いのは確かだが、其処にはそれを行う正しい姿勢(フォーム)が長い時間を掛けて確立が成されており、

 それを身体に覚え込ませる前に出鱈目な姿勢を覚えてしまうと、それを正すのに余計な手間と時間を取られてしまう。

 記憶には運動神経などを司る【手続き記憶】が存在しており、それに覚えさせてしまうと厄介なのだ。

 何しろ無意識レベルにてその動きが出てしまう。

 ユートだって自身が扱う【緒方逸真流】を頭で考えて使っているというより、殆んどが無意識下で必要となる動きを任せ、頭はもっと別な方向で使う。

 ああしよう、こうしようと考えるよりはそちらの方が速く動けるからだ。

 特に咄嗟な時程、普段からの修練がモノを云うのはこれまでの経験則で理解をしており、聖闘士としての闘いでは重宝された。

「当分は剣は無し、格闘の訓練だけしておこうか」

 とはいえ、ユートは素人などては決して無い。

 昔は全てを修得していなかった技術さえ、ハルケギニア時代に身重な白亜を家に還した際に、祖父からの有り難い再修業で修得済みだったからだ。

 まあ、祖父もまさか孫娘の夫? がやはり孫だったユートになるなど、日本の法律的に考えなかった。

 精神的には実の兄妹で、白亜が兄に懐いてはいけない感情を持っていた事自体は気付いていたが、だから白亜にユートの嫁の選定を任せた訳だが、

 肉体的にはDNAの類似値が離れたとはいっても、兄は兄と納得しなかったのだろうと半ば諦感するしかない。

 しかも、ユートは分家筋の娘達まで関係を持って、何人かは身籠った。

 祖父からすれば頭痛しかしなかったろう。

 しかも、本来ならユートの婚約者に内定をしていた狼摩白夜は抱かれこそしたものの、身籠るには及ばずしかも兄に拐われてからの無理心中で死亡ときた。

 因みに、狼摩家は白夜の妹が他の分家から婿を迎えて存続をしている。



 閑話休題



「天地!」

 母の清音と此方を見ていた柾木天地に声を掛ける。

「何?」

「天地もやらないか?」

「俺は良いよ」

「どうせいずれは爺さんに強要されるぞ?」

「そん時はそん時だよ」

 余り興味は無さそうだ。

「やれやれ」

 無理強いも違うだろう、ユートは天地と清音から離れて再び訓練に戻った。

 清音は驚愕している。

 あれは間違いなければ、というより間違いなどなく【樹雷星】に伝わる武術。

 しかも父である遙照を思わせる動き、だが彼が孫に武術の伝授をしているなど聞いた事が無い。

 まだ拙さも見えるが……

 清音とて遙照の娘だし、当たり前だが樹雷の事だって普通に識っている。

 何しろ、柾木清音という女性は既に二百歳を越え、延命調整のお陰で見た目にも若い侭。

 尤も、その見た目故にか延命調整を怠ったツケを、近い未来に支払う羽目に陥ってしまうのだけど。

「優斗ったら……いったい何処で習ったのかしら?」

 清音は呟くしかない。

 修業場に丁度良いからとユートは柾木神社を利用、お小遣い稼ぎに祖父の手伝いをしたりもする。

 本来の世界線では修業の一環として、神社の手伝いを無償奉仕していた天地。

 だけどユートは労働には対価を支払うものであり、それを怠るのは大人としてどうか? と言って説得、時間給として千円を勝仁に約束をさせた。

 基本的に二時間労働で、土日祝日有りの労働条件な為に、二〇日くらいの仕事で四万くらいの稼ぎだ。

 本来の天地の誕生日は違うだろうが、ユートの介入から柾木天地と柾木優斗は五月二二日生まれ。

 二歳になってから三ヶ月が経つ八月の半ば、ユートは既に十二万程度には稼いでいたりする。

 しかもユートは飽く迄も扶養家族であり、お手伝いの御駄賃──にしては高いけど──に所得税も付かないから手取りが丸々とだ。

 二歳から手にする金額ではないと勝仁も思ったが、どうもユートはそのお金で何かしら考えている節があったし、取り敢えず傍観を貫く事にした。

 尚、天地には三〇分くらいの労働で五百円の小遣いを与えている。

 ユートは父の柾木信幸に頼んで、パソコンとネット環境を整えて貰った。

 【天地無用! 魎皇鬼】のOVA発売の年は西暦で一九九二年、ネット環境も余り整ってはいない時期。

 然しながら、この世界の西暦は既に二〇〇〇年を過ぎていたから、パソコンの関係も普通にネットワーク関連が整っている。

 ラッキーだった。

 ネットワーク関連が整っているなら、前世と同じくそれを使った会社を企業するのも可能だったから。

 ユートが興した会社──【OGATA】は祖父の名を借り、口コミなども手伝って可成り盛況となる。

 何しろ、銀河アカデミーなどでは割と簡単に再現も可能だろうが、地球に於ける技術的なブレイクスルーが出来ないとあっては再現が叶わず、故に某国でさえコピー商品が出ない程。

 資産も既に数千万は越えている。

 三歳の誕生日を迎える頃には、億単位の資産を得て祖父勝仁が何故か可成りの額の税金を納めている事になっており、本人もユートが何をしでかしたのかと、首を傾げてしまったとか。

 人気商品が【コンピューターペット】と称されているペットであり、コミカルなプログラム上のグラフィックが餌や散歩をおねだりする大元の世界で云うと、○○○っちやら○○モンやらであった。

 勿論、その程度の携帯機ならば再現も可能だろう。

 違うのはアニメなどではお馴染み、携帯機から飛び出して〝本物のペット〟となる点であった。

 使用されているのも高性能AIだし、犬猫飼うより簡単という触れ込みもあってか、爆発的に売れる。

 携帯機上でお世話して、散歩はリアライズというのも可能とあっては、売れない理由など在りはしない。

 当然、そんなリアライズ技術なぞ取得が出来なかった某国に可能だったのは、精々が単なる携帯機としてチープな、偽物と呼ぶのも烏滸がましい代物。

 勝仁は、ユートが四歳になる頃に妻へと連絡して、ちょっとした留学をさせる決意すらしたと云う。

第一章:[再誕無用](2/12)
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 その日、清音と勝仁による仁義無き血で血を洗う様な戦いが勃発した。

「お父さぁぁぁんっ!」

「清音ぇぇぇぇっ!」

 二人は態々、樹雷の戦闘衣装に身を包んでエネルギー剣を展開しての戦闘。

 ガキン! ガキン!

 鍔迫り合いの音が眩しい訳だが、清音は正に本気で勝仁に剣を向けている。

 実の父親であろうと関係無く、清音の剣は勝仁の頭を心臓を容赦無く狙う。

「くっ! 血迷うでないわ清音ぇっ!」

 純粋な剣の腕前は当たり前だがきちんとした修業をしていた勝仁の方が上で、本来ならば清音では勝ち目など一パーセントも無い。

 だが然し、清音は正しく武人たる勝仁――柾木遙照に互する力量を見せ付け、勝仁も冷や汗を流す。

 血を分けた実の親と娘が本格的に斬り合うという、明らかにどうかしていると云える訳だが、勝仁からすれば行き成り斬り掛かられたから意味が解らない。

 已むを得ず応戦するより他に無く、しかも腕前的に上の筈の勝仁が押されているから余計に混乱する。

「いったい何なんじゃ!」

 受け止めつつ訊ねた。

「何で優斗をお母さんに売ったの!?」

「って、人聞きの悪い! 別に売った訳ではないわ! あの子には地球が狭い、なれば銀河アカデミーの方で勉強をさせようと思っただけじゃ!」

「母親の私に断りも無く、あの子を引き離すなんて! お父さんでも許さない! 今すぐ取り消して!」

「アイリも楽しみにしておるから今更無理じゃ!」

「取り消して!」

「無理じゃ!」

 二人の仁義無き戦いは、終わりを告げない。

「分からず屋!」

「どっちがじゃあ!?」

 再び振り降ろされる清音の光剣、迎撃に回る勝仁の光剣が振り上げられ……

 ガキィィィッ!

「「なっ!?」」

 真ん中に第三者が現れ、二人の光剣を受け止めた。

 偽・瞬撃槍(ラグドメゼギス・レプリカ)と偽・毒牙爪(ネザード・レプリカ)の二刀流、槍が勝仁の光剣を受け止めており爪が清音の光剣を受け止めている。

「「優斗!」」

 勿論、この武器を持つのは渦中の柾木優斗その人。

「二人して模擬戦――には見えないね。まさか親子で殺し合いは笑えないよ?」

 光剣とはエネルギーを別にする光の武器……それは遥か古に存在した【闇を撒くもの(ダークスター)】デュグラ・ディグドゥが生み出した五つの武器。

 然してその実態は魔王の武器にして魔族そのもの、原典では烈光の剣(ゴルン・ノヴァ)が光の剣という名前と姿を変えたモノが、

 赤の竜神の世界に齎らされており、カブリエフ家へと子々孫々に伝わっていた。

 アニメ版では颶風弓(ガルヴェイラ)も同じく存在していて、古竜族がひた隠しにしていたのが確認をされている。

 ユートはそんな【闇を撒くもの】の五つの武器の、精神力を抽出増幅して光の刃に変換する機能に特化をしたレプリカを造った。

 即ち――偽・烈光の剣、偽・毒牙爪、偽・破神鎚、偽・颶風弓、偽・瞬撃槍の五つである。

 偽・瞬撃槍はハルケギニア時代にタバサへ与えていたけど、現在は別の杖を持たせているので返還され、偽・烈光の剣は【デルフリンガー】を魔改造した物ではなく、改めて造った代物となっていた。

「で、何していた訳?」

「だって、優斗をお父さんがお母さんに売ったって」

「人聞きの悪い……」

 ユートの質問に清音が答えるが、勝仁からすれば余りにも余りなもの。

「若しかして婆さんの……アイリさんの所に行く話? 母さんは反対?」

「当たり前でしょう!? 私の優斗が汚されちゃう」


「いや、僕はアイリさんの所でナニをするんだよ?」

 況してやアイリ相手に。

 確かに柾木アイリ、旧姓マグマは美人かも知れないけど、ユートだって真性の人妻を相手に手を出したりはしない。

 清音? 彼女は母親なのだからまだ一桁歳なユートが甘えて何が悪いのか?

 因みに、そうはいっても可成り昔にドラクエ的世界に渡った際、天空シリーズDQⅣの時代に名前持ち、

 イラスト有りな連中を美味しく『戴きます』してて、その中には武器屋の奥さん二六歳も入っていた。

 原作的には知らないが、彼女は一六歳くらいですぐに彼へと嫁ぎ、一年後には息子を生んでいた訳で……

 息子は九歳だから二十代半ばという若さ。

 別口のゲームのイラストの侭、可成りの美人だったのでハッスルしてしまう。

 理由は武器屋が死亡し、それを蘇生する為の対価というやつだ。

 思った以上に使え……弱くて、ボンモールに行こうとしたらモンスターに囲まれてしまい、敢えなく死亡した武器屋を発見してしまったユートは、

 見なかった事にして彼女をモノにするなんて外道な事を考えたりはしなかったが、生き返らせる対価は必要だろうなと交渉をしたのである。

 勿論、十年来の夫を持つ人妻だから簡単に頷いたりはしなかったけど、実際に死んだ武器屋を見せたら涙ながらに頷いた。

 当時は権能も無かった頃だし、ユートが持つ蘇生の術は【世界樹の葉】だ。

 それ一枚切りだったし、貴重過ぎるアイテムをタダで渡す程、ユートも甘ったれた性格ではない。

 尚、彼女との関係は実に女としての性欲が落ち着く頃――三十代後半――まで続いた上に、娘まで宿してしまったのは誤算だった。

 娘は武器屋の子供として――武器屋は本当に自分の子供だと思い込んでる――育て上げられ、結婚を期に旅立った娘はユートの商売人的な教えを子々孫々にまで遺し、

 最終的には彼女の子孫が数百年後にサラボナ商人連合を創り、ルドマンの屋敷にその教えが額縁に入って飾られていたのを、ユートがフローラに連れられて来た時に発見。

 フローラと結ばれた為、血の繋がりこそ持たなかったにしろ、娘が先祖という意味不明な状況に。

 寧ろ、ルドマンとユートが遠い血縁だったり。

 勘違いが無い様に記述をしておくと、ユートには決して人妻萌えな趣味などは一切合切存在しない。

 しないったらしない!



 閑話休題



「母さん、僕が宇宙に上がるの反対?」

「当たり前でしょう!? 本来は成人するまで内緒の掟な筈なのに、お父さんってば何で教えたの?」

「う~む、じゃがのぉ? ユートは知っておったぞ」

「――え?」

 驚いた表情でユートの方を見遣る清音。

「本来、柾木――分家筋の正木に至っても宇宙だとか樹雷だとかの話は成人後、教えられるってのは理解をしているよ。

  柾木家の先祖である柾木遙照が樹雷星の人間で皇族だって事もね。それ処か爺さんこそが遙照本人だってのも知ってる」

「ぬおっ!?」

 それは聞かされてなかったからか、勝仁はやっぱり驚愕に目を見開く。

 プルプルと手が震えている辺り、可成り衝撃的事実だったのだろう。

 ユートが勝仁の正体を知っていると云うのは。

「その老人の姿が擬態だってのも知ってる。折角だし本来の姿に戻ってよ」

「ハァ……」

 諦めたのか、勝仁は擬態を解除して若々しい姿――遙照としての姿に戻る。

「天地には内緒だぞ?」

「ま、少なくとも知る機会が訪れるまでは言わない」

「そうしてくれ」

 誰かに見られても事だと姿を老人に戻す。

「然し、何故知っておったのじゃ?」

「そうね、私も流石にこの秘密は教えてないのに」

 二人からすれば不思議なのか、やはり訊かずには居れないらしい。

「銀河アカデミーに於いて魂の研究は普通に進んでいたよね? 正確に云うならアストラルについて」

「うむ、そうじゃな」

「魂が存在すると確定するなら、輪廻転生だって在る筈だよね? 事実、そうやって転生した者もこの世界には居る筈」

「ううむ、確かにのぅ……って、転生した者とは誰の事じゃ?」

「神木・瀬戸・樹雷」

「ぬあっ!?」

「確か――朱螺凪耶という人物の転生体で、記憶封鎖はもう解けている筈だね。第一世代の樹と契約している者には教えてるらしい。

  尤も、爺さん……柾木・遙照・樹雷は知る必要が無い立場だから教えられなかったみたいだけどね」

「ぐぬぬ!」

 樹雷の人間なら誰しもが苦手意識を持つ存在こそ、件の神木・瀬戸・樹雷という女傑である。

 四大皇家の一つ、神木家の者だが既に皇位継承権は放棄していた。

 だけど、彼女こそが樹雷の真なる支配者と言っても過言ではない。

 それだけ恐れられている存在であり、特に宇宙海賊からは恐怖の対象として、悪鬼羅刹の如く呼ばれる。

 【ZZZ】――撃滅宣言信号が発信されるとは即ち鬼姫のジェノサイドダンスが発令されるという事で、そうなれば海賊艦は文字通り殲滅されるだろう。

 彼女の存在がイコール、転生体の存在の肯定。

 魂の肯定だった。

 まあ、神木・瀬戸・樹雷はあらゆる意味で鬼門となる人物――愉快犯――だから遙照も苦手なのかも知れない……唸ってるし。

 樹雷皇たる柾木・阿主沙・樹雷すら頭を上げられない辺り、正しく樹雷の鬼姫の面目躍如か。

 とはいえ、ユートはそれなりに楽しみにしている。

 見た目は美人な訳だし、決して無意味な理不尽など与えない。

 〝無意味〟な理不尽は。

 彼女が与えるのは理不尽という名の試練なのだ。

 試練を受けさせられる側からすれば、巨大なお世話でしかないけど……

 とはいえ、相手が相手なだけにそう簡単には会えないのだろう。

 幾らユートが遙照の孫に当たるとはいえ、樹雷星からすれば身元不明の子供に過ぎないのだし。

「僕も瀬戸様と同じ転生をした者。但し、この世界の人間ではなかったし様々な世界を渡り歩いた事すらもある特殊な……ね」

「違う世界じゃと? ならば何故、この世界に転生をしたのじゃ?」

「津名魅に呼ばれて」

「なっ!?」

「津名魅様に!?」

 勝仁も清音も驚愕する。

「僕が世界を渡って本来の世界に回帰しようとしていた時だ、この世界の恐らく今より未来に呼ばれた」

「今より未来じゃと!? 何故、そう思う?」

「現代に存在しない人物と会ったから。その人物は、少なくとも僕と天地が高校生になる頃まで封印されていたからね」

「ま、まさか! 魎呼……なのか?」

「ハズレ。魎呼もその頃には復活を遂げて家族の一員だけど、会ったのは魎呼って訳じゃない」

「か、家族……」

「甚く天地を気に入ったらしいよ」

「……そうか」

 神我人のお人形さんに過ぎなかった魎呼だったが、その呪縛から解き放たれてアストラル体の状態で天地と過ごし、愛情を持つ様になったのだから驚きだ。

「ま、オフレコでお願い。歴史がずれたら大変だし」

「判ったわい」

「コクリ」

 二人は了承した。

「そういや、母さんってさ年齢は幾つ?」

「? 二四五歳だけど」

「げっ!」

 見た目には二十歳前後にしか見えないが、実の処は延命調整を怠っていたから天地が幼い内に死んでいる訳だし、享年が二四八歳だったから再来年には老衰にて亡くなる筈である。

 だが、ユートはそれを敢えて教えない。

 腹違いの弟となるであろう柾木剣士の誕生の為に、正木玲亜が柾木信幸と結婚して貰わないと困る。

 その為には言い方は悪いのだが、清音はお邪魔虫という事になる訳で……

「(まあ、原作と違って生き返らせる事は出来るし、エリシオンで暮らして貰えば良いかな?)」

 天地や、何より父である信幸には悪いが暫く独り占めさせて貰おうと、ユートは悪い笑みを心の中で浮かべていた。

 どうにも、ユートは若干ながらマザコンな部分でもあるのか、アリカの時といい清音の事といい母親への甘えが過ぎる。

 まあ、前々世では母親のユリアナ・オガタ・ラ・アウローラ・ド・オルニエールに余り甘えられなかった事もあり、ちょっと歳上な女性に甘えたいのだろう。

 実際、カトレアやネカネや玲亜には可成り甘えているのだから。

 お母さんやお姉ちゃん、そんな歳上な女性に甘えるユートだが、どうして謂わばマザコンやシスコン的な状態になるのか?

 実は訳がある。

 ハルケギニア時代には、カトレアを嫁に選んだ辺り歳上好きな部分があるかの様に思えるが、実はそういう訳では無い。

 ユートの歳上好きな部分というのは、前世――スプリングフィールドだった頃に三歳のユート・スプリングフィールドと融合したのが切っ掛けである。

 いっそ不自然なくらいにネカネにモーションを掛けたのも、三歳児ユートとの融合を果たした後だ。

 融合したからどうしても人格に影響が出てしまう。

 ピッコロがネイルと融合した後、ベースは間違いなくピッコロだけどネイルの影響が出ていた様に。

 だから実姉である天女が清音の代わりに来た際に、それこそ思いっきり甘えて魅せている。

 その所為か天女がちょっとブラコン気味だ。

「母さん、僕には種々様々な知識が在るけど主な知識はファンタジーに属しているものなんだ。銀河アカデミーでサイエンスに属する知識を少しでも増やしたい……それが僕の願い」

「優斗は行きたいの?」

「爺さんだけの独り善がりじゃない。僕も行きたいと思っている」

 こうもはっきりと言われてしまっては、清音だって可愛い息子の一人のたっての願いを無碍に出来ない。

「解ったわ。不本意だけど……ほんっとーに! 不本意なんだけど! 優斗……貴方をお母さんに預ける」

 スゴい不満そうな表情で搾り出す様に言う。

「ありがとう、母さん! 大好きだよ!」

 ユートがそう言いながら抱き着くと……

「ブフーッ! 我が生涯に一片の悔い無しぃぃっ!」

 鼻血を噴いたと云う。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 話はついたし勝仁とは先の事を話し合う。

「さて、妻――アイリには話を通しておく。じゃが、船の方はどうするかのぅ? 何ならアイリに迎えに来て貰おうか?」

「ん、大丈夫。宇宙船なら持っているから」

「な、何じゃと!?」

 驚愕するのも無理からぬ事だろう、三歳児が宇宙船を持っているなどと誰も思いもよらない。

 転生の事実を勝仁が知らなければ、絶対に信じられない話なのだから。

 ユートが持つ宇宙船――アウローラというキレイな名前が付けられているが、その真実は【神魔因子保有艦シャブラニグドゥ】という異世界の魔王の名前を冠していた。

 そして、同じ様な魔王の名前を持った艦船がユートの識る中に存在する。

 即ち、【生体殲滅艦デュグラ・ディグドゥ】だ。

 その艦船を産み出したであろう先史文明の人間達、彼らからしても更に大昔の神代に存在してたとされ、神々や天使と相争ったのがつまり魔王。

 【闇を撒くもの(ダークスター)】の二つ名を持つデュグラ・ディグドゥは、【漆黒の竜神(ナイトドラゴン)】ヴォルフィードと世界の覇権を賭けて戦う。

 その最中、彼の魔王が自ら生み出した五つの武器は魔王の手から離れ、その後に烈光の剣(ゴルンノヴァ)】は復帰。

 そいつを天使キャナルが使用、デュグラ・ディグドゥを討ち果たしたと神話に語られている。

 先史文明人はその神話に伝わる魔王とその武器――【烈光の剣】【瞬撃槍】【毒牙爪】【破神鎚】【颶風弓】の名前を与えた。

 結果、六つの艦船は闇に堕ちて先ず最初に生み出した連中を抹殺する。

 その後、敵対する勢力が造った艦船――【戦闘封印艦ヴォルフィード】と相討ちの形で眠りに就いた。

 それを承知でユートは敢えて神ではなく魔王の名を艦船に与え、今もこの艦船を使って活動をしている。

 技術的には魔王や神の名を冠した先史文明時代による艦船と同格、即ちユートが持つ艦船とは少なくとも遺失宇宙船(ロスト・シップ)と性能面的に互角以上だという事。

 まあ、〝その程度〟では第三世代の樹を持つ皇家の船にすら敵わないが……

 デュグラ・ディグドゥの生体殲滅能力――システム・ダークスターをキャンセル出来るかどうかは兎も角としても、

 単純な艦船としての機能面で云うのなら、遺失宇宙船と皇家の船では後者の方が強い。

 強力な能力を付与された遺失宇宙船ではあるけど、所詮は人間が造った艦船でしかないからだ。

 対して、皇家の船というのはガワだけなら人間が造った代物だが、心臓部たる皇家の樹は超越存在(オーバーロード)の一部と言っても過言ではない。

 それも自らを全知全能と謳う創成神クラスの。

 とはいえ、そんな自らより高位存在が在ると自覚、全知全能に矛盾するそれの解消の為に奔走しており、ある意味で人間臭い。

 そんな神と呼ばれている彼女ら――長女たる鷲羽、次女の津名魅、三女である訪希深の力は光鷹翼と名付けられたエネルギーが力の源だとされており、

 津名魅の分け身たる皇家の樹にもこれを発生させる事が可能となっている。

 但し、独力による発生は第一世代と第二世代まで、第三世代は複数が集まって可能となり、第四世代以降は御察し下さい。

 兎も角、皇家の船はこの皇家の樹と契約した者しか扱えず、しかも第一世代は銀河すら破壊が出来るのだとデータ上では云われる。

 そんな船と人間が造った遺失宇宙船、第四世代以降はどうか判らないのだが、少なくとも第三世代までなら間違いなく皇家の船の方が勝つだろう。

 そう、世二我の技術の粋を凝らして造り上げられたという惑星規模艦ちょび丸が魎皇鬼には、成す術も無く蹂躙された様に……だ。

 だから、ユートが持っているシャブラニグドゥも、皇家の船の何世代までなら抗し得るのか? それは、ユートにも未知数だ。

 尤も、この世界に転生するに当たり津名魅から貰った特典ならば、間違いなく第一世代にも勝てるが……

 数日後、漆黒で生物的なフォルム――竜に近い――をした先端に赤い眼みたいなモノが不気味に輝く艦船【神魔因子保有艦シャブラニグドゥ】が、

 銀河アカデミーに向けてフェイズシフトをしたと云う。

 見送りの清音は滂沱の如く涙を流しながら、大きく手を降っていたらしい。

第一章:[再誕無用](3/12)
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 宇宙――

 それは冷たい現実と暗い闇の果て。

 宇宙――

 それは新たな開拓地。

 宇宙――

 それはスペースオペラの舞台装置。

 ユートがシャブラニグドゥで宇宙(そら)に上がってから一日が過ぎ、だが然し未だに木星近辺をゆっくりと移動していた。

 単純に身体を休めるべく邸の部分――ハイスクールD×D世界でも使っていた――で寝ていたというのもあるが、ザ・パワーとかが採取出来ないかな~? と益体も無い事を考えていた結果でもある。

 因みに、【ザ・パワー】とは【勇者王ガオガイガー】に於いてラスボスであるZマスターが求め、挙げ句の果てにガオガイガー達のパワーアップにも使われた謎エネルギーである。

 謎エネルギーって何だ? とか思うが、実際に木星に在るという事だけで詳細は不明だったのだからどうにも、如何ともし難い。

「ガガガ……」

 愉しげに唄いながら木星に生身で近付くユート。

 小宇宙のフィールドを張っているからか、如何なる宇宙線もユートを害する事は叶わず、そして木星が持つ重力すらユートには強い影響が無かった。

 また、背中には光耀いている翼みたいなモノ。

 それは光鷹翼だ。

 津名魅との接触を切っ掛けとし、ハルケギニア時代にも二枚を展開出来たが、

スプリングフィールドへと転生してから三枚に増え、樹雷の血族――しかも直系だからか今や六枚も展開をする事が可能。

 更にユートは宇宙服代わりに【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】を禁手化した鎧を纏っており、正に無敵に素敵な状態だったりする。

 木星の重力や厚い大気圏すらものともせず自由自在に出入り出来、そもそもが界王星でも自由に動けていたユートが今更、木星での重力を問題にする筈ない。

 まあ、木星はガス惑星だから地表を歩くという行為は現実的ではないが……

 実際、ユートも木星内部では飛行しているのだ。

 因みに、DB世界で得た特性は転生後に消えていた為に、今はフリーザみたいな真似は小宇宙無しでやるのは難しい。

 また別のDB世界にでも行って、願いを叶えて貰おうかと考えている。

「ザ・パワーは無いか……受容世界ならまだ兎も角、こういった世界なら在っても不思議じゃないけどな」

《ユートは何を期待して、わざわざこんな惑星にまで降りたのだ?》

「う~ん、貴重なエネルギーとか在ったらな……って思ったんだよアルビオン」

 鎧を形成する神器に宿る魂は、二天龍と呼ばれていた龍の一角――バニシング・ドラゴンのアルビオン。

 そのアルビオンは鎧状態なら会話も出来る。

 普段は眠っているけど。

「ま、折角だし木星の資源を回収しておくか」

 ユートは右腕を掲げ――

「アイテム回収!」

 その言葉を口にした。

 次々と木星資源が回収されていく。

 それこそ、ガンダム辺りで何年も掛けて獲られるであろう資源の数百倍が。

 流石に木星全てを資源化してしまうと、地球で観測されたら大騒ぎになるし、飽く迄も程々に。

 だが、少なくとも百年は地球が資源に困らないだけのモノは獲られた。

 いや、別に地球の為って訳ではなく自分が使うだけなのだが……

 再び宇宙を行く。

「そろそろか。サイ・システム接続……サイ・エネルギー充填開始。相転移航法(フェイズシフト)起動!」

「相転移、起動します」

 遺失宇宙船に大概に装備されている相転移航法で、更にサイ・システムというソードブレイカーに装備をされていたエネルギーシステムも存在する。

 ソードブレイカーというより、【戦闘封印艦ヴォルフィード】は担い手の正の精神エネルギーを抽出してエネルギー源として転換を可能としていた。

 故に、サイ・システムに接続をする事でユートから精神エネルギーを抽出し、フェイズシフト・ドライブを起動したのだ。

 まあ謂わばワープというやつな訳だが、幾ら何でも一回で目的地に着く筈もないから、数回に亘るフェイズシフトが必要だろう。

 三度目の相転移が終了、その途端に警戒警報がビービーと鳴り始める。

「シェーラ、どうした?」

「前方から、ランダムジャンプと思われる次元湾曲を確認した!」

「ランダムジャンプ?」

 指定された座標を正しくランダムにワープするという行為だが、それを行うという事は可成り切羽詰まった状況に追い込まれているという事。

「識別は?」

「……GPだ」

「ギャラクシーポリスか」

 GP――ギャラクシーポリスとは、銀河の平和を護るべく活動する警察組織。

 元々は樹雷やデビルークと並ぶ軍事国家・世二我の私設軍が中心となっていた組織だが、治安が安定していき軍備縮小から今現在は警察部門の一組織扱い。

 まあ、中心人物が世二我の人間ではあるが……

 運輸業もして活動資金を獲ているらしい。

〔此方はギャラクシーポリス〇三九二部隊、二〇八小隊所属艦隊。そこの民間機……早くこの宙域から離脱をしたまえ!〕

「此方、民間旅行艦アウローラ……離脱とは?」

〔現在、我々はダ・ルマーギルドの海賊艦に追われている! 此方で足止めをするから早く逃げなさい!〕

「足止めって、追われて逃げてるんじゃ……」

〔民間人を護るのは我々、ギャラクシーポリスの任務なんだ!〕

 どうやら職務にプライドを持っているらしい。

 ユートとしても好感を持てるプライド、ならば救うくらいはしても良かろう。

「此方の後ろへ全速力で回り込め!」

〔な、何だと? どうする心算なんだ!〕

「此方で海賊は片付ける」

〔む、無茶な! 概算だけで二十は居る艦隊だぞ?〕

「問題無い。巻き込まれたくないなら急げ!」

〔くっ!〕

 どの道、何も出来なくなった艦だから言われた通りに動くしか無い。

「マスター、前方で多数のフェイズ・アウト反応!」

「シェーラ、魔砲システムをスタンバイ」

「了解、【魔砲システム】を起動する」

 中央の砲頭が伸びる。

 まるで赤い瞳の如く輝くそれは、何かを発射するには不適切な状態。

「詠唱を開始する」



 黄昏よりも昏きもの
 血の流れより紅きもの
 時の流れに埋もれし偉大な汝の名において
 我ここに闇に誓わん
 我等が前に立ち塞がりしすべての愚かなるものに
 我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを!


 ユートが目の前に展開された魔法陣へ、詠唱をした魔法を叩き込んだ。

「喰らえ、竜破斬(ドラグスレイブ)!」

 GP艦の艦長らしき男性が言う通り、二十を越える艦隊がジャンプしてきたが正に出落ち。

 赫い爆光に巻き込まれ、全艦が消滅の憂き目に遭ってしまったのだから。

 【竜破斬】――スレイヤーズを識るなら常識レベルで有名な魔法、【赤眼の魔王シャブラニグドゥ】から力を借りた黒魔術の中でも最高峰となり、

 主人公たるリナ・インバースが得意としている魔法でもある。

【神魔因子保有艦】の名が示す通りで、ユートの艦シャブラニグドゥはスレイヤーズ世界の魔族と神々の因子を内包し、その存在力に呪文詠唱で干渉をして、魔法へと変換を成す。

 嘗て、ハルケギニア時代に跳ばされた世界の一つ、即ち【スレイヤーズ】世界の最初ら辺、ユートは盗賊イジメで旅費を稼いでいてリナ・インバースと邂逅。

 その後は陰に日向に着いて行き、現れた魔族の因子を集蒐していった。

 但し、当たり前だが覇王将軍シェーラとだけは合わない様にしていたが……

 この艦に搭載されている【魔砲システム】とは――そうして集めた因子在っての主砲とはまた異なるが、強力無比な攻撃システム。

 何しろ、ダ・ルマー艦隊はバリアの類いを展開しながらも【竜破斬】の前に、物の見事に滅ぼされてしまったのだから。

 GP艦の艦長らしき男性も驚愕したのか、音信不通な状態となっている。

 因みに武装はソードブレイカー準拠となっていて、リープレールガンと主砲にはプラズマブラスト、シールドもサイ・バリアだ。

 それだけでも現代宇宙的な科学力を凌駕しており、ダ・ルマーギルドの艦隊では万が存在しても恐くないレベルだろう。

 但しやはりと云おうか、樹雷皇家の樹をコアユニットとした皇家の船、少なくとも第三世代艦までならば確実に敗けてしまう。

 神のエネルギーでもある光鷹翼が相手となっては、流石のシャブラニグドゥも魔砲で抜けないだろうし。

「さて、連中は消してしまった訳だけど……拙かったかな? GP的には」

〔いや、支援に感謝する〕

 空中に浮かぶ仮想ディスプレイに現れた艦長だが、中々にダンディーな人物。

〔本来なら同々願いたい、然しそれも義理に欠くな。ダ・ルマー艦隊は宇宙嵐に遭って遭難したとしよう〕

 見た目を十六才に変えたユートを見て、艦長は頷きながらも言ってきた。

 まあ、助かる提案だ。

 これでユートは無駄になる時を過ごさずに済むし、GPも民間機に救われたという恥は無かった事に。

 お互いに納得した話で、GP艦は離れて行く。

 ちょっとしたイベントを越えたユートは、すぐにも自動操縦に切り換えると、個室の有る区画へ急ぐ。

 ユートが呼鈴的なブザーを鳴らすと、プシューッという音と共に扉が開いた。

「霧姉、大丈夫だった?」

「う、うん。だけどさっきの警報は何だったの?」

「宇宙海賊だよ。GP艦が宇宙海賊の艦隊に追われていたのを助けたんだ」

「そ、そうなんだ……」

 霧姉――本名は正木霧恋という黒髪の少女、分家筋の正木家に属している。

 ユートよりは三つばかり歳上で、原作の開始頃だと二十歳になったばかり……の筈だ。

 尤もそれは地球換算による生理年齢だけど。

 今は数えで七歳という、本来なら宇宙に関連している事情は教えられないが、柾木勝仁がユートを一人で宇宙に上げるのを不安に思ったらしく、

 歳が比較的に近い歳上の女の子といったコンセプトで捜した結果、霧恋に白羽の矢が立った。

 分家筋であるが故に世話をする者として選ばれて、未だに小学二年生ながらも宇宙関連、樹雷関連を教えられて宇宙に上げられたのは果たしてどうなのか?

 唯、ユートに関わる事になったのは〝本来の未来〟が無くなった事を意味し、つまりはGXPでの出来事に深く関わらなくなってしまったという。

 その結果として未来での〝あの四人一組〟が成立をしなくなり、他にも誰かしらが抜ける可能性もある。

 まあ、四人一組は霧恋達だけではないから、大きな問題ではないかもだが……

「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫、霧姉の事は僕が護るから……ね?」

「う、うん」

 幼い身に歳下が相手だとはいえ、大人びたユートの言動にはドキドキと胸が高鳴り、頬が朱に染まってしまう霧恋。

 分家筋だから本家からの要請に断れなかったけど、霧恋自身もちょっとだけだが宇宙に期待していたし、戯れとはいえ本家の少年と縁を得られたのはある意味で良縁と考えられている。

 期待と不安が綯い交ぜとなっているが、霧恋はこの幼い騎士様の胸に顔を押し当てながら、安らぎみたいなものを感じていたとか。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 銀河アカデミー。

 それは惑星系を丸々一つを使った大規模な学園で、嘗ては樹雷皇立アカデミーだったのが、約二万年前に独立を果たしている。

 柾木・遙照・樹雷も若い頃に通っており、現在の妻である柾木アイリとは此処で出逢った事を、ユートはきちんと把握していた。

 問題が無い訳ではない。

 分家筋の正木家については既知だが、ユートが知るのは正木太老という未だに誕生してない赤ちゃんと、

 その母親たる正木かすみと恐らく民宿だろう、名前は識らないけど婆さんが居たのは理解している。

 だが、正木霧恋の名前は原作の知識には無かった。

 ユートがよく識る原作、【天地無用! 魎皇鬼】と【天地無用! TV版】と【新・天地無用!】と【異世界の聖機師物語】だ。

 一応、【天地無用! GXP】も存在だけは識っているのだが、アニメなどは観た事が無いから主人公が柾木ではないくらいだし、それに関連した機体の登場する噺も観ていない。

 万が一、そっち関係だったらユートは確認のしようが無かった。

 シャブラニグドゥが入港して、ユートと霧恋は入国審査の為にステーションへと向かう。

 入国審査そのものはアッサリと終了し、ステーションを出ると其処には二人の――女性と少女が立って、ユートと霧恋を見ていた。

「初めまして、Ms.アイリ……と?」

「初めまして、私は貴方達の案内人を務めさせて頂きます。ティアーユ・ルナティークです」

 頭を下げる金髪少女――ティアーユ・ルナティークと名乗ったが、その容姿は何処ぞの生体兵器そのものであり、名前はとある漫画に登場した人物のもの。

 元殺し屋が主人公だ。

 確かあれでも似た設定であった生体兵器と関わり、色々とあったとは思ったけど流石に忘れた。

 とはいえ、まあ良いかとユートはティアーユを見てそう考える。

 今はペッタンな胸だが、将来的には大盛りになると確約された様なものだし、美少女には違いない。

「そう、Ms.ティアーユ。僕は柾木優斗、それで此方は正木霧恋……宜しく」

「はい、宜しくね」

 二人はガッチリと握手をして挨拶を交わした。

「それで優斗ちゃん、流石にMs.というのは堅いわ」

「……そうですか? ならアイリ様……とか」

 ピクリと口元を動かし、行き成り抱き締めてくる。

「もう、可愛いわぁ!」

「うぶっ!?」

 三歳児としてみれば背丈もあるが、やっぱり小さな肉体には違いがない。

 アイリの胸にユートの顔が埋没して息苦しくも感じているが、この世界の延命調整故に祖母とは思えない若さに溢れたアイリの胸、服越しにも解る張りと柔らかさはとても心地好い。

 この辺、まだ幼い霧恋やティアーユでは敵わないと云える部分だ。

 尤も、ティアーユは越える可能性が窮めて高いし、霧恋だって或いは……

「それで? 理事長が自ら来たのはMs.ティアーユを案内役に紹介する為?」

「それもあるわ。だけど、清音の子供を……私と遙照の孫を見てみたかったというのが大きいわ。もう一人は未だに子供処か相手さえ見付からないし」

 ボソリと呟いたもう一人……つまり柾木水穂だろうけど、やはり設定から識る通りに七百年間の独り身という事らしい。

「それにもう一つ……」

「もう一つ?」

 漸く解放したかと思えば話を続けてきた。

「貴方が乗ってきた宇宙船を見たくてね」

「シャブラニグドゥを?」

 尚、あの艦には二つ名前が与えられている。

 一つは【神魔因子保有艦シャブラニグドゥ】だ。

 そしてもう一つが――【機動光覇艦アウローラ】。

 名前の意味は極光。

 ソードブレイカーのガワを被った【戦闘封印艦ヴォルフィード】だった様に、【機動光覇艦アウローラ】は【シャブラニグドゥ】がガワを被った偽装艦だ。

 違いはソードブレイカーの中身が光側の名前を与えられていたのとは異なり、アウローラの中身は明らかに魔王――闇側であったと云う事だろう。

 そして、アイリはGP艦が民間機に救われたという情報を既に得ており、それがユートの艦だというのも理解をしていた。

「成程……案内しますよ」

 ドックへ逆戻り。

 其処に停泊した黒い艦、それがシャブラニグドゥ。

「何処か有機的なフォルムをしているわねぇ」

 生物を思わせる有機的な外装、【赤眼の魔王(ルビーアイ)】の二つ名を持つ魔王の名前――シャブラニグドゥらしくまるで赤い眼が睨む様なそれは丸で悪魔の如く、そして竜の如く。

「それで聞いた話では赫い光がダ・ルマーの艦隊を貫いて、爆光に呑み込まれたというけれど……それが、主砲だったのかしら?」

「いや……主砲はプラズマブラストといって全く別の兵装だよ」

「じゃあ、いったい?」

「【魔砲システム】」

「ま、魔法?」

 驚愕するアイリ。

 当然だろう、この世界に魔法なんて現象が果たして認められているか?

 流石に『オカルトは全てプラズマで説明出来る』とは云わないが、基本的には『行き過ぎた科学は魔法と変わらない』といった感じであろうか?

 未開惑星にならオカルトも在るだろうが、それが即ち魔法に繋がる訳でもないから未発見だろうし。

「そういった事例が無い訳でもないでしょう?」

「事例?」

「皇家の樹」

「っ!?」

「あれのバックアップを受けるのも、実は魔法みたいなものなんだよ?」

 魔法とは何ぞや?

 魔力を行使して様々なる存在から力を借り受けて、若しくは〝魔力〟そのものを運用して超常現象を引き起こす【魔を律して法則を歪める力】とユートは定義している。

 まあ、嘗てユートが行った世界の一つに〝超能力〟から派生したモノを魔法とするというのがあったが、それはそれとして……だ。

 それは兎も角……

「世界には『奇跡も魔法も在るんだよ』ってね」

 救いは無いけど。

「優斗ちゃんは魔法が使えるって事?」

「勿論、使える。【魔砲システム】は砲撃手が魔法を使えないと意味が無い」

「なら、どんな魔法だったのかしら?」

「魔王【赤眼の魔王(ルビーアイ)】シャブラニグドゥの力を借りた黒魔術……【竜破斬(ドラグスレイブ)】という」

「シャブラニグドゥって、艦の名前よね?」

「そう、僕の艦に付けたのは古の魔王の名前。主に使うのが竜破斬だからね」

「……じゃあ、ちょっと使って見せてくれる?」

 まあ、言ってくるだろうとは思っていた。

 一番の確認はやはり百聞は一見に如かずだろうし。

「此処で? 破壊力の低い魔法なら未だしも、流石に竜破斬だとこの港を破壊してしまうけど」

「そう? なら簡単なのでも良いわよ?」

「ふむ、ならアレだな」

 ユートは右腕を前方へと水平に掲げると……



 凍れる森の奥深く荒ぶるものを統べるもの
 滅びを誘う汝の牙で我らが前を塞ぎしものに
 我と汝が力もて滅びと報いを与えんことを



 呪文の詠唱を行う。

 アイリはそれなりに様になる姿だと感じ、ディアーユはちょっと吃驚しているみたいだ。

 霧恋も初めて見るが故に目を見開いている。

「獣王牙操弾(ゼラス・ブリッド)!」

 輝く光の帯が顕現して、ユートの意の侭に動く。

 当たれば威力はデカイ、だけど意の侭に動かせるから無用な破壊はしない。

「確かにこれもその気になれば科学でやれるだろう、だけどこれは僕の魔力を使った上で、

  高位魔族である獣王ゼラス・メタリオムの存在力に干渉、術と化したモノだから間違いなく魔法と呼ばれる現象だよ」

 そう言うと術をキャンセルして消した。

 正直、この世界で個人が扱う能力としては科学の方に軍配が上がりそうだが、直撃さえすればバリアくらいなら貫通したり破壊したり出来るし、無用の長物とはならないだろう。

 とはいえ、獣王牙操弾を使えたのは【神魔因子保有艦シャブラニグドゥ】に、獣王ゼラス・メタリオムの因子が籠められているからに他ならない。

 マジックとサイエンスの融合、ユートとユーキによる研究は未だに完成していないが故に、折角来たのだからこの銀河アカデミーで研究をしたい……それこそがユートの目的であった。

第一章:[再誕無用](4/12)
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 銀河アカデミーに着いたユートと霧恋は、案内役のティアーユ・ルナティークに連れられて住むべき場所へと向かう事に。

 転送ポートからの一気にジャンプ、そもそも銀河アカデミーは星系をまるごと一つ使っており、観光をするにしても本格的にやれば二百年は掛かるとか。

 そんな場所だからこそ、移動には転送ポートや車や飛行機は当たり前。

 連れて来られたマンションはユートと霧恋が二人で住むには大き過ぎるけど、既に家具などもアイリからの好意で揃えられてるし、食材なんかも一ヶ月分以上が倉庫に仕舞われていた。

 であるからには、住むのを拒否る訳にもいかない。

 という訳で有り難く住まわせて貰う事にした。

 基本的に身の回りの世話を託された霧恋が家事などを行い、ユートは勉強やら研究やらに力を入れる事となるであろう。

 幸いにも工房を創れる様な環境――空っぽな地下室も存在していたからこそ、研究はマンションでも可能という状態だし、ユートには前世で幾つか手に入れたダイオラマ魔法球が在る。

 この中では外での一日が三〇日間という、三十倍の時間経過設定が成されているから、十二日も篭っていれば三六五日――約一年間くらい経過してくれる為、自分の生理年齢を引き上げる事も可能。

 一ヶ月で約三年。

 一六歳になるまでに一年も掛からない訳だ。

 見た目は幾らでも変えられるのだから、取り敢えずは一六歳までは成長をさせる心算でやっていく。

 一三年分をスキップする為にも必要不可欠だ。

 研究だけでなく鍛えたりもしなければならないし、最低限の身体は欲しい。

 わざわざ、向こう側から機会をくれたのだから活用して然るべきなのだから。

 生体強化無しで樹雷星の闘士を圧倒し、延命調整無しでも不老長寿が必要。

 不老長寿は今で間に合っているから、取り敢えずは現段階でも【瀬戸の剣】は倒せる様になりたかった。

 ユートはいつもの通りではあるが、この手に欲しいモノが存在している。

 それはナニか?

 地位? 名誉? 金?

 否だ、否否否否否否否否否否否否否……それは断じて否なのである。

 金なぞ稼ぎたければ幾らでも稼げる当ては在るし、名誉なぞは適当にやっていれば降って沸いてくるモノであり、

 地位……は欲しいモノを手に入れる為の手段だから然るべき時に手に入れるだろうが、所詮は目的の為の〝手段〟だ。

 樹雷皇家の樹は?

 あれは第一世代なら計算上は銀河すら吹き飛ばすとさえ云われるが、ユートにとって【樹選びの儀式】は不要でしかない。

 ならばナニが欲しい?

 それは女だ。

 それも場末の女なんかではなく、それこそ極上なる女が欲しい。

 俗物? 当たり前だ。

 ユートの性欲は三歳児に過ぎない今でさえ強くて、深く眠らせた母親たる清音の身に付けた寝間着をはだけさせ、

 惜しみ無く露わとなった双丘の狭間で屹立した分身を擦り、性欲を解消していたりするくらいだ。

 因みに、偶に入れ替わっている柾木天女も知らず知らずの内に被害に遭っていたりするが、寧ろユートは『天女姉』にはお口も使っていたりして。

 完全な身内だから流石にヤりはしないけど、隣にて添い寝をされて抱き締められてしまうと、ユートとて女の匂いに理性が飛びそうになるのだ。

 どうにも、クトゥルーに犯された影響は転生する毎に強くなるらしく、前世では幼い時分にこんな性欲は無かった筈だし、

 身内への性欲過多も最低限で四親等は離れていたのに今生は、三歳になる少し前から清音の匂いで屹立してしまったのに驚いた。

 勿論、性欲が強まるのは分身が屹立した場合。

 普段からヤりたいとか、そんな性欲魔人ではない。

 問題は銀河アカデミーに来たからには、そんな性欲を前面に押し出してしまう訳にもいかないという事。

 霧恋を使えば良い?

 分家――遠いながら血筋とはいえ、母親の清音とか姉の天女とは違って他人、ユートも赤の他人に睡姦をかます程に外道ではない。

 せめて恋人や愛人とまではいかなくとも、霧恋本人がユートへ一定以上の好意を懐いてでもなかったら、絶対に有り得ない事だ。

 霧恋の今のユートへ懐く好感度は――『本家の歳下な男の子の一人』程度。

 間違っても清音や天女にしている事など出来ない。

 というか、霧恋はそもそもまだぺったんこだし。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アイリはユートが使った魔法を、様々な計測器などを使って多角的に検証をしていた。

 眼鏡を掛けて空中に多数が存在するソリッドモニターに目を釘付けにしつつ、兎にも角にもデータを調べて調べて調べ尽くす勢いを以て睨み付ける。

「有り得ないわ」

 魔法。

 科学が万能にも近い力を示す世界、其処に魔法とか云われても実感が沸かないのが普通だったが、

 アイリが調べた限りでは科学的には何も無い筈の其処には、ユートが魔法と呼ぶ力場が確かに形成されていた。

 実際、地球人から見ればアイリ達がやっている事、その悉くが魔法にも見える事だが、全てには種が存在する科学なのだ。

 ナノマシンやデバイス、服にだって仕掛けが沢山と明らかに魔法ではない。

 ユートが曰く、皇家の樹から力を借り受けるのは、魔法と同じだとか。

 確かにあれを科学と呼ぶのは憚られる。

 艦船やコアユニットなど科学を用いてはいるけど、皇家の樹からバックアップを受けたり、光鷹翼を形成したりするのは確かに御伽噺の魔法っぽい。

 それに始祖の樹の津名魅は祖国アイライが、自分達の神に祭り上げようと画策したくらい、神様と呼べる高位次元生命体。

 ユートは神や魔王から力を借り受けるのが魔法だと語っていたし、その定義に基づくなら確かに皇家の樹からのバックアップは魔法としても良い。

「それに……呪文詠唱……この一瞬だけシャブラニグドゥからバックアップを受けたみたいな感じね」

 ユートが詠唱をしている間に、艦船シャブラニグドゥから力を引き出したみたいなデータが在った。

 そして、【力ある言葉】と共に力場を発生させる。

 成程、魔法と呼べるものだとアイリは思った。

 しかも間違いなく見えているし、干渉もしている筈なのに……計測器が計測をしているというのに何故かそれが有り得ないといった結論にさえ達する。

 アストラルまでは確かに計測されている筈なのに、其処から先がエラーという訳の解らない状態。

「そもそも、呪文詠唱とか云うのも意味が解らない」

 試しにユートが言っていた呪文を、アイリも解析をして唱えてみたのだけど、魔法は発動しなかった。

 その言葉は何処の国――或いは星の言語かも理解は出来なかったが、真似て喋るのは可能だったからこその実験である。

 ユートが紡いだスペル、それは【混沌言語(カオス・ワーズ)】と呼ばれて、【スレイヤーズ】の世界で当たり前に使われる言語、

 だけどスペルを詠唱したからといって、其処にスペルの対象が存在するからといって魔法が使えるかというと断じて否だ。

 そもそも黒魔術は高位の魔族の存在力に干渉して、其処からスペルを元に精神力を消費し、違う理を現界させて放つというもので、詠唱だけでは使えない。

 アイリがユートを真似だからといって、それで魔法が発動なんてが事ある筈もなかった。

「これは優斗ちゃをから、色々と話を訊かないと駄目……かしらね?」

 現象として魔法は間違いなく存在し、ユートに使えるなら他に使える人間が射てもおかしくない。

 アイリにも時間は数千年とたっぷり有る訳であり、新しい研究に【魔法】というのも悪くないとくつくつと笑みを浮かべていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法に興味を覚えていたのはアイリだけではなく、やはり銀河アカデミーへと在学するだけあり、自分なりにユートが魅せてくれた魔法を見直すティアーユ。

「魔法、精神力を媒介にして力を何処からか引き出してきて、それを言葉というか一種の言霊で結果を誘引させるチカラ……か」

 派手さは魔法の特性上、大したモノではなかった。

 だが、秘めたエネルギーはGPで採用されたバリアをすらも軽く消し飛ばし、本体をも消滅が可能なくらいの力を内包している。

 余りにも余りなエネルギーにティアーユも驚愕し、わざわざ詠唱するなど欠点を鑑みても凄まじいものと感じ入ってしまう。

 ティアーユの専行するのは生化学系で、魔法は微妙に専行外ではあるものの、全く違う体系に少しばかり魅せられていた。

 ナノマシンを使ったり、それで魔法と似た原理を使えはするだろうが、それは魔法とは似て非なるモノ――贋作に過ぎない。

 本当に魔法を使えたなら或いは、研究中のモノにも応用が可能かも? というのがティアーユの考え。

「プロジェクトEVE……上手くすれば。こうなるとアイリ理事長に感謝だわ。案内役だから誰よりあの子の近くで見られるもの」

 柾木優斗は宇宙に於ける魔法のパイオニア、ならば傍に居れば魔法に関しての情報も得られる筈。

 ティアーユは少しだけ、楽し気に笑った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 正木霧恋は宇宙に初めて上がる際、柾木家の事情を柾木勝仁より聞かされる。

 七〇〇年前に鬼を討って封印した剣豪の柾木遙照、彼がその土地の娘と結ばれて腰を据えたのが柾木神社一帯、

 本家の柾木家は神社を中心に暮らしていたし、分家筋となる柾木遙照と霞の子孫は隠れ里みたいな村で暮らしている。

 今現在は、一般人も入っているから隠れ里とは云えないが、それでも七〇〇年の伝統を守り生きていた。

 だが、まさかそれが宇宙に関わるとは思わない。

 しかも柾木遙照は今尚、生きていて柾木本家に存在しているなどと。

 柾木神社の宮司をしている馴染み深い老人こそが、七〇〇年前に魎呼と魎皇鬼を封じた剣豪、柾木遙照ときかされた時は驚いた。

 それに遙照の連れ合い、それが宇宙で銀河アカデミーの理事長をしていると、それもまた驚愕する。

 世話をする相手の優斗、それは柾木遙照とアイリの次女の柾木清音の次男坊、正に伝説の剣豪の孫であると云う事実。

 本来なら成人して初めて教えられる筈の情報だが、ユートの世話役に任命された事で先んじて教えられ、頭がパンクしそうである。

 因みに、証拠だとか言って勝仁の真の姿をみせられてまた吃驚した。

 生体強化と延命調整――実は柾木清音も二百歳を越えているし、

 婿入りをした旧姓正木の柾木信幸ですら既に地球人なら老齢な域に達していると聞かされて、地球人としての常識に皹が入ったのは間違いない。

 百歳を越えているらしいから、隠れ里であった土地以外に住むにはちょっとといった感じな筈が、建築家として普通に会社を興している訳で、惚けた顔ながら意外と遣り手らしかった。

「優斗ちゃん、朝ですよ」

 分家筋だから取り敢えず様付けで呼ぼうと思っていたのだが、本人から堅苦しいのは要らないと言われ、『ちゃん』付けで呼ぶ事になる霧恋。

 ちょっとアレだったが、気安く呼べるのは助かる。

「ひうっ!?」

 初めての朝、普通に部屋に入って起こそうとして、霧恋は固まった。

 素っ裸で何も着ていないユートが、お腹にタオルケットを掛けただけの状態で眠っていたからだ。

 しかも下半身、股の部分が信じられなかった。

 明らかに本人の背丈には似合わない大きさのブツ、それが自己主張をしているのだから当然である。

 大人顔負け? そういうレベルではなかった。

 少なくともユートは普通に三歳児の筈、三年前に生まれた本家の双子の話なら霧恋も知っている。

 精通だってまだな筈であるユートのブツが、日本人の平均を明らかに越えている長さと、それに併せた太さで屹立している事態には驚きなんてものではなく、インパクトとが強過ぎた。

 ユートは、清音と天地が一緒に寝るからパジャマを着て寝ていたが、それから解放されたからか安心して本来の状態――裸で寝た。

 あわあわしながら霧恋はゴクリと唾を呑み込んで、ユートの眠る寝台へと歩を進めていく。

 幼いし女の子であるが、寧ろだからこそ一端な年齢の少女より好奇心が勝り、もっと近くで見てみたいと思ってしまったのだ。

 自分には存在しない器官であり、いつの日にか自らが受け容れるだろう異物。

 男の分身に。

 まだ寝ているのを確認、ソーッと抜き足差し足忍び足で歩み寄り、未だに自己主張を続けるユートの分身を目の前にする。

「す、スゴい……」

 昔に見たヤンチャ共などとは違う、小さな身体には似合わない分身の大きさ。

 これは前々世に邪神たるクトゥルーに犯された結果なのだが、霧恋には当然ながら判る筈もなかった。

 チョン……

 人差し指の指先で少し押してみる。

 軽く揺れる分身。

 意を決して握ってみて、また驚いてしまう。

 幼い自分の掌では握り切る事が出来ず、指先同士が当たらなかったのだ。

「長いし太いし硬くて熱い……これが男の子なんだ」

 ユートのソレは人類的にちょっと大きめであって、それが故に実質的にそんな機会は訪れないだろうが、

 若しこれ以降に彼氏がデキて夜の情交にまで進んだとしても、きっと相手が誰であれ思わず――『小さい』と呟いて終わりそうだ。

 相手のプライドをズタズタに引き裂いて。

 女の子からすればユートの分身はグロテスクなブツだろうが、霧恋が触れるまでになっているのは一種のフェロモンの所為だ。

 ユートの分身を見て相手が怖じ気付かない様にか、フェロモンを発して恐怖心に蓋をしているらしい。

 だから実際に受け容れ、気持ち良くされてハマる。

 そうなれば寧ろ欲しいとさえ思わせた。

 霧恋も幼くても女の子、フェロモンが効いて恐怖より好奇心が強く出た。

 そうでなければとっくに逃げ出しているだろう。

 だから、霧恋が頬を真っ赤に染めてユートの分身を握り染め、訳も解らず手を動かしながら蕩けた表情を魅せているのも、彼女が決して変態だからではなく、フェロモンにヤられた結果だという事。

 その後、自己主張が更に激しくなった分身に刺激を与えた結果として、ユートの分身から迸る欲望の塊を全身に浴び、バスルームへ駆け込む羽目になった。

 因みにユートは起きていたが、面白かったので寝たフリをしていたのを霧恋は気付いていない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 シャワーを浴びてきて、再び起こそうとした霧恋ではあるが、その時には既に起きていたユートが出迎えてくれた。

 先のアレで恥ずかしくなったのか、真っ赤になって俯きながらも辿々しい腕前で作った朝食を摂る。

 朝食は霧恋が作ったものを食べて、昼食は店で外食をする事になっていたし、晩は二人共がアイリの所で食べる予定だった。

 アイリも忙しくはあるにしても、折角の孫との会食くらいはしたい。

 序でに霧恋にも自分の味を伝授するべく、夕飯を作るのを手伝わせていた。

 それに魔法研究をするのであれば、やはり先んじているユートに聞かなければならないのだし。

 また、案内役のティアーユも御相伴に与っており、ちょっと得していた。

 アイリの料理の腕は非常に高く、店に出せるレベルで美味しいからだ。

 ユートは銀河アカデミーで勉強をし、科学分野に於ける知識を蓄えている。

 一応、『混ぜるな危険』なレベルの連中から科学の知識を得ている訳だから、ある程度のレベルで科学的なものを理解出来た。

 だから勉学は程々とし、研究に時間の多くを割いていたし、ダイオラマ魔法球を使っての修業にも可成り力を入れている。

 こっそりと銀河アカデミーを抜け出し、宇宙海賊を退治して漸く招喚コストを貯めたユート。

 とはいえ、ユーキだとかシエスタを喚ぶには足らないレベルだから、喚んだのは魔法科学を研究していた天樹菜々芭だ。

 魔法を科学で制御したいと考え、何故か鋼鉄聖闘士となっていた菜々芭。

 実際、鋼鉄聖衣はそんな分野の代物だったが……

「じゃあ、此方での研究と御相手は頼んだよ菜々芭」

「了解です、優斗さん」

 魔法球内での研究を任せたユートは、基本的に銀河アカデミーでのあれやこれやに従事しつつ、研究にも力をいれて過ごす。

 ユートが銀河アカデミーに来て半年が過ぎる。

「優斗ちゃんがアカデミーに来て半年。研究以外にもやりたい事はあるの?」

 理事長室でお茶を飲みながら訊ねるアイリ。

「そうだね、将来に向けて欲しいモノを得る為の手段を手にするべく、ちょっと動きたい……かな?」

「欲しいモノを得る手段? それはいったい……」

「樹雷皇の座」

「へ?」

「僕が欲するものは普通だと手に入らない。だけど、銀河でも最大規模の国家たる樹雷皇国の皇位に就く、或いはその候補者ともなれば手に入れ易くなる」

 それ以前に樹雷皇の座を手に入れるのが不可能。

「実は樹雷皇の座を手に入れるのは不可能じゃない」

「……どうやって?」

「先ずは、現樹雷皇である柾木・阿主沙・樹雷だが、彼の息子の第一皇子となる柾木・遙照・樹雷がそもそも皇位に就く気が無い」

 原典でも実は天地を自分の身代わりにする予定だったらしいし、すっかり皇位なぞ継ぐ気は無かった。

「なら、次の皇位継承者は誰になるのか? 柾木家は取り敢えず無しだとして、他の四大皇家から天木家、神木家、竜木家の誰かって話になるだろう。だけど、現状では有力な継承候補者は出ていない」

「確かに」

「此処で若し、僕に必要なナニかが在れば一気に僕が皇位継承権の第一位を得るのも可能だろ?」

「まあねぇ」

 ユートは柾木家で勝仁――遙照の直系の血筋。

 そういう意味では確かに目があるだろう。

「その為にも樹雷に行っておきたいな」

「樹雷星に?」

「そう」

 紅茶のカップを煽りながら言うユート。

 だけどその目は明らかに本気であったと云う。

第一章:[再誕無用](5/12)
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「まあ、宇宙に上がったんだし樹雷星に行くのも悪くはないかしらね。お義父様にも御挨拶しないといけないだろうし」

「あ、樹雷皇には会わない方向性で」

「あら、どうして?」

「いずれ、樹雷皇が地球に来るだろうから。その時に天地と一緒に会うさ」

「そうなの?」

 OVAの第二期に於ける第一三話、その時に樹雷皇は船穂や美砂樹と共に地球までやって来る。

 会うならその時で充分、だから今回は会わない。

 それだけの事。

「まあ良いわ。それじゃ、生体強化をしないといけないわね?」

「生体強化? 要らない。少なくとも現時点では」

「何を言ってるの、樹雷は基本的に誰もが闘士級よ。そんな中に生体強化も施されてない生身の地球人が入ったら、すぐに壊されてしまいかねないわ!」

「問題ナッシング。一般の闘士なら大した事もない」

「なっ!?」

 アイリは驚く。

 だが、ユートも全く意味も無い事を言っている訳ではないのだ。

 ユートの見立てで一般の闘士は、DB的な戦闘力で初期ベジータくらいか。

 戦闘を主とする闘士で、フリーザ軍のギニュー特戦隊クラスだろう。

 これが平田兼光クラスになれば戦闘力が十万を越えるだろうし、皇家の樹からバックアップを得られている皇族ともなれば、それこそフリーザの第三形態級に力を出せそうだ。

 今のユートは魔法球へと篭り、嘗ての力を取り戻すべく修業を内部時間にして約一三年くらいしており、

 漸く一六歳の姿を取り戻したばかりだが、それでも既に素の力でギニューの倍程の戦闘力になっている。

 超化すれば五十倍にもなるから、この時点でさえも樹雷皇族を越えていた。

 だからこそ必要が無い。

 ユートは樹雷星に闘いに行く訳では無いのだから。

 それにそんな反則で行き成り強くなったとしても、それでは割とすぐに頭打ちになりかねない。

 サイヤ人ではないけど、強い敵と闘ってこそ自らも強くなれるのに、反則技で力だけ手に入れてしまっては其処からの進歩が無くなってしまう。

 力が在るのと強いのとは実は意味が異なる。

 フリーザは前者であり、孫悟空が後者と云えば理解もし易い筈。

「貴方、樹雷を甘く見すぎていないかしら?」

「そんな事は無いよ」

「なら、少し優斗ちゃんの力を見て上げるわ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 【鷲羽の毛穴】なんて呼ばれている銀河アカデミーの観光名所が存在しているのだが、この地にはアイリの店が経営されていた。

 その関係からか、アイリしか知らない模擬戦に適した土地も有る。

「さて、始めましょうか」

 アイリはいつもの服装ではなく、樹雷の女性闘士服に身を包んでいる。

 ユートはそんなアイリの戦闘力を、左側に装備されたスカウターで計測……

 三八〇〇〇。

「戦闘力が三八〇〇〇か、まさかザーボンにすら勝てる戦闘力だったとはね……恐るべきはアカデミー神拳武法という事か?」

 銀河アカデミーの哲学士とかお偉いさんとか云ってみても、結局薬局【御山の大将】が顔を突き合わせる訳であり、そうなるとモノを云うのは武力となる。

 要は御山の大将同士による殴り合いだ。

 そうして生まれたのが、【アカデミー神拳武法】。

 白眉鷲羽も知るとなるとつまり、二万年以上の歴史を持つ武法という事に。

 成程、恐るべきだ。

「三八〇〇〇? 何の事を言っているの?」

「アイリさんの戦闘力」

「それって、数値に出来るものなのかしら?」

「そういう機械があるよ、僕が着けてるコイツでね」

「へぇ?」

 少し興味を覚えたのか、ジロジロと見つめてくる。

「何なら、僕の数値を見てみると良いよ」

 別のスカウターを取り出すと、それをアイリの方へとポイッと放る。

「面白そうね」

 受け取ったアイリは早速とばかりに左側の頭に装着して、赤いスイッチを押すとユートの方を見遣った。

 ピピピピ……

 電子的な音が響きながら数字を示す。

「戦闘力、二〇〇〇〇〇? 私が三八〇〇〇だとすると五倍以上って事?」

 生理年齢が一四歳くらいになってから、急速に戦闘力を上げる修業を開始したユートは、今現在で可成りの伸びを見せていた。

 これに神器や超化など、パワーアップが可能なのだから生体強化に興味を持てなくても仕方ない。

 否、昔の力を取り戻してからなら生体強化を施すのも悪くないのだが、今からではやはり駄目なのだ。

 というか、素で超サイヤ人すら勝てない人造人間に勝てた頃の力を取り戻した後なら、そもそも生体強化なんて不要だろうが……

「アイリさん、樹雷の闘士は概算で一万から二万くらいだと見ている」

「まあ、そんな感じよね」

 自分の戦闘力を参考に、其処から逆算すれば一般の闘士の戦闘力が判る。

「戦闘タイプではないからアイリさんは大した戦闘力じゃないけど、皇家の樹のバックアップを受けている皇族ら桁違いになる」

「それも理解出来るわ」

 樹雷の闘士も皇族もピンキリだし、一概には云えないのだが少なくとも船穂と美沙樹が本気で力を出せば百万や二百万は越えるし、現樹雷皇の阿主沙であれば三百万は出せるだろう。

 皇家の樹のバックアップさえあれば……だ。

 戦闘力だなんだと云ってみても、フリーザみたいな常時で六千万だとかそんな話ではなく、バックアップが在って戦闘を前提に身体を慣らして初めてその力。

 普段からバカみたいな力を出している訳ではなく、普段なら普通に生体強化を施されただけのもの。

 まあ、一応は普段からのバックアップも有る。

「さ~て、それじゃあ……模擬戦の前にちょっとした見せ物でも」

「見せ物?」

「ふっ!」

 気合い一発!

 その瞬間、ユートからは凄まじいまでの圧力と黄金のオーラが噴き出す。

 それだけではなく髪の毛が黒髪から逆立った金髪になり、瞳の色も黒色だったのが翠色に変化した。

 ピピピピピ。

 スカウターが数値を更新していき……

「なっ!?」

 一〇〇〇〇〇〇〇。

 一千万という正に桁違いの数値を魅せていた。

「これが超闘士。はっきり言えば、現樹雷皇が本気で樹のバックアップを受けて全力全開で殺しに来ても、僕には全く通用しないよ」

 とはいえ、これは厳密な意味で超闘士ではなくて、超サイヤ人をユートが視て可能と判断、それの模倣をしたものに過ぎない。

 ユートはサイヤ人ではないから、【超サイヤ人】というのもおかしい話な為に超闘士ウルトラマンに因んで超闘士としていた。

 因みに、既にこの世界にはウルトラ一族やサイヤ人が存在しないのは確認済みであり、現状で超化が可能なのはユートのみだ。

 まあ、サイヤ人が居たとしたら惑星の地上げ屋か、若しくは宇宙海賊だったろうから今頃、樹雷の闘士に喧嘩を売って全滅も考えられたけど。

 鬼姫とかはシャレにならないのだから。

「数値的には今の僕が圧勝してるけど、それでも闘うのかな? アイリさん」

「と、当然よっ! 数値が絶対と思わない事ね!」

 確かに数値が全てではないのだが、流石にこれでは勝負にもならない。

 結局、ユートが超高速でアイリの背後に回って一瞬で気絶させてしまい、勝負とかいう以前の結果で終了してしまった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「まさか一撃とはね……」

 【鷲羽の毛穴】に存在する自分の店の休憩室で寝かされたアイリは、目を覚ましてからすぐに自分の状況を自覚して呟く。

 正確には一撃だとか云うより前の話だったのだが、それは取り敢えずアイリにしてもどうでも良い。

「ああ、目が覚めた?」

「優斗ちゃん」

 室内に入ってきた優斗の声に顔を向ければ、確かに其処には自分を気絶させた張本人が居た。

 手にはトレイ、その上にカップとポットが載っている辺り、某か用意でもしていたのだろう。

「丁度良かった。霧姉に作って貰った珈琲なんだけどアイリさんも飲む?」

「戴くわ。霧恋ちゃんも来ているの?」

「まあね。ちょっと厨房を借りて昼御飯を作って貰っているんだ」

「……とことん自分でやらないわね」

「こう言っちゃあれなんだろうけど、家事とかやりたいと余り思わないんだ」

「ハァ、まったく」

 苦笑いをしながら渡されたカップに口を付ける。

「フー、お店には出せないわね……これ」

 辛辣な物言いだったが、寧ろ小学生低学年が淹れた珈琲なのに、そんな高度なモノは出てこない。

 というより、出てきたらその方が問題である。

「優斗ちゃんの実力は理解したわ。確かに私は一蹴されてしまった」

「アイリさんは戦闘タイプじゃなく研究者。生体強化をされてるからって戦闘者には勝てないよ」

「……そうね」

 ナメック星人風に云えば龍族、ネイルでなくデンデという感じだろう。

 戦闘行為は可能だけど、専門職程に強くはない。

 因みにユートはバリバリの戦闘職であり、どちらかと云えばサイヤ人だ。

「一応、向こうには娘――水穂っていう清音の姉なんだけど、あの子に伝えておくから案内役の女官くらいは派遣してくれるわ」

「うん、ありがと」

「霧恋ちゃんはどうするのかしら?」

「それなんだけど、地球ではまだ義務教育の真っ最中な訳だし、僕が居ない間はそちらで勉強をさせてあげてくれないかな?」

「ああ、そうよね」

 小学生な年齢なだけに、霧恋も学ばねば。

「話をしたらGPに興味があるみたいだし、そっちに進路を進められる程度には勉強させられたらね」

「判ったわ、手配はしておきましょう」

「サンクス」

 銀河アカデミーの理事長なだけに、アイリも忙しい身の上ではあるのだけど、子供一人を学校にいれる――その程度は軽く熟せる。

「にしても、三歳とは思えない強さだったわね」

「ダイオラマ魔法球を使ったからね」

「魔法……?」

「そう、外での一日が中での三〇日に相当する時間の圧縮をしたマジックアイテムってやつだよ」

「是非、見てみたいわ!」

 流石は銀河アカデミーの理事長以前に哲学士だけあってか、未知に対する知識を貪欲に求めていた。

「構わないけど?」

 アイリの仕事が終了次第で行く事となる。

 深夜の二二時頃になり、優斗が設えた工房に優斗とアイリと霧恋の姿。

「あの硝子っぽい球体……あれがダイオラマ魔法球」

「へえ、これが」

「御試しだから一日設定じゃなく、一時間が二四時間になる設定にしておくよ」

 この魔法球は時間設定が割と自由に出来るタイプ、可成り良い代物だった。

 部屋から魔法球内に入ってみてアイリは驚く。

 内部はまるで自然界でも切り取ったかの如く大地が広がり、しかも巨大な城が鎮座していたのだから。

 まあ、この程度なら普通に皇家の樹でも空間圧縮や亜空間固定などで可能としているが、問題は小規模ながら同じ事をしているという点と、時間操作まで行われているという事実。

 普通ならばエネルギーの問題もあり、空間を拡げるくらいしか出来ない。

 あんな技術は世代の古い皇家の樹の莫大なエネルギー在ってこそで、現状では銀河アカデミーの超科学も及ばない部分である。

 それを行っているという事は、ある一部分に限っては魔法が科学を凌駕したという事だった。

「元来、こいつを使う場合は加齢に気を付けなければならないけど、僕の改良を受けてその心配は要らなくなっている。

  だけど僕は、修業の為にも加齢する様にシステムをOFFにしてから入っていた。だから」

 擬装を解いて三歳児から一六歳の青年体となる。

「これって……」

「今の僕は生理年齢にして一六歳なんだ」

 アイリも勝仁の老体としての擬装を知っているし、だからこそユートの擬装を見て騒がない。

 勝仁の老人然とした姿、それは地球での暮らしの為の擬装に過ぎず、それを解けば白髪は艶やかな黒髪に変化をし、謂わばイケメンな若者の姿と成る。

 勝仁から遙照に。

 そんな変化に慣れていたから、ユートの変化に驚きはしても慌てる必要などありはしない。

 それに地球という辺境の未開惑星ならばまだしも、宇宙――一際異彩を放っている銀河アカデミーなら、この程度で慌てふためいていてはやってられないのが現実だった。

 だいいち、擬装程度なら多かれ少なかれやっている者が居るだろうし。

 この銀河アカデミーは、云ってみれば鷲羽が現役で通っていた頃から、地球では有り得ない技術の坩堝であったし、今や科学技術は魔法としか思えない現象を乱発しているのだから。

 そんな銀河アカデミーの理事長アイリをしてみて、魔法は割と興味深い研究の素材だと理解をしていた。

「そういえば、これを使えば時間も増やせる訳よね」

「まあ、女性には余りお勧めはしないけど」

「あら、どうして?」

「年を取るから」

「ああ……」

「まあ、僕の使っているのはさっきも言った通り加齢はされないし、されるにしても延命調整が出来る訳だから大した問題じゃないと思うんだけどね」

 嘗て、ダイオラマ魔法球の利便性を説いていたら、持ち主のエヴァンジェリンが加齢から女には勧めないと言っていたが、

 この世界は地球ならまだしも宇宙では延命調整から数千年すら生きる者も居り、ちょっとやそっとの加齢ならば誤差の範疇である。

 特に反作用体は何十万年と生きるし。

「それでも年を取らないのは嬉しいものよ」

「そうかもね。ダイオラマ魔法球の一般バージョンはこのくらいだけど……」

「た、高いわね」

「銀河アカデミー理事長の柾木アイリに支払えない額じゃないよ? それなりに裕福層なら買える値段だ」

 それでも可成りの高額、買えるからといってやはり高値なのは頂けない。

 時間操作、それは理論上は可能であるしやれもするのだろうが、必要となるであろうエネルギーは莫大、中々やろうとは思えない様な事であった。

 理論上可能――ユートは識っているが、三頂神達が実際に時間を巻き戻してのやり直しをしている。

 ユートはユートで権能を使っての【刻の支配者(ハイパークロックアップ)】により、時間を巻き戻す事が出来るから判る話だ。

 とはいえ、ダイオラマ魔法球は時間圧縮を掛けての時間操作に過ぎず、自在に操れる訳ではなかった。

「そうやって地球でも荒稼ぎをしてきたの?」

「まあね。爺さんも呆れていたけど……」

「便利そうですものね? これが有れば書類地獄から逃れられそうだし!」

 切実なお話である。

「僕を銀河アカデミーにって言い出したのも、爺さんから視てもおかしな稼ぎ方をしていたからだしね」

「成程……ねぇ」

 今のアイリには夫の気持ちがよく解った。

「ま、アイリさんには世話にもなっているんだし……加齢無しのやつをこれで」

「あら、勉強してくれたわね優斗ちゃんったら」

 見事、商談は成立した。

 それから少し経つ。

 港でユートを見送るのはアイリ、霧恋、ティアーユの三人である。

「それじゃ、行くよ」

「優斗君……」

「霧姉は勉強、頑張って」

「うん」

 霧恋はユートの言及からアカデミーに通う事に。

「GPに興味があるなら、GPアカデミーに入れる様に勉強しないとね。僕が居ない間は確りやると良い」

「うん」

「ま、帰ってからも勉強はしておこうか」

「あ、ありがとう」

 勉強をするユートが少し羨ましかった霧恋だけに、アカデミー入学は嬉しい。

「ティアーユ、僕が戻ったら本格的に案内を頼むよ」

「はい、気を付けて」

 長い金髪を揺らしながら一礼するティアーユ。

「アイリさん、連絡は通してるんだよね?」

「ええ、水穂に話は通したから大丈夫よ」

 これならば樹雷宙域に入ったら攻撃されました……とかは無いだろう。

 シャブラニグドゥに乗り込んだユートは、いつも通りに艦長の椅子に座る。

「シェーラ」

「了解」

 ツーカーというべきか、シェーラはすぐにユートの言いたい事を理解。

「サイ・システムを起動、フェイズ・ドライブに移行する。目的地は樹雷星」

 シェーラは元々が魔族、ユートの使い魔として召喚されてから随分と経つ。

 今現在は魔導書の精霊の代わりも必要が無くなり、シャブラニグドゥの管制を行うシステムとして括られていて、謂わばソードブレイカーのキャナル・ヴォルフィードのポジションだ。

「フェイズ・ドライブ!」

 惑星の近くでは本来だとフェイズ・ドライブは出来ないが、そこら辺はユーキや束や超らが頑張った。

 自由自在な相転移。

 その分、サイ・エネルギー消費量も増えているが、ユートには問題は無い。

 二度目のフェイズ・ドライブに移行し、フェイズ・アウトをすると艦隊の歓待を受けた。

 見るからにGPや民間機ではない戦闘艦、即ち……

「また海賊か」

 銀河アカデミーへと行く時にもダ・ルマーギルドの艦隊と当たり、今度もまた海賊艦隊とランデブー。

「シェーラ、魔砲……」

「ジェットの発進準備完了した」

「は?」

「折角、造ったんだろう? 偶には艦載機くらい使ってやれ」

 ユートの艦には一応だが艦載機が載っている。

 だけど基本的にユートの艦は単純な制御をシェーラが担い、艦長兼操舵士兼砲撃手を担えば事足りた。

 つまり、一人で運用可能だから艦載機を扱う必要性も無かったし、扱う人材も普段は居ないのである。

 とはいえ、艦をシェーラが動かせばユートが艦載機を使って手数を増やすのも可能だし、無駄な訳ではないから痛し痒しか。

「仕方がないな」

 ユートは転移で格納庫に向かうと、ジェットと呼ばれた機体に乗り込む。

 ジェットとはいっても、名前にジェットと付いているだけであり、実際にジェット推進エンジンという訳ではなく、宇宙空間で扱うのに何ら問題も無い。

「ザウラージェット発進」

 格納庫からゲート転移で発進したザウラージェットがフレアを発して飛翔し、海賊艦隊に向けて高速飛行で近付いていく。

 当然、わざわざ小さめな機体で現れた存在に嘲笑う海賊達だが、すぐにそれが過ちであると知った。

 搭載された火器が凄まじい威力を持ち、バリアを持たない小型艦が次々と墜ちていくからだ。

 勿論、幾ら威力が高かろうとも一撃で墜ちる攻撃力ではないが、ダメージを与えられるなら関係は無い。

 ユートの狙いはブリッジだったからだ。

 基本的にユートの戦い方は艦が相手ならブリッジ、人型機動兵器などが相手ならコックピットを狙う。

 雑魚ならばこれで大概は一撃で墜とせるのだ。

 無人機も操縦の関係上、コックピットにシステムを集中させる為、頭部のAIよりコックピットブロックを破壊した方が効率的。

 まあ、ボスクラスに対しては意味が無いけど。

 例えば、ヴァルシオンを相手にコックピットを狙っても意味が無かった。

 防がれるから。

 それは他のボスクラスも同様で、飽く迄も雑魚相手専用の戦い方である。

「ユート、結界に包み込んだからオッケーよ!」

「了解。ザウラーフォーメーション!」

 一瞬にして四機に分離。

 青色を主体にした機体、マッハプテラ。

 赤色を主体にした機体、ランドステゴ。

 白色を主体にした機体、サンダーブラキオ。

 緑と黒を主体にした機体のマグナティラノ。

 【熱血最強ゴウザウラー】に登場する主役機だ。

 ザウラージェットの形で纏まりが取れ、グランジェット以外が合体しているから艦載機に丁度良かった。

「ゴウザウラー、熱血合体っっ!」

 瞬時にマッハプテラとランドステゴとサンダーブラキオが合体、熱血最強ロボット・ゴウザウラーの姿となった。

「熱血進化……マグナザウラーッッ!」

 再びザウラーチェンジャーを操作、マグナティラノをマグナザウラーに変形させると、更にチェンジャーを操作していく。

「熱血武装、マグナバスタァァァァーッ!」

 拳銃の様な形に変形したザウラーチェンジャー。

 このコマンドでマグナザウラーが更に変形を開始、二門の砲台となってゴウザウラーの背部に連結。

 結界内の海賊艦隊に狙いを定め……

「ザウラービッグバスタァァァァァァーッッ!」

 纏めて焼き払った。

「熱血最強! マグナザウラァァァァァーッッ!」

 ゴウザウラーとマグナザウラーに分離した二機が、互いに勝利を讃える仕草で拳をぶつけ合い、高らかと勝利宣言をした。

「よし、シェーラ……回収を頼む」

「了~解」

 シャブラニグドゥに二機を回収、その宙域をフェイズ・ドライブで離脱した。

 その後も何度かに分けてフェイズ・ドライブ敢行、僅かな時間で樹雷星の傍までやって来ている。

 流石にまたぞろ海賊艦隊とは出会わなかった。

「あれが樹雷星。地球を青い星とするなら差し詰め……緑の星だね」

 樹と共に在るのが樹雷の国是なれば、緑の星に見えるくらいの木々は当然。

 入国管理局で入国審査をした後、樹雷星に降り立ったユートはキョロキョロと辺りを見回す。

「さて、女官は何処かな」

 それっぽい人物は何処にも見当たらない。

「もし……」

「はい?」

 声を掛けられたユートが振り向くと、其処には樹雷の服装に身を包む黒い髪の女性が立っている。

 内ハネな揉み上げ部分、優しそうな笑顔を浮かべる表情、見た目には二十代の前半だろうか?

「初めまして、母さんから話を伺っていますよ」

 どうやら女官ではなく、本人が来たらしい」

「柾木水穂です」

「……緒方優斗です。宜しく柾木水穂さん」

 取り敢えず、ユートが名乗るのは柾木ではなく緒方であった。

第一章:[再誕無用](6/12)
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 ユートが懐いた柾木水穂への第一印象――『可愛らしい年上のお姉さん』だ。

 勿論、本編第三期で登場した水穂は見知ってるが、あの時は本当に一瞬の登場に過ぎず、アニメのGXPを視聴する機会を得られなかったユートは殆んど彼女のビジュアルを知らない。

 小説版の【真・天地無用!】に於ける数百年もの昔という、若かりし日? の水穂は見ているのだが……

 樹雷人らしいとも云える和装を派手派手に魔改造したかの如く装束も、確りと着熟している水穂はちょっと格好良いかもと思う。

「アイリさんは女官を派遣してくれるとか言っていたんだけど、まさか水穂様が自らお出で下さるとは……光栄の至りです」

「ちょっ! 母さんからはざっくばらんで大丈夫とか言われてたのに、畏まらないで欲しいわ」

「そう? じゃあ、呼び方は水穂さんで良い?」

「ええ、勿論よ」

 ユートはアイリとの話し方はタメ口に近く、とても祖母と孫が会話しているとは思えない。

 水穂も畏まられるのには慣れているが、やはり偉ぶるのは性に合わないらしく敬語や丁寧語は要らないと念押しされた。

 それにしても、此処まで都合が良いと邪神の介入を疑いたくなるアル・アジフの気持ちが解るが、それでも嬉しい誤算というやつ。

 どうやって直接的な知り合いになろうか、そいつを考えていたのだから。

 こっそりエロ活動をしていた地球と違い、図らずも霧恋が手でヤってくれた時以外は禁欲生活だったし、そろそろ溜まっている欲望を解放したい。

 此処に居る間に上手い事誘導し、水穂とエロティカルな行為をしたかった。

 伯母ではあるが樹雷星では推奨こそしていないが、事実上は腹違いとは云えど兄妹を婚約させたくらいであり、

 地球みたく四親等も離れてなくとも結婚が出来るから、一応は水穂とヤるのも合法となっている。

 流石に最後までヤれるとは思わないが、出来る限りの進展は欲しい処だ。

 柾木水穂は七百歳を越えているけど、未だに結婚は疎か彼氏すら居ない。

 つまり、七百年物な処女という訳である。

 とはいえ、自分の母親の柾木清音だって結婚をしているのに、同じくらい美貌を誇る水穂が何故に彼氏の一人も出来ないのか?

 ユートに柾木水穂の情報は少ないが、持てる情報から推測はしている。

 水穂は今更云うまでもなく美女、流石はあのアイリとイケメンな遙照の娘だけあって顔の作りは勝ち組。

 余りにも隔絶していては近寄り難い。

 何より仕事も出来る女。

 また、母親が柾木アイリとあってはちょっと関わりたくないし、〝あの〟神木・瀬戸・樹雷の部下である【瀬戸の盾】なのだ。

 水穂にちょっかいを掛ければ漏れ無く瀬戸の介入を受けるとあっては、アイリ以上に尻込みしてもこれは仕方がないだろう。

 本人が優秀だから並の男では太刀打ち出来ないし、仮に上手く付き合いにまで持っていけても、決定的な関係にいくまでに自然消滅するとか、破局をする運命しか見当たらない。

 水穂も結婚はしたいが、相手の男が見付からなければどうなもならず、今現在の彼氏居ない歴=年齢七百歳という状況に。

 殆んどが水穂自身に関係無い第三者によるもので、彼女はきっと泣いても許される筈だ。

 尚、四歳児になっているユートが水穂と歩いているのを男共は、何とも言えない表情で見つめている。

「へぇ、水穂さんくらいの美人が彼氏も居ないとは、樹雷の男ってのは皆がボンクラで玉無しか?」

 事情は知りながら知らない振りで言い放つユート、余りに辛辣で周囲の男が頬を引き攣らせた。

 水穂も苦笑いである。

 婚活もしているのだが、最終的にはナニも無く終わるから、確かにユートが言っているのは間違いでもなかったからだ。

「母さんから聞いたけど、優斗君は随分と成績が優秀みたいね」

「そうかな?」

 銀河アカデミー内で様々な試験があったり、論文の発表をしたりとそれなりの活動はしていたが、成績は気にしていなかった。

 やりたい事をやりたい様に邁進してきただけ。

「その年齢だし、彼女なんて居ないわよね? お姉さんなんてどうかしら?」

 勘違いをしている様で、水穂がアピールしてきた。

 ユートは彼女処か世界を変えて妻を娶った事が何度かあり、当然ながら優勢して妻達は閃姫として永遠を歩む存在にしている。

 カトレア、シエスタ、木乃香、シア、深雪――但し閃姫ではない――、ユーキといった面々だ。

 勿論、この世界でも妻を持つだろうが……

(幼い時分から自分好みに育てる魂胆かな?)

 残念ながら水穂は正妻とする訳ではない。

 自分のモノにはするし、他にやる心算もなかったりするのだが、それでも恐らく正妻はあの二人のどちらかとなるであろう予定。

 その様に動くのだから。

「それは兎も角として……樹雷で僕が泊まる施設ってどうなってる?」

「あ、私の家よ」

「――は?」

 よもや、ガチに固めてくる心算なのだろうか?

(面白い、ならお先に取り込ませて貰おうか)

 決して水穂が肉食系になった訳ではなく、他所へと泊まらせるくらいなら自宅を使わせる心算なだけ。

 そんな思惑はユートにとってどうでもよく、上手くやれば早目に取り込み可能と考えた。

 【神木・瀬戸・樹雷】、樹雷の鬼姫と事は構えたくなかったし、ユートの目的には樹雷皇となるのが近道となるから支持が欲しい。

 まあ、原典情報からして時期樹雷皇の皇位継承権を持つのは、第一位が遙照で第二位が天地で第三位となるのがGXPの主人公。

 GXPは余り識らないのだが、山田商店には長男が生まれていたから彼がそうなる筈である。

 名前は山田西南。

 九羅密美星やその母親の美兎跳と同じく、確率に偏りが出るタイプらしくて、それが周囲を巻き込む不運――災難に繋がるというのは識っていた。

 家族に恵まれ、災難にも負けない親友にも恵まれたから真っ直ぐに育つ……らしいのだが、ユートはその物語に詳しくはない。

 取り敢えず、地球に帰ったら気に掛ける心算だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 柾木水穂が樹雷星に於ける自宅にユートを連れ込み――連れて来ると、其処には豪奢な樹雷の服装に身を包む薄いホワイトグリーンの髪の毛の女性が居た。

 手には扇子を持っていてニンマリと笑う。

「せ、せせせ瀬戸様!? どうして家に?」

 それは神木・瀬戸・樹雷その人であった。

 何だか涙目で大慌てしている水穂、別にサボタージュが見付かったとか不真面目な事では無かろう。

 水穂は生真面目なタイプだし、仕事はきっちりやり込むだろうから。

 恐らく休みだって一重二重と自分の仕事を確り終わらせた上で、しかも申請はアイリから連絡をうけてからすぐに調整をして出したと思われる。

 アイリだって女官を派遣して貰うに当たり、調整がし易い様にユートが樹雷星に行きたいと言った翌日には連絡をしている事だし。

 更にはそれを行った上で水穂が来た――ならば調整は完璧であるし、少なくとも今日は完全な休養日にされていると思われる。

 瀬戸が自ら動いてまで叱りに来る訳はつまり無い。

 それなら考えられるのは休みを取ってまで水穂が動いた理由、恐らくそこら辺は報告の義務も無いのだろうから、説明もしてはいなかった筈で……

「面白そうだから観に来ちゃったわ」

 扇子を開いてカラカラと笑う瀬戸に、水穂は膝を付いて四つん這いでガックリと項垂れてしまう。

 水穂は前にアイリから、『優秀な子が銀河アカデミーに来たけど、樹雷に興味があるらしいから案内人を用立ててくれない?』と、連絡を受けていた。

 性別は男でまだ子供……地球人だけど夫たる遙照も認める人材らしいと聞き、ちょっと張り切って案内人を自ら務めるべく、

 事前に休みを申請して仕事も呼び出しを出来るだけ喰らわぬ様に、全て終わらせられるだけ終わらせて来ている。

 愛しい父や尊敬しながら苦手な母が認めるならば、自分の将来の夫にしてみるのもアリと思ったからだ。

 地球人なら仮令幼くても十数年も待てば大人だし、七百歳を越えて未だに妹と違って処女な水穂だけど、結婚はしたいし子供だって欲しいという願望もある。

 優秀な子供なら今からでも鍛え育てれば、瀬戸にも認められる存在になるかも知れない。

 アイリの悪戯……ユートも承知なのだが、それが故に水穂はユートが甥である事実を知らなかった。

 変に期待し過ぎてもアレだろうが、優しくて出来る美人なお姉さんとして接すれば、その子の初恋の相手になれるかも知れないし、そうなればしめたもの。

 向こうから告白させて、それを一度はやんわり断りつつ、更に告白をしてきたら受け容れてイニシアチブも取る予定だ。

 鬼が笑いそうな計画を立てていた上、取らぬ狸の皮算用でしかないが水穂的にはこのポンコツな脳内妄想が上手く往くと信じた。

 初めから破綻した計画だとは全く知らないから。

 とはいえ、計画は破綻をしていてもユートの目的に水穂も入っているのだし、最終的には目的は達する事になるから何も問題無い。

「面白そうって、仕事はどうしたんですか!?」

「今日の必要分は終わらせて来たわ。本当に緊急性が無い限りは呼び出されたりしないわよ、水穂と同じく……ね?」

 それが出来る辺りが何という無駄スペックか。

「初めまして、坊や。お名前は言えるかしら?」

 両手を股に付けて中腰になりつつ訊ねてくる瀬戸、ユートはニコリと微笑みを浮かべ……

「初めまして。お声を掛けて頂き光栄です、神木家艦隊司令……神木・瀬戸・樹雷様。僕の名前は緒方優斗と申します」

 ワークネーム……ネット財団【OGATA】で使っている名前を名乗る。

「あら、私の事を知っていたの?」

「アイリさん絡みで水穂さんと関わる可能性もありましたから、周辺に関しては調べておきました」

「成程……」

 女官くらいは手配してくれると言われたが、それで関わりが無くなる筈もなかったし、何よりユート的には水穂もターゲット。

 それに、神木・瀬戸・樹雷は設定と容姿なら識っていたから問題無い。

「処で、優斗殿?」

「何ですか?」

 殿呼びされて首を傾げるユートに、瀬戸は確信を持って言い放つ。

「少し前に海賊が殲滅されたのだけど、あれって貴方の仕業よねぇ?」

「海賊……」

 樹雷星に着く前に潰した海賊艦隊、百は下らない数の艦だったもののユートには意味が無い。

 少し前というかつい先程だったけど、バスターゴウザウラーの必殺武装で全滅させた。

 ユートの居た世界だが、実は光るオジサン(エルドラン)が存在していた上、何とゲート守護などをしていたおうる達の部下とか、実に笑える設定で組み込まれていたのだ。

 お陰で何人かエルドランシリーズの少女達を確保、閃姫として契約すら出来た訳だが、エルドランの齎らす機体もコピー出来たのはそれなりに大きい。

 だからユートの艦シャブラニグドゥの艦載機には、エルドランシリーズからの機体が全て搭載済みだ。

「まあ、確かにそうだね」

「あら、素直ね」

「裏付けもしてあるなら、隠す意味もありませんよ」

「フフ、そうね」

「それで?」

「貴方の使っていたと思われるロボット……偶々だけど見ていたGPが本部へと連絡、是非に売って欲しいと我が樹雷に打診があったのよね」

「売って欲しい?」

「何でも、あれこそが男のロマンとか言ってたわよ」

「あ、そう……」

 ロマンときては呆れるしかないユート。

 とはいえ、某・元祖恋愛原子格君もロボットを男のロマンみたいに言っていた訳だし、大人になってしまってもロマンは忘れないと云う事かと肩を竦めた。

「技術はあるんだから自分で造れば?」

「確かに技術力は高いわ、地球に比べても。だけどね……ノウハウが無ければすぐに完成はさせられない。多少は高値でも貴方から買うしか今は無いのよ」

 ノウハウを貯めれば確かに時間を掛けさえするなら制作も可能だが、少なからず時間を掛けて大金を投入するよりは、買った方が安くつくと云う訳である。

「あれは樹雷とは関係が無いもの。貴方に話を通すしか無かったのよ」

 然もありなん。

 そりゃ確かに自分達の物として扱えはしない。

「あれはコスト的にもそうだけど、様々な意味合いでGPには向かないよ」

 軍隊などが扱う兵器にとって理想は、コストと生産性と整備性といったもの。

 それが考慮されていないものは向かないのだ。

「それも理解はしてます。でも、その言い方なら在るのよね?」

「量産を前提に造られてる機体、コストや生産性やら整備性なんかが充分なのが確かに存在しているよ」

「どのくらいの数を、どの程度の値段で出せる?」

「すぐ出せる数は五〇〇。値段は……」

 纏めて買うなら多少だが勉強するとして、その上での値段を提示した。

 機体は量産型ゲシュペンストMk-II改。

 宇宙に於ける一儲けが始まる切っ掛けとなったのは間違いなく、後々の話だが財団法人【OGATA】の宇宙進出が果たされる。

 もう一つの機体と共に。

「取り敢えず、機体を見せても構わないけど……港に戻るのはねぇ」

「確かにね」

 この場から宇宙港に戻るのは億劫だろう。

「一応、出す事は出来るんですが……」

「此処に?」

「そう」

「ふーん、ならそうして貰いましょうか」

「良いのかな?」

「心配要らないわ。此処は既に水穂の個人的所有地。多少のヤンチャくらいなら許されるわよ」

 あっけらかんと言われ、水穂の方を見遣る。

「まあ、ヤンチャはして欲しくないけど。出せなら出してくれて構わないわ」

「了解」

 ユートはステータス・ウィンドウを開き、アイテムストレージ内の量産型ゲシュペンストMk-II改の名前をタップして、数は一機を選択するとその雄姿を現実の世界へと出現させた。

 量産型ゲシュペンストMk-II改、新たな機体が随時開発されていく中で新規に制式採用の量産機が生まれて時代遅れとなりつつあるゲシュペンストだったが、

 ハロウィン・プランで改修された事により有用性などが見直された機体だ。

 この機体はマオ社に保管されていたデータを、社長であるリン・マオから譲渡されて造ったモノ。

 ユートのアイテムストレージ内には、この機体だけで五〇〇機は存在する。

 勿論OG世界で手にしたデータによる再現機体は、多かれ少なかれ大抵はこうして保管してあった。

 ラーズアングリフは余り好みではないが、アシュセイバーはそこそこに好きな機体だから多めだったし、ゲシュペンストMk-III――アルトアイゼンに非ず――もきっちり入れている。

 それは兎も角として……ゲシュペンストMk-II改を 見た瀬戸と水穂は、そんな機体を見て惚けていた。

 意外な事にこの世界では人型機動兵器は余り使われてはおらず、戦場の華とは戦艦の事を指している。

 故にノウハウが無い。

 技術力が高くても造った事が無い代物は、やっぱり新たに造るのも大変だ。

 まあ、高い技術力があるから短い期間で造れる可能性もあるのだが……

「これは量産型ゲシュペンストMk-II改。改の名前が示す通り、一度は完成して運用していた機体を改修、現用機に通じるだけのパワーアップを果たしている」

「現用機とは?」

「これとか」

 出したのは薄いアイボリーの機体で、見るからに頼り無さそうなモノだった。

「これは?」

「量産型ヒュッケバインMk-II――試作型ヒュッケバインMk-IIの制式採用機」

「またマークII?」

「マークIは完全な試作機ですから。基本的に採算度外視で造ってみて、マークIIでマイナーチェンジしてから更にコストダウンとかに気を遣った訳だね」

 実際、ヒュッケバインはブラックホールエンジンを組み込み、強力な武装たるブラックホールキャノンを持たされていたし、

 出力もエンジンがエンジンだから高くて可成りの高性能機であったが、量産型ゲシュペンストMk-IIの部品に大部分を置き換え、

 エンジンもプラズマジェネレータへと換装をして、武装も僅かに劣るGインパクトキャノンに換え、生産性などを上げる事に努めた試作機となるヒュッケバインMk-IIが新たに造られている。

 これに重力系のシステムを廃し、レクタングルランチャーや常識的な武装だけにしたのが量産型ヒュッケバインMk-IIだった。

 当然、フレームもヒュッケバインのH型ではなく、ゲシュペンスト系列となるG2フレームが採用され、金の掛かるシステム一切が削られ、ヒュッケバインの系譜が見出だせないレベルとなっている。

 一応、性能だけは維持しているのがまた……

 正直、どこら辺がヒュッケバインなのやら解らない機体であったと云う。

「この二つ、どちらが優れているのかしら?」

「一応、ゲシュペンスト。ヒュッケバインも機体性能は悪くないんだけどね……オリジナルに比べるとどうしてもなぁ」

「成程、つまりはオリジナルのヒュッケバインならばゲシュペンストに優れていた……と?」

「単純な機体性能はね」

 ギリアムなどは相手次第でゲシュペンストRタイプに搭乗し、RTX-008Lヒュッケバインと戦っても普通に勝ちそうだ。

 因みに、本来ならブラックホールエンジンの暴走で基地ごと消滅していた筈のRTX-008Rヒュッケバイン、

 ユートが【刻の支配者】で介入した結果、ブラックホールエンジンだけが消滅しただけで終わる。

 まあ、重力崩壊は起きていたからライディース・F・ブランシュタインは左手を喪った侭だが、機体の方は修復をすれば使えた。

 ブラックホールエンジンも新規に積み込み、ユートがリン・マオから譲渡をされており、使われる事も無かったからバニシング・トルーパーの汚名は拭われる事が無かったり。

「決めたわ!」

「何をですか?」

「ゲシュペンストを樹雷で採用、GPにはヒュッケバインを卸してくれる?」

「構いませんが……買うのですか?」

「ええ、後で経理担当の者を寄越すからその子と話し合って頂戴」

「了解です」

 鬼姫の経理担当というと【鬼姫の金庫番】か?

 ユートも名前くらいなら識っていたが、実はビジュアルは全く見た事が無い。

(確か、竜木家の眷属……立木林檎だっけか?)

 取り敢えず名前だけは出てきてホッとした。

「瀬戸様、本気ですか?」

「勿論、本気よ水穂」

 水穂の確認に頷く瀬戸。

 取り敢えず、ヒュッケバインにせよゲシュペンストにせよ、ユーキ達が更なる改修を加えたから量産機とは思えない性能になってはいるし、

 皇家の船とかみたいな既知外染みた船でもなければ相手は出来る。

 重要な機密はブラックボックス化してあるのだし、多少の技術漏れは仕方がないと諦めて、ガッポリ稼がせて貰おうと考えた。

2020/10/6