【魔を滅する転生樹】第1章

1-07・1-09~1-12 ※1-8はミスしました

第一章:[再誕無用](7/12)
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 水穂と同棲――もとい、同居が始まって既に数日が経過している。

 その間にユートは日用品を買うべく市に行ったが、それにも水穂が着いてきて手を握っていた。

 当然というべきだろう、これは相当に目立つ。

 四歳くらいの子供と歩く柾木水穂、皇族たる彼女が……神木艦隊の【瀬戸の盾】たる彼女が子供とだ。

 誰の子供か?

 何故に水穂様と?

 憶測が憶測を呼んでいるからだろう、男共のユートを見る目が厳しい。

 推測憶測邪推……いずれにせよ色々な物議を醸し出すのが世の倣いか、男女共にユートと水穂の噂に事欠かなかった。

 例えば、水穂がいつの間にか結婚して子を成していたとか、或いは何処かにて一夜の過ちから子を成していただとか、

 或いは子供ではあるが婚約者や許嫁だとも云われたり。

 何しろ七百年以上を生きる水穂だし、子供が成長をする十数年なんてあっという間だろうから。

 水穂の甲斐甲斐しさなど憶測を補強する基だ。

 まあ、水穂の甲斐甲斐しさの理由は相手が子供だからというのもあり、更には前は隠しての一緒にお風呂で洗いっこ、

 それが親密になる理由の一つであるし、その後は一緒にベッドにて眠るという、男としてみれば美味しいイチャイチャなパラダイス。

 水穂自身もそれを楽しんでいる節があり、それこそWin-Winな関係だった。

 事実として、水穂は相手が四歳児であり身長も当たり前ながら低いという欠点と保護者意識が先立つというのもあるが、

 それ以外ではユートが子供とは思えない思考をしていたのも手伝ってか、仮想彼氏みたいな感覚で付き合っている。

 勿論、周りから見て如何わしい行為には至っていない訳だが、未来のユートをフィルタリングしたならば割と本気になれた。

 黒髪のユートは何処と無く父親を彷彿――別に樹雷で黒髪は珍しくもない――させる辺り、優しくなれてしまう水穂である。

 実際には父親の気配を、彼女なり無意識に感じたのかも知れない。

 まだユートのブツは見てないから、子供だといった感覚もあったのが良い方向に往ったのだろう。

 というか初対面の状態でアレを視たら、流石に同じベッドでは眠れまい。

 もう少しユートとの生活に慣れたら、驚きはしても寧ろ受け容れそうだ。

 更に二日間が経過して、樹雷星での生活も一週間。

 神木艦隊の艦隊司令たる神木・瀬戸・樹雷に呼ばれたユート、水穂と共に瀬戸の居るであろう第二世代艦・水鏡へやって来ていた。

 何故か水鏡から歓待を受けているみたいで、ユートも少し首を傾げてしまったのだが、思い当たる事があったから納得をする。

「数日振りね、優斗殿」

「はい、瀬戸様」

 瀬戸のユート的な立場は義理の高祖母。

 血の繋がりは持たないが樹雷星の皇族的にそう呼ぶ関係で、彼女と神木・内海(うつつみ)・樹雷の娘というのが美砂樹で、樹雷皇の柾木・阿主沙・樹雷の嫁で第二皇妃となっている。

 子供は第一皇女の柾木・阿重霞・樹雷、第二皇女の柾木・砂沙美・樹雷だ。

 ユートは第一皇妃となる柾木・船穂・樹雷の息子、柾木・遙照・樹雷の二人目の娘――柾木清音の次男。

 阿主沙が謂わば曾祖父に当たり、船穂が曾祖母となる訳だが……同じく阿主沙の妻である美砂樹は義理の曾祖母となるから、瀬戸は義理の高祖母に当たった。

 皇族で一夫多妻が常となるから、ある意味でややこしい人間関係なのだ。

 尚、阿重霞と砂沙美……二人は大叔母で四親等離れている為、実は従兄妹関係と同じ日本の法律上で婚姻は可能である。

 まあ、普通はしない。

 何故なら地球で年齢的に祖父母と変わらないから。

 従兄妹ならば同じ年代が普通だけど。

 樹雷皇族である場合だと遙照と阿重霞の腹違い兄妹の婚約を見れば判るけど、二親等での婚姻も可能とされているらしい。

 とはいえ、原典で阿重霞が天地を相手に『兄妹なのに』と言っている辺りで、出来ても推奨されていないのも確からしい。

 飽く迄も遺伝子調整などで子供に響かせないから、婚姻して子を成しても困らないので禁止と、明言されていないだけなのだろう。

 どうでも良い。

 ユートからすれば水穂という美女を手に入れる絶好のチャンスがあるだけで、何かデメリットがある訳でもないのだから。

「それで、この度の用向きは何でしょうか?」

「ええ、実はね……」

 瀬戸の話によればどうもユートと水穂が目立ち過ぎたらしく、気に入らないという闘士が多いのだとか。

「随分な話だね」

「あら、そうかしら?」

「要するにだ、ぽっと出の餓鬼が我が物顔で水穂さんと暮らしているのが気に入らない、〆てやるって話になってるんだよね?」

「そこまでは言わないわ。だけど概ね間違いという訳でもないのよ」

 言わずもがな、柾木水穂は可成りの美女である。

 男ならいきり勃たねば、柾木水穂と二人切りなんて美味しいシチュエーションとなり、それで勃たないのならばユートは相手を闘士として――否、漢として認める心算は一切無い。

 ユート自身、二人切りで過ごすのは愉しいのだが、子供だと思って割かし大胆な事をしてくる。

 それこそ充血していきり勃つ分身を視られぬ様に、確りと隠した上で二次性徴すら本来なら無い子供としての思考で、何とか抑え込んでいるのが実情だ。

 幾ら水穂からの好感度が初めから高めだったとはいっても、それは母アイリの紹介である事と子供である事が大きい。

 なのに行き成り子供らしからぬ分身なぞ見せたら、流石にドン引きされる事は請け合いである。

 何しろ、四歳児にしては身長が高いとはいえ分身はそれにすら見合わない為、凄く目立ってしまう。

 風呂はまだ四歳児という事もあり、水穂が家に居れば一緒に入っていた。

 まあ、頼り甲斐のあるであろうお姉さん的ポジションな水穂としては、子供なユートの面倒をちゃんと見ている……という訳だ。

 ユートはなるべく勃起しないようにはしているが、そもそもノーマル状態でもフランクフルトでは見せられよう筈もなかったりで、

 折に触れて背中だけでなく前まで洗おうとする際に、戦慄してしまうのだ。

 否、もう手を出しちゃって構わないなら後先考えず諸出しも良いが、それだと少し分の悪い賭けとなる。

 上手く虜に出来れば問題も無いが、それで避けられたりしたら追い出されても文句は言えないし、一時の感情に身を任せるなど愚の骨頂というやつだった。

 何より、ユートは何処ぞの嘗ての友人――茶髪金メッシュみたく『分の悪い賭けは嫌いじゃない!』と、戦闘では言い放てるものの女性関連で性的なあれこれには適用出来ない。

「ま、あれだね。それなら物理的にブッ飛ばそうか」

「戦う心算かしら? 言っておくけど樹雷人って基本的に全員が闘士よ? 私や水穂だってか弱い女性に見えて、それなりに戦えるだけの力があるわ」

 などと宣う瀬戸だけど、側近みたいな男がそっぽを向いてまるでレイプ目。

 『か弱い』という部分に言いたい事でもあるのだろうか、男は溜息すら吐いている辺りどうやら既定路線だったらしい。

 ユートも樹雷人がどうこうは理解もしている。

 お姫様な阿重霞だって、闘士服を身に付けて戦える訳だし、砂沙美ですら棒術の実力は母たる美砂樹譲りのもので、大の男とて実力で排除が可能だろう。

 まあ、棒術は船穂の方が上だったりするが……

 ユートは美砂樹の実力が樹雷の生体強化や延命調整による長年――十万年にも及ぶ歴史の歪みによるモノであり、三頂の女神に対する反作用体であるからだと推察をしている。

 そう、彼女はユートとかとは別の意味で【神殺し】なのだと云えた。

「戦う心算も何も、瀬戸様は観たいのでしょう?」

「あら、何をかしら?」

「僕の素の戦闘力。きっとアイリさんから聞いていた筈ですからね」

 ニヤリと口角を吊り上げた瀬戸は……

「面白いわ! ならば貴方に不満を持つ者を集めて、簡単な闘技大会を催しましょう!」

扇子を開きながら宣言をしたのである。

 飽く迄も非公式であり、樹雷皇や皇妃は呼ばれない簡素な模擬戦。

 始めから瀬戸はその大会を準備していた。

「優勝したら可能な限り、賞品を出しましょう」

 これが瀬戸の権限の可能な限りとなれば、それこそ樹雷星で出来ない事は極めて少ない。

 それこそ、女の子一ダースくらい宛がう事も権限内で出来そうだ。

 尤も、非常識の塊みたいに云われる瀬戸とはいえ、流石に外道ではないのだからそこまではしない。

 女の子の方で望まなければの話だが……

「大会なんて言わず僕VS出てくる闘士全員……でも構いませんよ?」

「あら、流石にそれは盛り過ぎではないかしら?」

 前世は兎も角、今は樹雷の人間としてこの場に存在する瀬戸、ユートの物言いに多少なりカチンと来たのか或いは、それすら既定の路線だったのか? 扇子を開け閉めしながら笑顔を崩さずに言う。

「フッ、戦闘力が約一万~三万未満の闘士なんて数攻めでも力不足だよ」

 まるで挑発するかの如くのユート。

「戦闘力?」

「そう。戦闘をする力ってやつを数値化する機械を手に入れてね。それを改良、運用しているんですよ」

 クウラ機甲戦隊と戦い、クウラの宇宙船を手に入れた際に、当然ながら装備品も全て手中に納めたユートは後にユーキを始めとし、科学者連中に渡して改良などをさせた。

 特に戦闘力を計るスカウターだが、フリーザ軍に於ける最新型すら百万も計れない程度であり、ユーキは徹底的に改良を施す。

 お陰で普通に一千億をも越える数値を計れた。

 とはいえDBインフレな世界などでもあるまいし、そんな数値が計れても需要が無かったけど。

 そして、調べた結果……樹雷の一般闘士の戦闘力は約一万か其処ら、ちょっと強くて初期ベジータかそれに毛が生えた程度。

 強い奴でもギニュー特戦隊クラス、目の前に佇んだ男性闘士――恐らく【瀬戸の剣】たる平田兼光だろうけど、彼ですらギニューよりは強いといった程度だ。

 間違ってもその戦闘力、フリーザの初期形態のものですらない。

 ちゃんと霧封(きりと)のバックアップを受けていなければ、樹雷皇たる柾木・阿主沙・樹雷とて果たして百万はいかないだろう。

 バックアップを万全に受ければフリーザ第三形態はいくだろうが、これにしたって実際に見てみなければ解らないもの。

 まあ、三百万くらいなら間違いないと考えている。

 今のユートは転生をして四年目、肉体的にはダイオラマ魔法球での修業で成長しているから、生理年齢は凡そ一六歳くらい。

 未だに前世での全盛期に比べると一厘にもならない雑魚状態だが、

 基本的にはユートがあんな戦闘力になるのは異世界へのトリップで時間経過やら経験取得、他者……特に女の子と交流していく事にあった。

 今現在のユートは戦闘力が凡そ二〇万、それにしたってダイオラマ魔法球での修業と母親や実姉やアイリや水穂や霧恋との交流や、

 レイア・セカンドというか正木玲亜との交流などから自然と上がったもの。

 まあ、二〇万を記録した時に水穂は居ないけど。

 だが然し、ユートの目標はそんな数値化が可能となる部分には無い。

 戦闘力が百億?

 足りない、全く足りていないのだから。

 最低限でもゲッターエンペラーくらいは素で滅ぼすくらい強く、更に強くならねばならなかったのだ。

 真ゲッター、マジンカイザー、マジンエンペラーGといった怪物レベルの機体を屠り、遂にはゲッターエンペラーさえ屠る。

 前世の最後期は出来ていたのだし、今生では前世より力が上がり易いのだから同じだけ活動していれば、

 普通に以前より強くなれるだろうが、もっと強くなるなら意図的にやっていかねばならないだろう。

 そして、樹雷に喧嘩を売る真似をしたのはその一歩と云えよう。

「(そう、ゲッターエンペラーを討ち果たして奴との戦闘権を得たのに敗北……あの無様は仕返す!)」

 どっち道、試しといった意味合いもあったにせよ、敗北をしての死亡と転生。

 そうである。

 緒方からオガタへ。

 オガタからスプリングフィールドへ。

 そして、スプリングフィールドから柾木へ……

 転生するからには前世で死んだという事。

 緒方時代の死因は幼かった椎名を救おうとして諸共にトラックに轢かれ死亡、

 ハルケギニア時代は這い寄る混沌に仕込まれた種子の活性化で死亡、スプリングフィールドの時代は本来の目的であった存在と戦い、敢えなく敗北して死んだ。

 ゲッターエンペラーやら何やらを悉く討ち取って、他の様々なライバルをすら討ち果たしての最終決戦。

 だけど敗けた。

 それでも侵食のスパンを数億年も伸ばせたのだし、少なくともビッグバン並の力は引き出している。

 だけどビッグバンで駄目なのは、嘗てビッグバンで奴を弾く事しか出来なかった【ビッグウィル】が証明をしていた事。

 勝てないのは既定路線。

 転生を果たしてまで勝利を求めたのだから、此処は樹雷星に喧嘩を売ってでも目的を果たす心心算。

 取り敢えず、手早く最低でもフリーザと戦って勝った超サイヤ人の孫悟空や、初めて超闘士に覚醒をした闘士ウルトラマンのレベルに成るべく、樹雷星の闘士には強くなって貰う。

 これはその道程に丁度良いシチュエーションだ。

「判ったわ。なるべく早目に準備をさせましょう」

「宜しく」

 瀬戸がどれだけの闘士を集めるのか、ユートにそれは窺い知れない。

 だけど、樹雷皇でも連れて来ない限りは今現在での樹雷闘士は敵にすらならない程度であり、本気で全員が掛かって来ても大した労も無く潰せるだろう。

 今現在ならば……

 ユートの目的、最大たる目標を討つその為に樹雷の闘士には強くなって貰う。

 彼のハルケギニア時代に於いて、自らを太陽神と謳うフォェボス・アベルとの闘いにて死んだ際、ユートの母たる【ビッグウィル】――ロード・オブ・ナイトメアとの約定。

 それを叶えるべく。

「それともう一つ」

「まだ何か?」

「貴方の持つゴウザウラーには、飛行形態へ変形する機能は在りますか?」

「……変形というかな? ザウラージェットから分離したのが各機だし、一応はグランザウラーが単独にてグランジェットになりますけど?」

「恐らくザウラージェットというのでしょうね、飛行形態になる機体に乗りたい者も居るみたいなので」

「パーソナルトルーパーの中にビルトラプターという機体が在るけど、防御力に若干の不安が残るかな」

 流石にキョウスケ・ナンブがテストした際、墜ちたあの欠陥なぞ残ってはいないのだが、やはり変形機構を持たせると部分的に脆い場合はある訳で。

「では、ビルトラプターを百機程購入しましょう」

「了解」

 ビルトラプター・シュナーベルではなかったのは、量産型のゲシュペンストMkーIIやヒュッケバインMkーIIと併せる為である。

 ビルトラプターは数機、百なんて数字は持っていないのだが、拠点には千単位で格納されているから取りに行けば良い。

 まだ彼処に行く施設など構築してないが、簡易的なポータルが在るから行けない訳ではないから。

 嘗て、ユートが時空間の狭間で見付けた巨星。

 星帝ユニクロンの死骸? は頭脳ユニットを喪い、内部にユニクロンと戦ったであろうトランスフォーマーが遺されたモノ。

 ユートやユーキやその他の科学者が挙って改造し、今やユートの別荘星となったユニクロン。

 しかも空間圧縮技術など如何無く発揮、四万キロの巨星の内部に太陽系が丸っと入っていると云えば理解も叶うだろうか?

 つまりは、規模が正しく銀河アカデミー並のユート専用拠点という。

 というより、某・哲学者が加われば銀河系規模にはなりそうだ。

 人間が生存可能な惑星を幾つも兼ね備え、その中には農業惑星や畜産惑星などが存在しており、

 食糧関係で云えば地球人類を百億年も養って余りあるモノが、時間停止空間にドッサリと現在進行形で貯蓄中。

 無制限空間倉庫だから、幾らでも貯蓄が可能。

 しかも自動収穫機能(フルオート・ハーヴェスター)だから、世話をしなくても勝手に全てをやってくれる上に、茶々號が一億機と田中機が千機程で管理運営をしていた。

 そんな中に機動兵器を造るラインも存在しており、製造ラインの確立されている機体は量産も出来る。

 ビルトラプターもシュナーベルも、リヒト・フィーも量産が可能なのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから一週間後……

 ユートは闘技場に居た。

 目の前に居るのは樹雷の正式な闘士が千人。

 これはまた随分と張り切って集めたものだとユートは感心したが、戦闘力に関してはだいたい下が一万、上が精々で五万か其処らでしかない。

 平田兼光クラスを集めるならまだしも、こんな連中では正に話にもならないというのに。

 平田兼光の戦闘力は凡そ一七〇〇〇〇、実際に闘えば二〇〇〇〇〇以上には達すると思われる。

 つまりは現在に於いてはユートと互角以上。

 とはいえ、飽く迄も素の状態ではあるが……

「では、始めましょう」

 薄く微笑む瀬戸。

 瞑目している兼光。

 心配そうな水穂。

 観客は三人のみだった。

「全員で掛かって来いよ」

 四歳児が片目を瞑って、来い来いとばかりに掲げた右腕に掌を上向け、自分の方へ何度か曲げて見せる。

「貴様!」

 気の短い闘士Aが駆け出したが……

「フッ、愚かな」

 ユートが軽く薙いだだけで吹き飛んだ。

「ぐわぁぁぁっ!?」

 千人が入れるだだっ広い闘技場の壁にぶつかって、闘士Aが壁をぶち抜いてしまって気絶した。

「ま、まさか!?」

 闘士Aの近くに居た……闘士Bが驚愕する。

「この程度か?」

「くっ、おのれぇぇっ!」

 闘士B、怒号と共に吶喊をする訳だが……

「今のを見てこれか」

「きゃばら!?」

 裏拳一発で明後日の方向へと吹っ飛んだ。

 更に闘士Cが……とか。

「瀬戸様? 樹雷の闘士は脳足りんばかりなのかな? さっきから一人だけで掛かって来るけど、どう考えても有り得ないでしょう。

  それとも樹雷の闘士ってのを僕は過大評価していたって事かな? こうなると、実力も頭も下方修正が必要になるかな?」

 カチンとはクルだろう、然しながらだからといって千人マイナス三で襲い掛かれるかと訊かれれば、それはそれで首を傾げてしまうのだろう。

「あらあら……」

 パチンパチンと扇子を開閉する音が、何故か闘技場の全体に響く。

 無言の恐怖を感じたか、闘士達が青褪めていた。

 そして揃って恐怖に負けたらしく、闘士達が一斉にユートへと襲撃。

 水穂は立ち上がるが……

「無限破砕(インフィニティブレイク)!」

 億にも等しい黄金に光る拳に、全員が打ち抜かれてしまうのであった。








第一章:[再誕無用](9/12)
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 ユートを置いて仕事へと向かう……水穂は何故だかそれに後ろ髪を引かれる思いで敢行している。

 本人もまだそれには気付かないが、水穂はユートに強く深く惹かれていた。

 それはきっと勘違い。

 水穂が惹かれたのは柾木の血――父親の直の血縁という近しい親族への情。

 若し、初めからユートが柾木・遙照・樹雷とアイリ・マグマの娘で自身の姉、柾木清音の息子だと知らされていたならば、恐らくは今みたいな〝女〟としてはユートを視なかったろう。

 飽く迄も伯母としての、甥への情愛だった筈。

 だけど知らなかったからユートへ惹かれた想いが、親愛の情ではなく女としての恋愛の情と勘違いをしてしまったし、その勘違いこそがユートの目論見だ。

 そもそも、柾木家というのは繋がりも深い。

 だからこそ甥であっても強い愛情を懐くし、そんな血の繋がりを自覚しなければこんな想いに変換されてしまう。

 その癖に何故か一つ所に落ち着かない気性を持つ者が偶に現れ、何処かに行方知れずとなったりする。

 それは初代樹雷皇の妹からしてそうだった。

 柾木はその血が成すか、何故か樹雷に居着かない。

 真紗希にせよ柾木・遙照・樹雷にせよ――その腹違いの妹の二人にせよだ。

 現樹雷皇の阿主沙とて、実際には怪しかったもの。

 船穂の件が上手くいかなかったら樹雷を出奔していた可能性だったあったし、やはり柾木というべきなのか色々とあったのだ。

「ハァ……私ってばどうしちゃったのかしらね」

 勿論、理解はしている。

 今の自分は異常であり、おかしな思考をしてるのだ……と。

 少年と呼ぶにも幼い子、そんな子に懸想をするのはおかしくない。

 水穂は七百歳を越えている訳で、地球人の子供なぞ十数年も待てば大人になるのだから、それを待っていれば良いだけ。

 別に子供でないと性的に興奮が出来ないショタコンでは決してないのだから、ユートが大人になってくれるのは愉しみだ。

 実は既に肉体的な年齢は一六歳だが、水穂はそんな事実を知らないから。

 実際、そんな世界観というか価値観だからだろう、正木霧恋の母親の正木月湖が山田西南に懸想していたりと、何だか色々と色事的におかしくなっている。

 まあ、だからこそユートも遠慮無く月湖を宛がえば良いと、霧恋を引き抜いた訳ではあるのだが……

 ユートの識らない第四期では、GXPとかでスルーされていたそこら辺にも触れられており、ラノベ版の設定を完全に削った訳では無かったらしい。

 水穂の悩みも或いは月胡の未来の悩みに近いかも。

「それにしても……」

 水子が宛がわれるとは、水穂としても気が気でないとまでは云わないにせよ、やっぱり不安はあった。

 正木水子は血族の一人、ちょっとちゃらんぽらんな部分があるけど、血筋的には父親が成してた腹違いな一族となり、始祖母の霞と遙照(ちち)の曾孫だ。

 公的な現在の立場的には瀬戸へと仕える立木林檎の部下であり、他にも二人ばかり同じ正木の村出身となる同僚のチームが居る。

 そして普通に美人。

 性格で若干の損はしているが、それでも遙照の血族だけあって容姿端麗だ。

 とはいえ、それは言ってしまえば手前味噌。

 遙照の娘たる自分も美人と言っているに等しいが、未来の別世界線で遙照の妹である阿重霞も『美しかったお兄様』とか言っていた辺り、確かな美形ではあったりする。

 ユートが無類の女好きなのは何と無く理解していたのだが、よもや御褒美にまで女を望むとは思わなかった水穂だけど、聞かされた
理由は確かに理解出来た。

 仕事が忙しい水穂だし、今は瀬戸が気を利かせてくれているからマシだけど、本来なら【水鏡】で生活をしながら仕事をしていてもおかしくない。

 マシな今でさえ泊まり掛けの仕事が来る程なので、ユートの世話役とは確かに必要不可欠な存在だ。

 がさつな男より女官の方が向いているのも確か。

「むう……」

 それ故に早速とばかりに仕事を回され、泊まり掛けになるとはやっぱり瀬戸は意地が悪い。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 茫然と立つ正木水子。

 部署の最高位になる瀬戸に一人だけ呼ばれたと思ったら、受けた命令が現在は水穂の家に宿泊する〝男〟の世話係。

 過去から現在にまで彼氏なぞ居ないとはいっても、だからって男の世話役なぞ仰せつかっても困る。

 しかも、相手が望む侭に動け……とか言われては、つまり閨に引き摺り込まれてもそれは仕事の一環。

 いつから樹雷の女官とは娼婦になったのか?

「あの~、瀬戸様?」

「あら、何かしら?」

「先程の命令は本当に……その、閨をってか夜伽なんかも御仕事に?」

「向こうが望めばね」

「うう、そんな~」

 ユートなら普通に望むという可能性も高いのだが、瀬戸がそんな理不尽な命令を下したのは、【水鏡】の反応を見たからだ。

 瀬戸と契約した第二世代の樹である【水鏡】だが、ユートが樹雷星に来た日から随分と御機嫌だった。

 お陰様で仕事が捗る。

 というか、どうも全ての皇家の樹が御機嫌らしい。

 皇家の樹とは即ちこれが津名魅の眷属、神と名乗れる程の存在が小分けにして送り出したモノ達だ。

 それが歓迎する存在……それこそユート。

 瀬戸としてもユートというイレギュラーを逃がすなどそんな心算は更々に無かったし、上手く鎖を付けたいが無理なら少しでも縁故を維持したい。

 それが悪く云えば女官の貞操と、部下の想いを遂げさせるだけで得られるならそれに越した事はなくて、

 地球では昔の貴族社会なら普通だった所謂、政略結婚が未だに存在するこの宇宙では大きな意味を持つ。

 特に遙照の娘と曾孫だ、極上の相手を宛がった心算だし、樹雷の為にも色々と引き出したい処だ。

 瀬戸は知った。

 ユートが柾木の眷属というか、遙照のもう一人の娘の次男坊である事実を。

 遺伝子をスキャンしたら判ったろうが、そんな真似をして機嫌を損ねられてしまった挙げ句、

【水鏡】まで瀬戸にそっぽを向かれたら仕事的にも、また政治的にもヤバい話にもなるからやらなかったが、ある事情で今は教えて貰っている。

 水子は巻き込まれたにも等しいが、ここは樹雷の為にも大人しく生贄となって貰いたい。

「という訳で、今日からの数時間は水穂ちゃんが仕事で此処に詰める事だし……優斗殿と仲好くしてきて貰いましょうか。その無駄に良い肢体を使ってでもね」

「瀬戸様の鬼ぃぃっ!」

「鬼姫だけど何か?」

「そうでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 駆け出しながら絶叫した水子だったと云う。

「うん? ゆうと……?」

 何だか何処かで聞いた事がある名前に、正木水子は小首を傾げるのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 日本人ならお馴染み? とも云える巫女装束に着替えた水子は、いそいそとはいかないまでも静かに目を閉じて、水穂が居なくなった邸に入って朝食を作る。

 夕飯は水穂が用意していたのを食べ、風呂にも水穂が沸かしていたのを一人で入り、水穂が居ないからと元々宛がわれていた客室のベッドでゆうと殿とやらは眠っていたらしいと知る。

 尚、水穂は本来だと基本的に邸に帰らない事もあってか、使用人の類いは雇っていないから昨夜はゆうとが一人きりだと聞いた。

 だから早朝から朝御飯を作ったのである。

 尚、水子もある程度だが自炊は出来たらしい。

 まあ、数百年も生きていて料理の一つも出来ないというなら、結婚は諦めた方が良いのだろう。

「おはよう……」

 普通に降りてきたユートを見た水子は……

「ああああああああっ! ゆ、ゆ、優斗ちゃん!?」

 余りにもよく知る顔に、思わず絶叫をした。

「……は?」

 菫色な長い髪の毛を後ろ髪で結って、内跳ね気味な感じで中央から分けた髪型をした碧い瞳の女性。

「水……姉……?」

 正木水子であるとユートは認識をする。

 水子は同郷の正木音歌と正木風香、この二人とチームを組む形で瀬戸の女官として立木林檎の経理部へと勤めており、故郷は地球に在る正木の村だった。

 血筋的には始祖母・霞の曾孫だから、分家筋とはいえ遙照の曾孫でもある為に血が濃い。

 年齢的にはまだ六百歳にならないくらいで、実際に地球人としてみればとんでもない時間を生きている。

 だから腹の違う血筋たる清音の事も知っていたし、里帰りでまだ赤ん坊だったユートや天地も見ていた。

 ユートも水子ら女官トリオは知っている。

「ああ、そういやぁ瀬戸様が水姉(みずねぇ)を派遣してくれる手筈だったけ?」

「そ、そうだけど。まさか瀬戸様の言っていたのって優斗ちゃん?」

「そうなるね」

 ペタンと座り込む水子。

 どんな相手かとビクビクしていたが、よもやユートだったとは思わなかった。

「ま、水姉はアホの子だけど美女に違いはないから」

「って、誰がアホの子?」

「水姉」

 ガクッ、はっきりと言われて項垂れてしまう。

「優斗ちゃんの意地悪!」

 何故か兄の天地も含めてだが、ちゃん付けで呼ばれる事が多かった。

「まあ、良いか。朝御飯、食べるよね?」

「うん、食べる」

 普通に和食。

 柾木の家はそもそもが、日本人たる船穂が第一皇妃として立っており、しかも船穂が樹雷に来たのは何と七百年以上も前の話。

 洋食なんて見た事すらもあるまい。

 そして水子はそんな船穂より降るが、それでも彼女の妹の娘の曾孫という立場だから、実に五百年以上も前の生まれな人間。

 現代なら兎も角として、当時に洋食など無い。

 当然、料理を作るのなら和食が中心となってくる。

 まあ、ユートも和食は好きだから問題も無かった。

「御馳走様」

「御粗末様」

 食べ終わったらやる事も特に無くなるユートだが、仕事をする時間くらい普通に取っている。

 魔導具造り。

 そもそもがユートとしては別に地球を離れる必要性などなく、地球で魔導具を造ってそれを売ってさえいれば大金が入るのだから。

 それを蹴って――【OGATA】は普通に開店中――まで銀河アカデミーへと行ったり、樹雷星くんだりまで来たのは人脈を拡げるチャンスだったから。

 特に原典で重要な立場の人間には会っておきたい。

 神木・瀬戸・樹雷やら、柾木水穂もそんな会いたい相手の括りだ。

 特に水穂は伯母とはいえ美人で独身、しかも樹雷星では遺伝子を弄れる関係から地球に比べて近親婚を禁じてはいない。

 つまり、上手く事を運べば手に入れる事も可能。

 とはいえ、やはり近親者というのは不利な部分も多くあるから、飽く迄も柾木としてではなく他人として出逢いを演出したのだ。

 流石に会っている水子にそんな小細工は効かない、だけど瀬戸からの命令となれば是非も無し。

 会える内に籠絡してしまおうと考えていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 瀬戸の本拠地的な場所、第二世代艦【水鏡】で水穂が瀬戸に喰って掛かる。

「瀬戸様!」

「な~に、水穂ちゃん」

「どうして水子をユート君の許に派遣したのです?」

「あの子、ユート君が望んだからよ? 御褒美にね」

「そ、それは……」

「約束を反故には出来ない……それは貴女にも理解は出来るでしょ?」

「出来ますが……」

「あの子は価値が非常に高いのよ」

「? 瀬戸様がそこまで言うくらいにですか?」

「ええ、人型兵器は樹雷は疎かこの銀河連盟で基本的には使われていないわね」

「はい」

 銀河連盟〝では〟使われていないものだ。

「理由は判る?」

「人型となると非常に非効率な上、そもそも主機的に小さな物しか搭載が出来ませんから、戦艦に比べるとどうしても見劣りします」

 高々、二〇メートル前後の機体では搭載可能となるエンジンが小さくなる為、出力の問題からどうやっても戦艦みたいにはいかず、武装も戦艦に対するに正しく豆鉄砲でしかない。

 だからこそ銀河連盟では戦艦こそが主流となって、人型は一部で人間が出入り出来ない場所での作業用となっていた。

「納品された一機をバラしてみたけど、武装は確かに貧弱だったのよね」

「それを何百と購入したんですか? 林檎ちゃんが怒りますよ……それ」

「普通ならね」

「普通なら?」

「武装の中には主機に繋げて使うタイプが在ってね、それが本当の主武装らしいと言ってたわ。そして主機なのだけど、下手をしたら第五世代以上第四世代以下の出力を持つらしいのよ」

「は? それは皇家の樹の……という意味ですよね」

「勿論、そうよ」

「まさか、あの小さな機体に恒星級の出力が?」

「そのまさかよ。そして、主武装は戦艦のシールドを軽く貫いたわ。第五世代の皇家の艦の……ね」

「っ!?」

「貰った説明書。それには主機が【恒星炉】と名前が付いていて、名前の通りに恒星と同レベルの出力を出せるみたいね」

 それを収束して武器とするからか、流石に光鷹翼は貫けないだろうが一般的な戦艦や、

 第四世代以降という光鷹翼を展開が出来ない皇家の船なら、シールドを貫いて船体にもダメージを入れられるという。

「ブリッジを狙ったら!」

 幾ら強力な戦艦とはいえ一発で終わる。

「理解は出来たわよね? 下手に刺激して敵対心を煽るのは悪手よ。水子ちゃんと仲良くしてくれて味方に出来るなら万々歳。

  貴女にも当然ながらそれを踏まえて接して貰うわ。幸いにもあの子は〝お姉さん〟が好みみたいだし、貴女だって別に結婚を諦めた訳じゃあ無いのよね?」

「うう……はい……」

 瀬戸だってそもそも夫となる内海と婚姻に至るまで……千年単位で独身だった身である。

 まだまだ七百歳を越えた程度の水穂は若い若い。

 婚活を止める程の年齢ではないのである。

 ガツガツしていないだけであり、チャンスがあれば結婚をしたい程度には思っていたし、まだ幼いとはいえユートは水穂にとっての〝チャンス〟足り得た。

 彼女が識らないだけで、ユートは甥っ子だけど……

 既に柾木水穂の好感度は可成り上がっている。

「それに、本来は皇家の樹は戦いに向かない性格よ。無理矢理に戦わせるのは、始祖樹津名魅への裏切りと云えなくもないわ」

「そう……ですね」

 樹雷人の佳き隣人にしてパートナー、樹雷が皇家の樹を無理にでも独占している理由の一つに、彼女らが戦いに合わない様にする為というのがある。

 そもそも、樹雷の闘士の全てに行き渡らない以上、通常の主機の戦艦も必要となるし、何より人型兵器は個人でパイロットとなれる値段で、しかも戦艦と渡り合えるなら闘士が喜ぶのも無理はない。

「あの子を樹雷に縛る為になら、多少の無茶くらいは聞く用意があるわ」

「無茶ですか?」

「例えば、船穂殿や美砂樹みたいな既婚者なんかはね……流石に無理だわ」

 既婚者を別れさせてまでは無理、だから独身者へと白羽の矢が立つのだ。

「そして、貴女は独身よ。後は……解るわね?」

「は、はい……」

 真っ赤な水穂。

 延命調整が可能だから、幼い子供でも将来性を見越して育て、育ち切ったなら美味しく戴くなんて手法も取れるだけに、水穂の感情は地球とは違って割と普通だったりする。

 事実、地球でも将来的に正木月湖が山田西南に想いを寄せていたり。

 月湖は正木霧恋の母親、そして西南の友達となるであろう正木 海の母親だ。

 それに実年齢は……御察し下さいとしか。

 兎に角、原典的に未来に見付かる第一世代皇家の樹の種子を主機とした人型、ZINV――神武が登場するまで銀河連盟に人型兵器は存在しなかったものの、

 ユートが持ち込んだ量産型の人型機動兵器によって、本来より十年以上も早くに使用される事となる。

 まあ、別にZINVに続けとばかりに銀河連盟にて人型機動兵器が開発ラッシュ……なんて無いけど。

 尚、瀬戸に一機だけだが量産機以外の機体が先日、ユートから譲渡された。

 ゾディアックトルーパー番外機――迦具夜。

 通常のゾディアックトルーパーは星座に則した名称を与えるが、ワンオフ物にこうした――物語的なものや神々の――名前にしている場合もあった。

 主機は恒星炉よりも遥かに高い出力で、下手をしたら第三世代艦より高いものと思われ、経理部を牛耳る立木林檎をして無視は出来ない相手となっている。

 そして、迦具夜こそ瀬戸に対して支払われた水穂への手付金代わり。

 決して勝てないと云わないまでも、相対した場合は厄介な事極まりない相手、それが〝柾木優斗〟である……と知らしめた。

 この時点で瀬戸はユートの正体を教えられている。

(遙照殿の三人の孫。その内の末弟だったとはねぇ。しかも伯母たる水穂ちゃんを愛人に欲しがるだとか、存外にやんちゃだわ)

 正木水子を付けたのも、ユートなら彼女を気に入ると思ったからだ。

 何しろ、伯母を欲しがったユートなだけに血統上、逆に叔父と姪というのも少しおかしいが、遙照の腹の違う孫(優斗)と曾孫(水子)であり、

 その癖に水子の謂わば親族の子孫たる信幸の子供でもあると、複雑怪奇な関係性だったりする。

 今頃、流石に『戴きます』まではされないまでも、裸の付き合いくらいはしているかも知れない。

(御免ね、水穂ちゃん……でもこの方が面白いのよ)

 神木・瀬戸・樹雷……やはり愉快犯である。

「近い内、林檎ちゃんにも合わせる予定よ」

「……え?」

 水穂は絶句するしかなかったと云う。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 裸の付き合い。

 まあ、確かに裸の突き愛にまでは発展してなかったのだが、風呂に一緒をさた水子はユートの世話役として背中を流した訳だけど、その際に前も流す事に。

 当然ながら、水穂は背中を流すに留まり見ていなかったユートの下半身にぶら下がるモノを、諸に見せ付けられる羽目になる。

 小さな幼児……四歳にしか過ぎないユートの下半身には、四歳児とは思えない分身がぶら下がっていた。

 正常な状態でもそこら辺の日本の成人男性の勃起時よりやや大きめで、水子が洗う為に擦り始めたら生理現象としてムクムクと勃ち上がりその大きさは最早、有り得ない程に巨大だ。

 これは一種の呪い。

 嘗て、強壮たるCの内部に侵入したユート・オガタ・ド・オルニエールだった頃のユートは、C――即ちクトゥルーに囚われてしまった挙げ句、

 口内から菊門から分身までに至り触手というか触壺や触根で犯されてしまい、何度もイカされては精を無理矢理に搾り取られつつ、

 逆にその都度にクトゥルーの精を注入されて無限ループで啼かされ、神氣をも無制限に取り込んだユートは、性欲の規模がバカみたいに拡大されてしまったのと、

 クトゥルーが弱体化する程に神氣を逆に搾り尽くして凄まじいばかりのエネルギーを吸収し、更には分身が性に特化した肥大化までしてしまう。

 それこそ、後に出会った『超絶美形主人公』と同じ規模の機能を獲たのだ。

 しかも、転生して肉体が変わっても魂に刻み込まれた情報が肉体に反映され、こうして子供ながら巨大な分身となっていた。

 清音もユートのオムツを変える度に、夫の信幸より巨大な分身を視ては固唾を呑んだものである。

 しかも、生まれながらに精通しているから射精とて可能なのだから、正に強壮たるCの呪いだろう。

 また、性欲に特化された分身は雌の謂わばATフィールド――精神的な障壁を貫いてしまうのだ。

 警戒や嫌悪を懐かせないからか、勃起状態を直接的に視てしまうと雌の悦びを本能で感じてしまう。

 別にそれで淫らにヤりたくなる訳でもないのだが、受け容れ易くなるのもまた道理であり、水子も洗いながら擦りながら段々と別な意味で触り始めていた。

 お腹の奥……子宮から熱を感じて、トロンとなった瞳で先端の部位を中心に擦っていたのだが、本人には自覚がなかったらしい。

 それなりに時間が経ち、熱い欲望の塊を顔に掛けられて漸く気付き、真っ赤になって後退りをした程。

 Cの呪い故か、恐怖より興味が克ってしまった為、ユートの甘い誘いに水子は『ちょっとだけ』とお口による御奉仕を始めた。

 所謂、【初めて】で失敗しない様にシミュレーションだけは確り教え込まれ、それなりにテクニックだけは持っており、処女だとは思えない技術でユートも割と早くに絶頂へと至る。

 そして今は浴槽に二人、水子に抱き締められる形で入浴をしていた。

 正気に返ったら水子とて可成りのアレだろうけど、きっとユートとの距離感はそれなりに縮まるだろう。

 お調子者だから、同僚たる風香と音歌にはすぐにもバレそうだが……

第一章:[再誕無用](10/12)
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「これがゾディアック・トルーパー番外機の迦具夜。データの収集具合は?」

「量産機とは違ってブラックボックスの塊ですから、稼働させて外からデータを取るしか今は無理ですね」

 立木林檎の確認に整備士は首を横に振る。

「そう……ですか」

 目を落として見たのは、支給された取説だ。

「装甲板が青電鋼(ブルーデジゾイド)、主機となるのが超黒穴機構炉(ハイパー・ブラックホールエンジン)とか、意味が解りませんねこれは……」

「武装も単純に手持ちとなるモノから、主機からエネルギーを供給されて放つというトンでもな代物まで、様々に有りますな」

「黒穴砲撃(ブラックホール・ブラスター)、超縮退砲……下手すればこれ一機だけでも海賊を滅ぼせるのではないですか? こんな小さな機体でよくもまぁ、これだけの武装を実現しますねぇ」

 元々、迦具夜はあの有名なグランゾンのデータからある程度を再現した機体。

 ブラックホールエンジンを更に進化させたハイパー・ブラックホールエンジンとて、グランゾンの対消滅エンジンよりは強力にしてある程。

 ブラックホールブラスターとは、ブラックホールクラスターに近い武装……というか寧ろ、ヒュッケバインのブラックホールキャノンだろうか?

 また、グランゾンの脚の遅さを考慮してブルーデジゾイドを使用した装甲と、身軽なフォルムにより少なくともスパロボ的な移動力は7くらい。

 ユートのゾディアックトルーパーのジェミナス……あれはあれでまた可成りのマッドパワーが溢れている訳だけど。

 何しろユートの為だけのオンリーワン、ユーキだけでなくその他のマッド連中が造り上げた逸品だから。

「今までの常識、人型兵器は非効率だから不要とされたのは何だったのかしら」

「此処まで完成度が高いのを見ると、しかも出力なんて其処らの戦艦の比じゃありませんよ」

「ブラックホールを応用した兵器、空間すら揺るがすだろう縮退現象すら兵器に……しかもこんなコンパクトに纏める。とてもではないけど非効率なんて貶めて良いモノではないわ」

「林檎様、これだけの機体をポンと贈れるなら……」

「つまり、もっと凄いのが在るのでしょう。会ってみる必要がありますね」

 林檎は経理部主任としてこの兵器の購入、それを決めた瀬戸の先見性を改めて見つめ直す。

「瀬戸様に御伺いを立てなければいけないわね」

 林檎は迦具夜の格納庫から出ると、次の予定を考えながら歩みを進めた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 水子は女官としての仕事に一時的だが戻る。

 理由はユートが瀬戸から呼ばれた為だった。

 【水鏡】の内部、瀬戸の私室に招かれたユートは、水子が淹れた珈琲を飲みながら瀬戸と話す。

「迦具夜の運用?」

「ええ。まさか私が自ら駆る訳にもいかないでしょ」

「まあ、そりゃそうだ」

 瀬戸の立場は司令官より上なのだから、容易に動かして良い駒ではない。

 チェスのキングは水穂、クイーンは兼光が担う。

 瀬戸は指し手だ。

「信頼出来る部下に預けるのが妥当……かな? 例えば【瀬戸の剣】である平田兼光殿とか」

「彼……ね」

「爺さんの親友でもある訳だし、瀬戸様だって信頼もしているんだよね?」

「確かに。とはいえ司令官の兼光殿を下手には動かせないわ。彼は謂わばチェスのクイーンだもの」

「水穂さんがキングか……とはいえナイトやビショップに使わせる機体でもないんだけどね」

 まあ、とはいってみてもラスボスの技術確認機体ではあるが、立ち位置的には
ダイゼンガーやアウセンザイター級の機体。

 能力云々ではなく。

 所謂ナイトやビショップ的な配置にあるのだが……
「元々が、グランゾンという機体のコピーを此方風に弄った物だしねぇ」

「グランゾン?」

「重力の魔神……かな?」

 ブラックホールクラスターとか自在に操る機体だ、正しく【重力の魔神】というのが相応しい。

「まあ、迦具夜の扱いに関しては追々かしらね」

 今すぐに決める事でもないのだろう。

 樹雷にせよ世二我にせよ銀河アカデミーにしても、単純な技術力という意味では決して劣らない。

 だが、幾ら何でも迦具夜みたいな機能の全てを僅か二〇メートル級の機体へと積むのは難しかった。

 世二我なぞ惑星規模戦艦とかいう、巨大な戦艦を造って悦んでいた訳だけど、魎皇鬼には手も足も出ずに落書きされていた。

 迦具夜はそんな戦艦すら上回るだろう。

 瀬戸も林檎から調査結果を聞いて内心、汗を流していたのは秘密の話だ。

 よくぞこんなモノを造れる存在が、敵対勢力に現れなかったものだ……と。

 勿論、ユートだけで建造したとは思っていないが、少なくとも迦具夜を造れる技術者を抱えてるのは間違いない事実なのだから。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「海賊?」

「ええ、海賊編隊コーカイジャーとか名乗っているんだけど……」

「うわ、デモンペイン並に胡散臭くてパチもん臭い」

「取り敢えず、海賊は海賊だから潰したいのよ」

「ふむ? ひょっとして、僕に行け……と?」

「あら、判るかしら?」

 にっこり微笑む瀬戸。

「報酬は? 言っとくけど僕は確かに柾木優斗だが、別に現在は樹雷に所属している訳じゃない。水穂さんの家に居候はしてるから、

  多少の手伝いくらいはするにせよ、僕に退治しに行けというのは有り得ない」

「まあ、そうよね。当然ながら報酬は別途に支払わせて頂くわ。遙照殿の生存が確認されていない今現在、優斗殿には柾木として樹雷に従う義務は無いものね」

「……アウローラで出る。若しも誰かしら乗組員を出すなら港に」

 そう言ってユートは瀬戸の執務室を出た。

「さてと、それなら水穂と水音を出しますか」

 監督役には水穂だけでもお釣りがくるが、折角だから水音も付ける事にした。

 その結果として艦長席に柾木水穂が座り、砲座には水音が座る形になる。

 まあ、そもそも次元航行母艦としてのアウローラは一切の制御を、基本的には艦に括られたシェーラが担っており、やる事なんかは皆無と云っても良い。

 また、攻撃も基本の兵装はシェーラが撃てば良し、魔導兵装だけはユートが撃つなり、相方となる那古人が撃てば良いのだから。

 つまる話、アウローラは艦橋(ブリッジ)こそ存在しているものの、セミオートで全てが行われている。

 ロスト・シップの技術を使い、更にはユーキによる技術的な再構築が行われ、戦闘母艦としてのアウローラと神魔因子保有艦としてのシャブラニグドゥ。

 どちらも高位に纏められており、過去から未来に掛けて大幅な改修すら必要としないモノとなっていた。

 まあ、シャブラニグドゥは基本的にユートが魔法を扱う為の赤眼の魔王の因子やその五人の腹心の因子、序でに赤の竜神と四大竜王の因子を取り込んでおり、飽く迄もその為の存在。

 この艦はヴォルフィード=ソードブレイカーがその人格――キャナルが管制をしているのと同様、ユートの討魔将軍(ジェネラル)たるシェーラが行う。

 那古人がサブオペレーターなのは、彼女が討魔神官(プリースト)だから。

 何故に同じスレイヤーズにせよ、神の側ではなくて魔王側の呼び方にしたのか……それはシェーラとは、元々が覇王グラウシェラーの覇王将軍だった為。

 名前こそ魔を討つという意味から――魔族だったのに――討魔将軍となるが、その読み方は相も変わらずジェネラルである。

 那古人はシェーラが称号を拝命した際、頭脳担当として討魔神官となった。

 シェーラは基本的に脳筋な将軍な訳だから。

 【赤の竜神(スィーフィード)】世界の獣神官みたく将軍の戦闘力と、神官の頭脳を持った……という訳にはいかないのである。

 とはいえ、元覇王将軍だった頃に比べて丸くなったシェーラは、戦闘モードにならない状況下での服装がスレイヤーズ世界に於ける村人シェーラの時の物だ。

 勿論、今は覇王将軍だった頃の戦装束である。

 青かった服は黒くなり、ユートの趣味に合わせての色調ではあるが……

 腰にはドゥールゴーファを佩いている。

「ユート、艦外に乗艦許可を求める者が居る」

「ん? 水穂さんと水姉は此処に居るから……他には予定が無かったと思うが」

「その者は立木林檎と名乗っている」

「何?」

 シェーラからの報告に、その挙がった名前にユートは驚きを露にした。

「林檎ちゃん?」

 それは水穂も同様だ。

「水穂さん、たつきりんごというのは皇家の?」

「いえ、血筋的にはそうなんだけど……えっと所謂、分家筋に当たるわ。皇眷属と云って、私達なら柾木家に対して水子の正木家という感じよ。

  林檎ちゃんは、皇家の竜木家の眷属である立木家の一人ね」

 言いながら指で空中へと文字の軌跡をなぞる。

 そんな水穂を複雑な表情で見つめる水子。

(優斗ちゃんってば、本当によく言うわ~)

 それはそうだろう。

 ユートは柾木優斗、即ち直系として柾木の姓を名乗れるのだから。

 当然、ユートの疑問など知らない振りだと水子には理解が出来ている。

「ああ、あの有名な【鬼姫の金庫番】か。経理部主任をしている」

「え、ええ。そうよ」

 確かに、口さがない人間は彼女を称し【鬼姫の金庫番】と呼ぶ。

 当たり前だけど瀬戸の事を【鬼姫】と呼び、自らをその【金庫番】などと言う人間は居る筈もなく。

 これは飽く迄も渾名で、自称している訳ではない。

「瀬戸様の女官なら入れない訳にもいかないだろう。那古人、悪いが林檎さんを迎えに行ってくれ」

「イエス、マスター」

 那古人はその名の通り、【ナコト写本】と深く関わり合いがある。

 【ナコト写本ラテン語意訳】という魔導書であり、彼女の原典(はは)たる精霊のエセルドレーダが、そのマスターのマスターテリオンと共にラテン語で正確に写本した書。

 正にマスターテリオンとエセルドレーダの娘だ。

 その姿はエセルドレーダの背丈を少し低くめにしただけで、それ以外は基本的に瓜二つの容姿である。

 討魔神官那古人。

 その役割はユートと融合し能力の底上げをしたり、脳筋(シェーラ)の頭脳として機能する事。

 魔導書の精霊である彼女にはピッタリな役割だ。

 稍あってから扉が開き、那古人と見た目には二十代の女性が、ブリッジ内へと連れ立って入って来る。

 クセのあるウェーブが掛かったピンクのブロンドを中央から五分わけにしている髪の毛、エメラルドの如く翠の切れ長な瞳、端正な顔立ちは正しく美女と呼べるだろう。

 その表情は如何にも穏やかそうだが、経理関係ともなれば鬼姫も恐怖する程に苛烈だとか。

「初めまして。僕は優斗、緒方優斗……この艦の長を務める地球人です」

「招かれもしないのに図々しくも乗艦を求めた無礼を先ず御詫びします。私は、立木林檎……瀬戸様の下で経理部の主任を任せて頂いております」

「このタイミングで乗艦を求めたなら、海賊退治には同行するという事で宜しいのですね?」

「お邪魔かもしれませんが御願い致します」

 端から視れば手弱女にしか思えないがそこはそれ、彼女も樹雷皇家に連なる者として、闘士の真似事くらいは簡単にやってのける。

 何より、ユートの知識では確か林檎は第四世代ではあるが皇家の樹のマスターとして、艦を持っている身であった筈だ。

 名前は【穂野火】。

 後に瀬戸の依頼で鷲羽が改修、第四世代艦でありながら第三世代艦に迫る性能となった艦……の筈。

「それで、今回の乗艦にはどんな理由が? 水穂さんは監査役、水姉は瀬戸様が賑やかしに送り込んだ訳だけど、貴女の事は瀬戸様からも聞いてはいない」

「これは私の独断です」

「独断?」

「はい。貴方が瀬戸様を通じて売った人型兵器は完成された出来でした。量産機でさえ樹雷の第四世代艦と渡り合える性能。

  番外機の迦具夜に至っては下手をすると第二世代艦にも匹敵をする程でしょう。カタログスペックの通りなら」

 故に危惧を懐く。

 樹雷の皇家の樹、それも数少ない第二世代の樹にも匹敵する機体を造れると、それはいずれ第一世代にも届く可能性があるという。

 事実、少し特殊な例だが現樹雷皇の二人の王妃が持つ第二世代の樹は、レゾナンス現象により第一世代に匹敵する能力を引き出す。

「第二世代は言い過ぎだ。精々が第三世代くらいじゃないかな? 所詮グランゾンのコピーだぞ」

 第二世代というのなら、せめてネオグランゾンくらいでないと。

 グランゾンではラスボスは務まらないのである。

 量産機に関しては武装や形を同じにし、名前なども変えていないだけであり、

 フレームや装甲も主機たる【恒星炉】に耐え得るものとしてあるから、第四世代くらいならば“単機でも”戦り合う程度は出来た。

 成程、敵対すれば嘗ての魎呼と魎皇鬼を彷彿とさせる戦力となる。

 だが然しそれだけに……味方に付ければ大きい。

 少なくとも、世二我とかアイライには行って欲しくない人材だろう。

 ならばどうする?

 恫喝?

 【瀬戸の剣】の平田兼光をも斃す闘士を?

 金?

 経理部主任としては少し遠慮願いたいし、自分で稼げそうなユートにそんな事で懐柔は不可能だろう。

 ならば女か?

 瀬戸が曰く、一番効果的な方法ではあるのだけど、懐柔とまではいかない。

 四歳児とは思えない様な欲求であったと云う。

 とはいえ、実際に勝ったら御褒美をという話にて、ユートが望んだのは女。

 だから水子がこの艦へと乗艦しているのだろう。

(それにしても、どうして彼は水穂様をさん付けにして水子は呼び捨てに?)

 水姉(みずねぇ)と呼んでいるのだが、他からは普通に水子(みずね)に聞こえていたらしい。

 まあ、スプリングフィールド時代にも従姉であったネカネを『ネカ姉』と呼んでいたし、そのノリというのもあるのだろう。

 尚、水子の同僚で同郷の正木風香と正木音歌に関しては、風姉と音姉といった風に呼んでいる。

 この三人とは、ユートが柾木として生まれてから、三回ばかり故郷である地球は日本、岡山県の正木の村に帰郷をしていた。

 だから一応は知り合いの類いで、一歳からバリバリに喋って歩いていたユートは三人に遊んで貰った事もあったりする。

 その時から三人の事は、『水姉』『音姉』『風姉』と呼んでいた。

 三人もお姉ちゃん呼びが嬉しくて、帰郷をしている間は一日中だって構っていたという訳だ。

 本物の『お姉ちゃん』に嫉妬されたけど。

「私は是非見せて頂きたいのです。貴方の機体が戦う処を……」

「……成程ね」

 四歳児だ。

 林檎から見ても背は多少ながら高いが、それにしても見た目は小学一年生程度に見えるくらいである。

 何処ぞの巫女姫の様な、幼年固定された大人……という線も有り得るのだが、それはアイリが保証人をしているから違う。

 そんな彼が、平田兼光を見事に降した上にあの人型兵器を持ち込んだ。

 見極めねばなるまい。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「えっと……」

「これは」

「あはは~」

「……」

 ユートも水穂も水子も、更には林檎までが呆れてしまっていた。

 モニターに映るのは色とりどりなスーツに身を包む男女で、比率は4:2という感じだろうか?

 まあ、六人しか居ないからまんまな訳だが……

 それが名乗ってポーズを決めている。

〔コーカイレッド!〕

〔コーカイブルー!〕

〔コーカイイエロー!〕

〔コーカイグリーン!〕

〔コーカイピンク!〕

〔コォォォカイ……シルバーッ!〕

 ユートからすればどっかで見た光景。

 元々の世界で死ぬ前に、西暦2011年から始まった戦隊である。

「マジにパチもんかよ」

 だから呆れた。

〔〔〔〔〔〔海賊編隊コーカイジャー!〕〕〕〕〕〕

 最早、何も言うまい。

(まさかとは思うけど……宇宙で地球の戦隊モノとか流行っているとか?)

 有り得ないだろうけど。

「ああ、林檎さんや?」

「何でしょう?」

「あれ、殺っちまって構わないんだよね?」

「ええ、基本的に海賊などデッド・オア・アライブ。そもそも海賊艦が墜ちれば乗員も普通は死にます」

「だよね~」

 ZZZは鬼姫のジェノサイドダンス。

 基本、これが発令されたら海賊艦の全てが撃滅される訳で、まず生き残るのは無理であろう。

「那古人、僕は出るから後は頼んだ」

「イエス、マスター。お気を付けて……」

 このやり取りを不思議そうに見つめる三人。

 ユートよりは大きいが、やはりミニマムな少女。

 那古人と呼ばれた彼女はいったい何者?

 それが水穂、水子、林檎の共通した考えだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さて、前回はゴウザウラーを使ったからな」

 格納庫に鎮座しているのはザウラージェットとグランジェット、だけどそれだけには非ずであり他に何機も存在している。

 剣王。

 鳳王。

 獣王。

 バクリュウオー。

 ゴウタイガー。

 マッハイーグル。

 キングエレファン。

 リボルガー。

 ゲキリュウガー。

 ザウラージェット。

 グランジェット。

 テイオー。

 クウオー。

 リクオー。

 リュウオー。

 ダイゲンオー。

 エルドランシリーズへと登場する機体。

 変形しない機体は兎も角として、変形可能な機体は動物形態やジェット形態になっている。


「ライジンオーにするか」

 ユートはそう言って剣王に乗り込む。

 一応、全機がパイロットを乗せるコックピットを持っているが、ユートが乗り込まない機体に関しては、AIによる自動制御だ。

「剣王、発進!」

 格納庫の扉が開いて剣王が射出されると、続き様に鳳王と獣王が射出された。

 剣王のコックピットにはライジンブレスと剣王用のメダル、当然ながら同じ物が鳳王と獣王のコックピットにもせっとされている。

 ユートはライジンブレスを手首へと巻くと、剣王のシルエットが描かれた円形のライジンメダルをブレスにセット。

 こうしないと動かない。

 後は操縦用の二本のレバーを手に、動きはトレースされる仕組みである。

 コーカイガレオン? らしき海賊艦から小型戦闘機っぽいのが出てきた。

 原典では地球上での戦いが基本だったが、エルドランは宇宙空間でも普通に戦っていた訳で、宇宙適性はスパロボ風に云うとAだ。

「ケンオーブレード!」

 背中から飛び出す剣。

 それを手にして小型戦闘機らしきモノを斬る。

 獣王は頭の角を射出するアンカーホーンで串刺し、鳳王は尾羽に当たる部位で斬り裂いていた。

「己れ! こうなれば派手に逝くぜ!」

 コーカイレッドとやらが全滅した小型戦闘機の不甲斐なさに怒り、コーカイガレオン? によって攻撃をする事にしたらしい。

「ッチ!」

 面倒な連中だと舌打ち、ユートはライジンブレスを開いて、獣王と鳳王へ指令を出すとたライジンコマンダーに二枚のメダルが転送されてきたと同時に、自らもブレスからメダルを外して叫ぶ。

「ライジンオー……無敵合体っ!」

 二.八秒の所要時間で、一気に剣王を中心に合体。

 ライジンオーとなる。

「お前ら如きに超合体は要らない! ライジンフラァァァァッシュ!」

 ドガァァンッ!

 ライジンオーの胸部にある緑のクリスタル、其処からエネルギーが発射されてコーカイガレオン? へと命中する。

「己れ己れ!」

 最早、レッドらしくない叫びと共に撃ってくるが、ライジンシールドで防ぐ。

「ライジンブーメラン!」

 腰の一部を外して投擲をすると、クルクルと回りながらコーカイガレオン? の武装を破壊してライジンオーの手に戻った。

「トドメだっ! ライジンソード!」

 獣王の頭だったシールドの口が開き、中から柄と鍔のみのライジンソードが出てきて、それをライジンオーが掴むと収束されていくライジンエネルギーを刃へと変換していく。

 ライジンシールドを投げると、コーカイガレオン? の真後ろに止まり重力波が発射された。

 右肩に担ぐ形でライジンソードを持ち、コーカイガレオン? に突っ込む。

「ゴッドサンダークラァァァァシュッ!」

 斬っ!

 一刀両断。

 まあ、実は完全に両断をする前に止めてライジンソードを手放しながら、自身はコーカイガレオンから飛び去った。

 ドカァァァァァンッ! 爆発と同時にライジンソードが回転しながらライジンオーの手に戻る。

「絶・対・無敵……ラァァイジンオォォォーッ!」

 哀れ、海賊編隊コーカイジャーとやらは宇宙の藻屑と消えるのだった。

第一章:[再誕無用](11/12)
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 海賊編隊コーカイジャー撃破、頭が痛くなる連中はコーカイガレオン? と共に宇宙の藻屑となる。

 軍を動かす事も無い侭、一艦のみで成したそれを見た林檎は、戦慄を覚えるしかない出来事だ。

 ユートが林檎から聞いた話だと、間抜けな事をしてはいたがあれでもGPとて苦戦をする程度には強く、逃げられてしまうから被害もバカにならないとか。

 それを退治しただけで、表彰モノであるらしい。

 賞金も懸かっていたから支払われると云う。

 しかも、樹雷軍を動かせば金が可成り掛かるから、それが浮いたのも嬉しかったみたいで御機嫌だった。

 まあ、確かに軍を動かすなら艦隊を動かす事になるから、それだけでも湯水の如く金が飛ぶ。

 ユートの艦は特殊な動力だし、メンテナンスフリーに近いから動かすだけなら大した金は掛からない。

 光側のロスト・シップは正しくふんだんに見せて貰ったし、闇側もぶちのめしてからゴルン・ノヴァだけなら鹵獲も出来た。

 ボロボロになって人格も消失していたが、それは却って好都合でしかない。

 其処から確りと技術を得られたし、闇側のロスト・シップはメンテナンスフリーっぽかったから調べてみたら、間違いなくそうだったからラッキーだ。

 実際、そうでなかったらデュグラ・ディグドゥへと搭載をされた【システム・ダークスター】は、余りにも危なっかしのだから。

 それにいちいちメンテナンスをしなければならないなら、自動兵器としてみれば片手落ちだろうし。

 戦闘封印艦ヴォルフィードも一応、メンテナンスフリーだったのでゆっくりと技術は蓄えた。

 どうやらメンテナンスをしていたのは、現代兵器の部分やソードブレイカーの外装部分だったらしい。

 確かに原典では、リープレールガンの弾を一時間に一発だけとはいえ、自分で造っていたくらいだ。

 ある程度なら自己修復も可能だった。

 そんな訳で、アウローラにメンテナンスという意味での金は余り懸からない。

 急ぐなら手を加えた方が良いが、ロスト・シップなだけに簡単には手が出せないものらしい。

 少なくともあの世界――【ロストユニバース】という世界では。

(今度はコレンジヤーとかコセイジャーとか、そんなのが出て来ないよね?)

 秘密戦隊ゴレンジャー、天装戦隊ゴセイジャー擬きとか、存在を笑えはしてもちょっとムカつく。

 救急戦隊ゴーゴーファイブ擬きなコーコーファイブだとか? まあ、コーカイジャーが海賊戦隊ゴーカイジャーが海賊だったから、あんなのが出たのだと考えれば大丈夫だろうが……

「さて、【水鏡】に報告の為に戻ろうか」

「そうね、瀬戸様に御報告を申し上げないと」

 水穂が頷いて肯定する。

「シェーラ、フェイズシフトに移行する」

「了解、サイ・システムに接続。サイ・エナジー充填……フェイズシフト!」

 フェイズシフト航行。

 所謂、ワープみたいなのはこの世界では普通に使われている為、名前こそアレだったけど隠さず使える。

 必要とされるエネルギーが精神力という、ちょっとした変わり種ではあるが、広大な銀河を飛び回るのにワープ航法とは必須な技術であろう。

「この艦は戦闘力といった意味では、どの程度の能力を秘めていますか?」

 ワープ空間。

 フェイズシフトをしている真っ最中、林檎がユートに艦の性能を訊ねてきた。

「そんなに大した機能とか備えてないよ。第二世代艦に匹敵はすると思うけど」

「樹雷の第二世代艦に……ですか?」

「その認識で間違ってはいないかな」

「そんな……まさか!?」

 やはりと云うか樹雷所縁の面々、話を持ち掛けてきた林檎だけではなく、水穂や水音も信じられないといった表情である。

「第二世代艦に対抗をするのに別段、破壊力や防御力が必要な訳じゃないんだ」

「それは……どういう意味でしょう?」

「【次元間航行型戦闘母艦アウローラ】、またの名を【神魔因子保有艦シャブラニグドゥ】というのがこの艦の正式名称」

「何故、二つの名前を?」

「役割の違い。アウローラは直接戦闘や母艦として、艦載機を運ぶのが役目となる艦だけど、シャブラニグドゥはそうじゃない」

「というと?」

「その役割は魔法の起点」

「ま、魔法?」

「高度に発展した科学の事を魔法と変わらぬとは云うけど、そういう比喩的表現の話じゃない。本当に魔法を扱う為の艦なんだよ」

「? 意味が解らない」

 林檎もそうだがやはり、水穂も水音も首を傾げてしまうしかない。

「別におかしな事を言った心算は無いよ。樹雷皇国も津名魅という神を奉じている筈だろう?」

「津名魅様?」

 始祖樹・津名魅。

 【三頂神】の一柱であり現在は砂沙美と契約をした存在で、彼女から力を借りて超常現象を引き起こしたならば、それが一種の神聖魔法という扱いとなる。

「先史文明時代から見ても更に伝説とか御伽噺とか、そんな遥か遥かな大昔……太古と呼ぶにも更なる前、ファンタジーとさえ呼べる世代というのが在った」

「は、はぁ……」

「そんな時代に今で云う、高位次元生命体同士が戦うという事態も起こった」

「高位次元生命体同士?」

「そう、光に属する存在と闇に属する存在」

「それは要するに……」

「光に属する存在を神と、闇に属する存在を魔と呼んだ訳だ。津名魅はどちらかと云えば神だろうね」

 三頂神と云うくらいだ。

 それに樹雷からしたら、奉じるべき存在である。

 であるからには、林檎達と対して間違っても魔王とか呼べないだろう。

 呼ぶ気も無いが……

「神王と魔王の戦いは即ち存在し続けるのを望む者、滅びを以て大いなる意志と再び一つに還るのを望む者との戦いであると云えた。

  とある世界では赤の竜神(フレアドラゴン)スィーフィードと【赤眼の魔王(ルビーアイ)】シャブラニグドゥが戦い、

  また別の世界では漆黒の竜神(ナイトドラゴン)ヴォルフィードと【闇を撒くもの(ダークスター)】デュグラ・ディグドゥが戦っていた」

「シャブラニグドゥって、確か……この艦の名前?」

「そう、僕のこの艦に付けたのは【赤眼の魔王】シャブラニグドゥの名前」

「また、どうして?」

「実際にはアウローラにはスィーフィードと名付ける予定もあったんだけどね、どちらにしても同じ意味になるから問題は無いかな」

「同じ意味?」

「シャブラニグドゥとは、黄昏より昏き存在とされるけどね。スィーフィードは暁より眩き存在。アウローラはラテン語で暁の女神。意味は同じなんだよ」

 とは言うものの、実際にはハルケギニア時代に於ける母親――ユリアナの実家がアウローラだったから。

「神魔因子保有艦なだけに神と魔王、両方の意味を持つ名前を与えているんだ」

「神魔因子保有艦……? 気になってはいたけれど、それも某かの意味が?」

 次元航行戦闘母艦とかならまだ意味は解るのだが、どうして神魔因子保有艦なのかは林檎にも解らない。

「元々、僕の艦はロスト・シップと呼ばれる先史文明時代に造られた艦を参考に建造されている」

「なっ!?」

 林檎も水穂も水音も一様に驚愕してしまう。

 先史文明時代といえば、“現代”ですら凌駕しているとさえ云われる程。

 遺跡や遺産も存在してはいるが、完璧な形で得られるのはやはり稀。

 完璧な形で残らなければこれだけの完成度は無く、何よりユートはまだ四歳でしかない筈。

 艦を保有しているのだっておかしいのに、況してや先史文明の遺産からフィードバックした艦などと。

「フェイズシフトなんて、次元間航法だってそいつのシステムだしね」

 ハルケギニア時代に可成りはっちゃけて、科学部分はユーキが担当してユートは魔導を担当。

 結果として造られた艦はオリジナルを凌駕した。

「四一〇メートル級重砲撃艦ゴルン・ノヴァ、一七〇メートル級機動駆逐艦ラグド・メゼギス、

  五五〇メートル級超長距離砲撃艦ボーディガーの持つ、空間湾曲チップや慣性中和チップや照準チップ、

  一九五メートル級戦闘封印艦ヴォルフィードの増幅チップなどを、アウローラには搭載しているからね」

「その全てが先史文明時代の遺産?」

「そう。先史文明時代に於いてさえ、遥かなる過去となった伝説に謡われた神と魔王、その名を与えられた遺失宇宙船(ロスト・シップ)は当時の技術の粋を凝らして建造されたんだ」

 一九五メートル級戦闘封印艦ヴォルフィード。

 三〇〇メートル級攻撃艦ガルヴェイラ。

 三〇〇メートル級機動殲滅艦ネザード。

 四一〇メートル級重砲撃艦ゴルン・ノヴァ。

 一七〇メートル級機動駆逐艦ラグド・メゼギス。

 五五〇メートル級超長距離砲撃艦ボーディガー。

 生体殲滅艦デュグラ・ディグドゥ。

 そもそも、デュグラ・ディグドゥに五つの護衛艦が与えられたのは、システムに全リソースを喰われたから必要に駆られての事、

 ユートはアウローラ一隻に七隻、神と魔王と魔王の武器の名を冠したロスト・シップの機能を与えた。

 凌駕した……というのはそういう意味もある。

 勿論、機能だけではなく単純な艦としての性能すら凌駕し、若しも時空間放浪の前からアウローラを保有していたら、普通に魔王の武器たる五隻は破壊せしめていただろう。

 ユートが直に持っているのは、自我を喪ってしまったゴルン・ノヴァのみではあるが、全ロスト・シップのデータは在るのだから。

「だけど本当に第二世代艦と戦えるのかしら?」

「戦うというのはちょっと違うよ。そもそもハマれば戦闘にすらならない」

「――え?」

「魔王ダークスター・デュグラ・ディグドゥの名を与えられたロスト・シップ、生体殲滅艦デュグラ・ディグドゥ」

「生体殲滅艦……物騒ね」

「物騒さ。先史文明を滅ぼした程の艦だからね」

 この世界ではないが……

「先史文明を?」

「デュグラ・ディグドゥに与えられた【システム・ダークスター】……こいつを発動したら周辺全ての生命は乗組員も例外無く死ぬ。

  だからデュグラ・ディグドゥや護衛艦はAIで自我を与えられていた」

 ゾッとする言葉。

「第二世代艦だろうが何だろうが、問答無用で殺せるシステムだからね。破壊力だけが全てじゃないんだ。銀河をも破壊するだろう、第一世代艦でも果たして耐えられるかな?」

 ユートの目算であるが、津名魅なら【システム・ダークスター】も遮る可能性が高い。

 だが、【霧封】や【ZINV】や【船穂】ならどうだろうか?

 恐らく無理だ。

 光鷹翼を防御に使えば、防げるかも知れない。

 だけど単なるシールドでは決して防げないだろう。

 アレは映像越しでさえも殺せる最悪な殲滅兵器で、ユートはそんなシステムを平然と搭載したのである。

 まあ、既に冥王ハーデスやハーディの権能を簒奪したユートなだけに、今更感が漂うのも確かだけど。

 尚、システムに不備など無いか無人世界で犯罪者――死刑囚を用いての試験はしているが、実際に兵器として使った事は無い。

「怖いシステムね。確かにそれだと第二世代とか云っても安心は出来ないわ」

「光鷹翼でなら多分だけど弾けるよ。まあ、戦闘になるなら展開前にシステムを使うんだけどね」

「……量産とかは?」

「しないな。別に樹雷皇国に敵対する気も無いしね」

「そう……」

 敵対するならそもそも、樹雷には来ないと理解しているし、水穂や水音と仲が良いのもそれを後押ししており、林檎もそれについて何かを言う気は無かった。

 だけど四歳児には思えないのは間違いない話。

「増幅チップというのは、どんな物なのかしら?」

「名前の通り増幅器(ブースター)として使う六基で一組になっているチップ。六芒星の形に展開してからサイ・バリアを張った状態で魔法陣に突っ込む」

「するとどうなるの?」

「増幅されたサイ・バリアが収束、砲撃みたいな形で照射されて相手を破壊するだろうね。これが主砲たるプラズマ・ブラストだよ」

「主砲……」

 林檎は顎に手を添えながら考え事をし始めた。

「優斗君」

「何? 水穂さん」

「アウローラの武装だけど……サイ・バリア、サイ・ブラスター、リープ・レールガン、プラズマ・ブラストとあるけど、サイってのはどういう意味?」

「精神的なって感じかな。PSYと書いてサイだよ」

 プラズマ・ブラストというのがサイ・バリアと増幅チップで使うと判ったが、リープ・レールガンについてはよく解らない。

 名前から何と無くではあるが想像も付くが、果たして合っているかは訊くまでどうなのやら?

「リープ・レールガンというのは?」

「弾丸が転移装置みたいな代物でね、レールガンとして放って相手に風穴を空けた瞬間、約五〇メートルを異空間に転移放逐する」

 その意味を考えると恐怖しかない。

 ブリッジに当たったら、乗組員は御陀仏だろう。

 勿論、神の力と同義なだけに光鷹翼には当たっても意味が無さそう。

 質問にヤバ気なのまで答えたのは、此方に敵対する意志が無いという誠意。

 万が一にも立木林檎が、或いは竜木や他の皇家が知って黙っていなかったら、残念な事になるだろう。

 非常に残念な事に。

 まあ、だからこそ最初に接触出来たのが瀬戸だったのはラッキーだった。

 彼女が後ろ楯となれば、“多少”であれば間違いなく防波堤になる。

 何しろ樹雷皇ですら無視が出来ない人物だ。

 頼り過ぎては後が怖い、だけど後ろ楯には丁度良い人物なだけに、樹雷皇や夫の内海も扱いに困る。

 しかも【水鏡】の能力が能力だから、他の四大皇家も決して蔑ろには出来ないのが神木・瀬戸・樹雷。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 【水鏡】の内部に在る、瀬戸の執務室に立木林檎は訪れていた。

「どうだったかしら?」

「瀬戸様から聞かされていた以上でしたね」

「ほう?」

「光鷹翼でなら防げるかもとは言っていましたけど、星の一つを死の星に変える兵器まで所持してました」

「わざわざ教えてくれた、その意味は解るわね?」

「勿論です」

 林檎は瀬戸の言葉に神妙な表情で頷く。

「彼は誠には誠を、仇には仇を返すタイプだわ」

「はい」

「彼の事は四歳児という、フィルターは外して付き合うのが無難よ」

「彼と実際に話して理解しました」

「あの子には将来的に水穂を嫁に出したいと思うの」

「水穂様を? アイリ様は御承知なのですか?」

「元々、彼女からの依頼で面倒を見てるのだもの」

「……ああ」

 遙照の生存は未だに公表されてないが、水穂が彼とアイリ・マグマの娘であるとは誰もが知る事。

 知らないのは全く無関係な者達か、七〇〇年前に星を出て遙照の探索をしている皇女様の二人だろう。

 水穂が産まれたのは遙照が魎呼を追うより前だが、遙照が水穂の誕生を知ったのは百年以上後の事。

 自分の妻である霞の死後に【船穂】が機能を未だに喪ってないと知り、兼光と話すべく銀河アカデミーへ連絡を取った際に、映像越しで会ったのが最初だったのだから。

「兎も角、あの子を気に掛けて上げてくれるかしら」

「心得ました」

 というか、目を離したら何を仕出かすか怖いし。

 林檎は退出をしながら、そんな風に考えていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「何処だ、此処は?」

 夜中、水穂の家に戻ってきたユートは寝ていた筈だが何故か、知らない場所に佇んでいたのである。

「どうして、というよりはどうやって僕はこんな場所に移動した?」

 ユートを操った?

 不可能とは云わないが、可成り難しい筈。

「念動で運んだのか?」

 操るよりは簡単だけど、それならそれで理由が解らないし、攫っていて放置をする意味も計りかねる。

「然し周りの樹は……」

 それに一際、異彩を放つ樹が目の前に存在した。

「皇家の樹……なのか?」

 ならば此処は?

「【天樹】の内部に在る……【皇家の樹の間】か?」

 七〇〇年前に砂沙美が迷い込んだ場所、津名魅との契約が行われた彼処で間違いないと思われる。

 そうなると『どうやって』というより、『どうして』と考えるしかない。

「ってか、不法侵入とかってヤバくね?」

 ユートは冷や汗を流しながら、目の前の異彩を放つ皇家の樹を眺めていた。

第一章:[再誕無用](12/12)
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 次元間航行戦闘母艦という長ったらしい名前より、ユートはちょっと短めにと【機動光覇艦アウローラ】と通常は呼ぶ。

 元々はシャブラニグドゥの対成す名前という事で、赤の竜神スィーフィードの名前でも良かった。

 光側のロスト・シップ、【一九五M級戦闘封印艦ヴォルフィード】みたいに。

 あれも漆黒の竜神ヴォルフィードの名を与えられ、『希望』という精神エネルギーで動く遺失宇宙船として活躍をしたものだ。

 デュグラ・ディグドゥを始めとする闇側の名前を与えられたロスト・シップ、

 それが負の想念である処の【恐怖】と【絶望】と【憎悪】の三大感情とその派生感情をエネルギーとするのに対し、

 ヴォルフィードは【勇気】や【希望】や【情愛】をエネルギー源として求める艦。

 ユートのアウローラにしてシャブラニグドゥとは、光側と闇側の名前を持つ事から判るだろうが、どちらもエネルギー源とする。

 そもそもにして管制人格を務めるシェーラこそが、闇側の魔族たる元覇王将軍なのだから【負の感情】がエネルギー源なのは当然。

 正と負の感情のどちらもエネルギー源に出来る……即ち、戦場に於いて敵側の持つ負の感情も見方側が懐く正と負の感情も喰らえる神魔の如く艦である。

 【神魔因子保有艦】とはよく云ったものだろう。

 ロスト・シップはそれだけに強力だが、ユートが知る限りで場合により更なる力を持つ艦が存在する。

 それが【皇家の船】と呼ばれる【津名魅の子供達】をコア・ユニットに据えた艦であり、【津名魅】本神が顕現するのに使う艦だ。

 ユートが提唱してユーキと共に造り上げた艦だが、その後に幾人もの技術者や科学者や発明家、

 錬金術士まで巻き込んで改修に改修を重ねた艦であるけれど、果たして第一世代艦にも届くのか? という不安などは当然ながらあった。

 【OGATA】と呼ばれる複合企業(コングロマリット)、それを支えている第一セクターたる【超技術(チャオ・テクノス)】。

 其処に所属するは色々な平行世界から集めた奇人や変人や天災、錬金術士とてそれに当たるから怖い。

 特にマルローネ。

 因みに第二セクターになるのが所謂、自然界へ働き掛ける事で富を取得をする産業、農業、林業、水産業という【第一次産業】。

 人間というか生物は食わなければ、飲まなければ、生きてはいけないから。

 【超技術】はそれらへの補助もしていた。

 第三セクターは娯楽関係となり、此処を実質的支配するのは漫画や小説を作り出す者達。

 第四セクターは政経――政治・経済となる。

 これはユニクロン内部が複雑化したから必要となったセクターで、だからこそ第四なんて番号が振られていたり。

 また、ユニクロン内部にはリラクゼーションルームなる部屋が在り、天災達が造った鬼畜にも劣る機器が存在している。

 第五セクターだ。

 光と闇の艦が在るが故、リラクゼーションルームも光と闇が在る。

 光は本当にリラクゼーションの為の部屋なのだが、闇側は恐るべき生き地獄……というかイキ地獄。

 ユートの業の一つを機械で再現した物、それにより快楽漬けとするモノだ。

 快感は性欲を満たすが、薬も過ぎれば毒となる。

 快感とは時に地獄すらも生温い拷問だった。

 しかも快楽地獄の中で、決してイキ狂えないとか。

 試験機で人体実験されたのは、終末の怪物とされるレヴィアタンの子孫であるカテレア・レヴィアタン。

 ユーキにより鳳凰幻魔拳を撃ち込まれ、計画の知る処を洗いざらいとまでいかなくとも口を割らされて、
その後に壊れたカテレアを試験機に、十字架で磔にして括り付けた挙げ句で人体実験に掛けた。

 精神的に壊れていたとはいえ、脳内に直接的な刺激を与えられたカテレア。

 毎秒でイカされ続けて、更なる絶頂でビクンビクンと痙攣していたが、煩いのは嫌だからと完全防音の中にて涙や涎や鼻水や小水や汗が飛び散り、

 垂れ流されながらイク姿にちょっとだけ興奮したユーキ。

 Sっ気たっぷりな嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 アへ顔は好きでないとか言ってたから、ユートにはカテレアの人体実験シーンは見せていない。

 その後、ユートによって刻を戻されたカテレアは、カティ・シトリーと名付けられてシトリー家の養女として入り、ユートの許へとある意味で嫁いだ。

 その後にソーナ・シトリーやセラフォルー・レヴィアタンも美味しく『頂きます』したし、

 イングヴィルド・レヴィアタンも原典とは違ってユートが預かり、やはり後に『頂きます』をしている為、シトリー家とレヴィアタン魔王家は完全に掌握した形だろうか?

 話を戻そう。

 ユートの持つモノはどれも凶悪化しているのだが、果たして【皇家の樹】を擁する【樹雷皇家】に抗し得るものかは定かではない。

 そんなユートの目の前に一際巨大な皇家の樹。

 しかも明らかに第一世代の樹より力を持った樹だ。

 【天樹】に存在している【皇家の樹の間】なのは、【天地無用! 魎皇鬼】の知識から解る。

 砂沙美が入り込んでいた地形とドン被りだから。

「お前が僕を呼んだ……っていうか、拉致った張本人というか張本樹か?」

 キーン! と甲高い音と共に光が降った。

 皇家の樹が意志疎通などする際、この現象が必ず起きるから間違いなく彼乃至彼女はユートに応えてる。

「何の為に?」

 キーン! キーン!

「いや、解らんから」

 マスターキーでも有れば或いは樹と意思の疎通とか叶うのかも知れないけど、流石に皇家の樹のマスターでもないユートには解らないのだろう。

(爺さんは船穂とマスターキー無しで意思を交わし合ってたけど、マスターには違いないから出来たと考えるべきか?)

 会話というか語意が伝わる感じで、皇家の樹側では此方の言葉を完璧に理解をしているみたいだ。

「む?」

 枝が伸びてくる。

「何か触手っぽくてヤダよなあれ……」

 嘗て、クトゥルーにより触手で絡め取られて宙吊りにされ、触手に付いていた触棒で口やら菊門をまるでレ○プされる女の子みたく嬲られ、

 分身も触壺により扱かれて限界を越えイクという行為をヤられ続けた。

 最早、出ないという量の精液を吐き出させられて、代わりだと云わんばかりに口や菊門からクトゥルーの精を流し込まれる。

 ユートが使う業である処の快楽漬けの拷問だけど、この時の経験から作り出された業だったり。

 世の中は何が幸いするか解らないものだ。

 ユートは精液を吐き出し続け、クトゥルーは精氣を注ぎ込み続けるサイクル、終わらない絶頂と丸っきりクトゥルーの一器官にでも成ったかの如く円環。

 まだ不完全だったユートは犯されて穢され、呪いの様なナニかに魂が邪神へと共鳴していた。

 結果、ユートの中の真の力が覚醒して逆に取り込んでしまい、ブラックホールみたいなソレはクトゥルーの神氣を喰らい尽くす。

 クトゥルーは弱体化し、ユートは無限の性欲を手に入れたのだった。

 とはいえ触手に良い想い出など無く、ウネウネと蠢く枝にちょっと嫌悪感。

「つーか、皇家の樹の枝ってこんな動きしたっけ?」

 エロゲに出てきそうな枝の動き、少なくとも知識の上では有り得ない。


 何だか絡んできた。

「本格的に触手かよ!?」

 いっそ焼き滅ぼしてやろうかと、魔力を溜めたくなるのを抑えられたのは相手が皇家の樹だったから。

 というか、マジにエロゲな展開になったら焼き滅ぼしてしまいかねない。

 流石に炎術で三昧真火を召喚すれば焼けるだろう。

 真なる契約者たるユートなら三昧真火を召喚する事も容易く、その気になれば決して消せぬ世界に存在をし得ないこれを大量に出してやれるのだから。

 とはいえどうも相手は此方を値踏みしている節があるし、ユートは取り敢えずされるが侭になっている訳だが……

『見付けた……』

「な、に……? 人語……だと?」

『やっと見付けたよ』

「何者だ? 否、【皇家の樹】だな? 人語を直に話す樹は始祖樹・津名魅くらいかと思ったんだがな」

『ふふ、貴方がマスター。優斗様……だね?』

「マスター? 僕は【皇家の樹】のマスターになった覚えは無い。無いのだが、ハルケギニア時代に津名魅と約束していたな」

 嘗ての時代、前々世の頃に次元放浪をした時期があったユートだが、その際に再来世に当たる地球……即ち今生に於ける此処に引っ張り込まれた。

 犯人は始祖樹・津名魅、三頂の女神が一柱だ。

 とはいっても、津名魅もやらなければならない事情というものがあった。

 何故か?

 津名魅が居た地球には、既に柾木優斗が誕生していた訳で、だから優斗を呼び込まないとそもそも世界の時間軸が壊れてしまう。

 その時に特典(ギフト)として【皇家の樹】を贈る、確かに“彼女”からそう聞いていた。

「約束を果たしてくれた……という訳か」

『はい。ママから聞いていた通りの容姿だからすぐに判りましたよ』

「ママ?」

『津名魅だよ』

「まあ、確かに全ての【皇家の樹】は津名魅の子供と云えるからな」

 三頂神はそれぞれが違うアプローチで、然しながら同じ結果を求めていた。

 訪希深は以前と変わらぬ手法を以て。

 鷲羽は自らを退化させて赤子から“人生”を。

 津名魅は自らの分身を世に広めている。

 その目的は、三頂と任じ頂きに在りながらそうではないという自覚、その矛盾を解消する事だった。

 まあ、実は訪希深以外の二柱は現状に割と満足している為、訪希深が真面目にやるのが莫迦らしくなる程に愉しんでいたりする。

 これもその一環か。

「なら、契約を交わそう」

『イエス、マイ・マスター……何てね』

 一番簡単な方法で彼女と契約を交わした後にユートはマスターキーを得ると、天樹から出るべく出口へと向かって飛んだ。

 その形状は何だか瞬撃槍(ラグド・メゼギス)に似た物であり、素材は“彼女”の枝と宝石化した樹液の塊を填め込んだ物である。

 マスターキーの素材は全てが【皇家の樹】の枝と、樹液を固めた宝石みたいな宝玉を使う。

「デバイス化は意外と簡単に出来たな」

《そうですね、マスター》

 本体の【皇家の樹】は未だに【皇家の樹の間】に、然しながらその意識の一部はデバイスと化したマスターキーの内部に宿した。

 基本形状は腕輪型だが、必要に応じて【闇を撒くもの】の五つの武器と同じ形に形状変換が可能である。

 その為には大きめな枝を五本と小さめな枝を一本、本来なら普通に一本で済む枝を合計で六本も使った。

 量子変換を用いて形状を変換するシステムならば、ユートの人型機動兵器たるジェミナスにも搭載され、運用もしているからデータは充分で、その組み込みは非常に簡単だった。

 【烈光の剣(ゴルン・ノヴァ)】、【瞬撃槍(ラグド・メゼギス)】、【毒牙爪(ネザード)】【破神槌(ボーディガー)】、【颶風弓(ガルヴェイラ)】。

 武器化した形は【スレイヤーズTRY】で出てきた五つの武器、必要に応じてその形状を変えるリリカル系のデバイス機能を持つ。

「あそこが樹選びの儀の間ってやつか」

《はい》

 GXPで霧恋が自分の樹に選ばれた場所だ。

 尤も、その歴史は飽く迄もユートが存在しないという前提がある。

 この世界線で霧恋は既に宇宙に出て、山田西南には深く関わらないであろうから果たして、彼女が樹選びの儀をするか不明だった。

 あれだけの美女になれる霧恋だけに、折角の手に入れる機会をユートが逸するなど有り得ない。

 その分、未来で山田西南が苦労をするのだろうが、彼の【確率の偏り】のベクトルを逆転出来る人材は、霧恋やネージュやリョウコや雨音だけではないのし、そこら辺は無問題である。

 現状ではユートより歳上だけど、まだ幼女な今から好みに調きょ……教育してしまうのもアリだ。

 尚、正木霧恋は加齢を停めて特殊な加速空間で凡そ一〇年程訓練をしていて、結果として生理年齢と主観年齢に差違が生じる。

 GXP時の地球時間年齢は二一歳、主観時間による年齢は三三歳だったり。

「む?」

 誰かが居る。

「何者か?」

 老いている様にも見え、若い様にも見える人物。

 樹雷では珍しくもない。

 基本的にこの世界の宇宙――取分け樹雷との関わりが深い星々は生体強化やら何やらで、長い寿命を持つから主観年齢と生理年齢が同じな人間は少ない。

 転生者なユートも同様、既に千の単位で生きていながら、今の肉体の生理年齢は僅かに四歳。

「いずれにしても侵入者、なれば討ち倒すのみよ!」

 見た目に四歳……と思えない背丈だけど、それでも小学三年生か其処らの姿。

 とはいえ、気付かぬ内に【皇家の樹の間】にまで入り込んだ賊だ。

 油断無く構える男。

 弛んだ腹ながらも歴戦の闘士、そんな感じで武器――叩き伏せる長いロッドを構えていた。

「津希媛(つきひめ)っ! 叩き伏せし者!」

《イエス、マスター》

 瞬撃槍から破神槌へと、その形を変換する。

 破神槌なのに光の戦斧といった形だ。

 遺失宇宙船として造られたボーディガーの場合は、超長距離砲撃艦だから余計に意味が判らない。

「ふっ!」

「ぬうっ!」

 ぶつかり合う武器と武器……そしてその素材を男は見て驚く。

「莫迦な! それはまさかマスターキーだと!?」

「へぇ、流石はこんな場所に居るだけあるね」

「ならば本当に……」

 マスターキーは第一世代以上の樹から造られたモノを云う為、ユートの持つ物がマスターキーなら意味する処はたった一つ。

 現在、マスターキーを手にするのは公式には二人、樹雷皇の阿主沙と第一皇子の遙照のみ。

 阿主沙は霧封。

 遙照は船穂。

 いずれも第一世代艦で、その力を借り光鷹翼を展開したりが可能。

「ど、どうやって!?」

「別に。僕は招かれたに過ぎない……始祖樹津名魅の愛娘たる真祖の樹からね、そうだろ? 津希媛」

《その通りですマスター》

「喋った!?」

《何を驚いてるのですか? 我が母たる津名魅だって人語を話します。第一世代より上の私が喋ったとしておかしいですか?》

「む、うう……」

 確かにそもそも初代である樹雷皇は、津名魅と言葉を交わしてその力を与えられたのだし、何より津名魅は神に数えられる存在。

 ならばその力を直に与えられた真祖の樹ならば? 第一世代よりも更に自我が強くて不思議は無い筈。

「……それが意味する事、理解しておるのか?」

「爺……柾木・遙照・樹雷をも抜き、僕が次代樹雷皇という話になるね」

 元より次期皇位継承権の第一位は、遙照が第一世代である船穂と契約を交わした事で確定をしていたが、

 ユートの樹は本来なら原典に存在しない第一世代を越えた真祖樹、継承権が入れ替わってもおかしくない。

 まあ、その為にもユートの素性を明らかにしなければならないが……

「御主、何者か?」

「う~ん、基本的に樹雷皇にはオフレコで頼みたい」

「何故か?」

「まだ早いから」

「早いとは?」

「僕は実年齢が四歳だぞ? 幾ら何でも早過ぎるさ。それに、【鬼姫】は僕の事を承知している。正体も既に明かしているからね」

「む、【鬼姫】……とな」

 ある意味で樹雷皇よりも高い権力を持つ【鬼姫】、即ち神木・瀬戸・樹雷。

「理解して欲しい、天木・舟参・樹雷殿」

「儂が誰か知った上か」

「【樹選びの儀式の間】の門を護るのが誰かくらい、流石に知らないなんて事は無いさ」

 天木・舟参・樹雷とは、先代樹雷皇の孫である天木・魅月・樹雷の甥に当たる人物で、天木家の前当主の座に就いていた人物。

 昔は息子の天木・佳月・樹雷を樹雷皇の座へ就けようと画策したりしてたが、阿主沙が第一世代の樹たる霧封と契約して樹雷皇に、

 遙照が皇太子となった上に船穂が第二世代の樹と契約したり、直に闘ってボコられた事で敗北を認めた。

 その後は隠居をして息子の佳月に当主の座を譲り、自身はこうして【樹選びの儀式の間】の守人となる。

 GXPで霧恋が樹選びをする頃は、今より恰幅が良くなり好々爺然とした性格となっており、然し息子が嘗ての自分の性格まんまなのを面白がっていた。

 今もそれなりの恰幅だ。

「良かろう。瀬戸様が承知しているならば……な」

「ありがとう。僕の名前は柾木優斗、柾木・遙照・樹雷の孫の一人だよ」

「んなっ! は、ははは、佳月は無駄に終わるか」

 最早、舟参は笑うしかなかったと云う。


2020/10/7