【魔を滅する転生樹】第4章

第四章:[聖機師物語](1/2)
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 ユートはキョロキョロと辺りを見回す。

「はぐれた……か?」

 一緒に跳んだ筈の腹違いな弟が居ないし、こんな風に自然溢れた地に跳ばされたのも予想外。

「さて、困ったぞ。剣士は原典通りにダグマイヤ・メストらに使われるだろう。なら、現状で生命の危機にはならないだろうけどね、僕はどうしたものか」

 この地は地球ではなく、異世界ジェミナー。

 ユートも原典は識っているのだが、主人公――柾木剣士が活躍する物語の舞台なのは間違いない。

 だけどユートはそもそも【天地無用! 魎皇鬼】に列なる世界観、その全てに於いてイレギュラーである存在だから、自分で動いてなんぼという感じだ。

 尤も、それに関して云えばいつもの通りではある。

「此処って何処だろうな。広大な森、シュリフォン? じゃないよな。アニメで観たシュリフォンとは地形が違うっぽいし。聖地の森でもなさそうだよね……」

 とはいえ、地球より寧ろファンタジー色が強いから森なんて何処にでもありそうだし、国を特定するには情報も足りない。

「どっちにしろこうなると人を捜すしかないか」

 空を飛んで行くと見付かればヤバいし、森を突っ切るしかないだろう。

「こういうのは剣士が得意としてるよなぁ」

 元が動物型で人型も執れる魎皇鬼とは仲が良いからだろう、柾木剣士は野生児とも云える四足歩行な動物みたいな、猫科に近い柔らかな動きで森なんて自由に動く事が可能だ。

 しかも祖父――柾木勝仁から直々に鍛えられているからか、サバイバビリティにも溢れている。

 ユートはどちらかと云えば都会派だし、剣士みたいな事も出来ると云えば出来るのだが、進んでやりたいとまでは思わない。

 岡山県の片田舎に生まれた身だが、三歳の頃に祖父の勧めもあって銀河アカデミーに入った訳で、剣士とはやはり異なるのである。

「前みたいな行方不明じゃないから、砂沙美も暴走はしないだろうが……定期的に連絡しないとな。そうなると人里は見付けたいか」

 森を突っ切りながら呟くユート、途中途中で食べれそうな食材を確保している辺りは、やはり弟の事は言えないのかも知れない。

 休憩に綺麗な小川の在る場所に留まり、見付けてきた食材を調理も碌にしないで洗っただけのそれを口に入れ、人里が在るであろう方角を見つめていた。

 単純に人の気配が漂っている方角に向かっているに過ぎないが、人里にさえ降りたら生活圏の確保くらいなら幾らでも可能だ。

「聖地、シュリフォン……或いはシトレイユにしてもハヴォニワにしてもだが、そのいずれにしても何らかのアクションは出来るさ。人間さえ居れば……ね」

 赤い果実を貪りつつも、汲んだ水を煽って呟く。

 ユートは元手も以てして財団法人【OGATA】を地球に設立するし、地球とは違う世界であっても商会としての【オガタ】を創り上げて生活基盤を整えるだけの知識や物資が在る。

 ある程度の文化を持った人間さえ存在するならば、ユートが生きていくのには充分な物は幾らでも手に入るという訳だ。

 そして、このジェミナーには必要な文化を持つ人類が存在するのは確定。

 特に、三大国家には可愛らしかったり凛々しかったりなお姫様も居るのだし、取り入るのはメリットなんかも大きいだろう。

 シュリフォンならアウラ・シュリフォン。

 ハヴォニワならマリア・ナナダン。

 シトレイユならラシャラ・アース。

 まあ、原作時点でヤれる年齢なのはアウラ・シュリフォンだけだが……

 それでも唾を付ける価値は高いだろう。

 まあ尤も、シトレイユのラシャラ・アースに関しては一緒に送られた弟である柾木剣士が接触する筈で、剣士の居場所を作ってくれる得難い協力者。

 故に、ユートが奪う訳にはいかないかも知れない。

「うん、食った食った!」

 この世界――ジェミナーに送られる前、行った世界で手にした【神の恩恵】は元来だと恩恵を与えた神が居ないと封印されるけど、

 ユートは恩恵を完全に取り込んで魂にまで刻み込んだ事により、パワーアップを可成りしている筈。

 だが、それでも前世に於いて素の能力と闘氣だけで人造人間を圧倒したチカラはまだ取り戻しておらず、単純に素の能力だけでだとフリーザにすら敵わない。

 まあ、超化すれば話は別だから今は問題も無いし、この世界で必要という訳でもなかった。

 異世界だからと小宇宙を使えないのは前の世界とも条件は同じだから、万が一に備えて慣らしておいたのは正解というやつだ。

 ユートは森を駆ける。

 広大な自然の侭の森……その森はユートの登場に少しざわついていた。

 それはまるで自分達の皇を迎えるみたいな、そんな歓迎のざわめきに似たものだったと云う。

 また、離れた土地ながらシュリフォンの森も同じくざわめいていたと、この後にシュリフォン王から聞かされる事となる。

「そういえば、この世界はアホウ……亜法だったか? 魔法にも似た力が在った筈だが、確か【フォトン】にも亜法が出ていたよな」

 ユートは今は亡き雑誌に掲載されていた漫画にて、【フォトン】の内容を少しだけ識っていた。

 とはいえ、余り興味を懐いていなかったから流し読み程度であり、内容に関してもその全てを覚えている訳ではない。

 パラレルな噺か、過去か未来か知らないが少なくとも引用をされた単語は割と存在したと記憶している。

「ま、視てみないと亜法も使い様がないかな?」

 恐らく、視ればユートは亜法を使えるだろう。

「にしても、エナの海……海抜五〇〇メートルに亘る大気に存在するか。喫水外では亜法関連は全く使えなくなるって設定だったが、

  聖機人も使えないんだったよな、亜法結界炉が動かなくなる訳だから」

 作中では喫水外で戦闘をするには、エヴァンゲリオンも斯くやな感じにしてしまうか、若しくは外部電源でも増設するか……だった気がしないでもない。

「だけどエナの海って何なのかとも思ったんだけど、これって女神のエネルギーが僅かに混じった大気か。道理で、天地剣が砕けた後のエナの奔流を収束したら光鷹翼になった訳だね」

 剣士が天地みたいに自力で発生させたというより、エナの中の薄い数%程度の光鷹翼のエネルギー、それが収束されて発生したのかも知れない。

 この世界の管理神とは、即ち頂神の一柱の訪希深なのだし、実験的にそんなのを創っていても決しておかしくはなかった

 彼女の目的はそもそも、頂神に挑む者を捜す事。

 それには光鷹翼を使えないと不可能だから。

「うん? だとしたら僕と天地なら喫水外でも普通に聖機人を使えるのか?」

 自力で光鷹翼を発生させる事が可能だという事は、自分でエネルギーチャージが出来るという事。

「西南のZINVみたいな事も出来そうだな」

 あれは第一世代の幼体が使用され、山田西南が契約をしたから出来た荒業ではあるが、ユートと天地なら皇家の樹が無くても機体から光鷹翼を発生出来そう。

「取り敢えず、聖機人が欲しいな。この世界でPTとかを使うのは……機工人を考えるとアリか?」

 機工人――ワウアンリー・シュメが開発を進めていた蒸気動力炉で動く機体。

 大した力は無かったが、それでもそれなりに活躍の場は有った。

「ふむ、それなら結界工房にも行ってみたいかな?」

 やるべき事は幾らでもあるから、どうにも纏め切れていない感がある。

「お、人里だ!」

 暫く考えながら駆けていると、遠くに村らしきものが見えてきた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジェミナーに来てから、実に半年が過ぎている。

 最初に訪れた村から得た情報から、此処がハヴォニワ王国である事が判明。

 唯、困った事に今現在が原典が始まる数年前らしいと聞かされ、つまり距離的なものではなく時間軸自体が違っていたのだ。

 そりゃあ確かに、剣士とはぐれる訳である。

「っつても、それならそれで都合が良いけどね」

 今の内に商会を発足し、金を稼いでおきたい。

 上手くすれば聖機人とか亜法も見れるし、現在では取り敢えずマジックアイテムやアクセサリーや武具を売り、商会の発足に忙しなく動いていた。

 他にも食料品や香辛料、その辺りも売りたい。

 まだ小さな露店だから、そんなのは不可能だが……

「あ、ほら見てユキネ」

「マリア様、待って!」

 ユートの露店へ、栗色の髪の毛の少女と銀髪の少女が近付いて来る。

 よく見れば……というか名前が明らかに原典に登場する準レギュラー。

 マリア・ナナダン。

 ユキネ・メア。

 確か、原典ではマリアが一二歳でユキネが一九歳だった筈だが、数年前だから随分と幼い風貌だ。

「お兄さん、見せて貰っても宜しいですか?」

「構わないよ、何か欲しい物が有るかどうか見ていくと良い」

 アクセサリーに目を向けるマリア、それを見守っているユキネという体だが、護衛がユキネだけというのはどうだろう? とも思い周囲へ氣を拡げてみれば、居るわ居るわ……

 成程、不貞の輩が居れば瞬時に制圧する軍事力。

 護衛をユキネ一人だと、括った高がというやつだ。

「あの……」

「何かな?」

「此方、なのですが」

 それは涼しげな青い宝石と暖かい赤い宝石、まるで寄り添う様に置かれているペンダントだ。

「その、もう少し御安くなりませんか?」

「欲しいの?」

「は、はい。その……彼女が数年くらい離れる事になるので、何か贈り物をしたかったのですが……」

「身形の良さから貴族……ならちゃんとした宝石商で買った方が良くないかな? 此処に有るのは宝石に間違いないけど、

  使い物にならないと判断がされた物を一山幾らで買い取った上で売り物になる様、カッティングなんかを施した代物。貴族の御令嬢が欲しがる様な高価な物じゃないぞ」

「私はお小遣いで買える物でユキネ……彼女に贈り物をしたいんです」

 それなりに大金を貰っている訳ではないのか、とはいえそれでも安価ともいえないペンダントを欲しがる辺り、平民よりは貰っていると判断も出来た。

「そっちの娘、何処に行くんだ?」

「聖地学院」

「ああ、聖機師候補か」

 識ってはいるが然も今知ったとばかりに言う。

 聖機師になるには亜法波耐性が高くないとならず、その強い耐性は女性に多くが顕れる。

 中には男も居るだろう、然しながら絶対数が余りにも少なく、男性聖機師とは聖地学院に通う段階で既に正規聖機師と見なされた。

 だが、その希少性が故に男性聖機師は国により管理されており、聖機人を与えられただけの男娼――というのがユートの印象だ。

 戦いには決して使われず国家の思惑で胤付けをし、特権階級として謂わば生殺しにも等しい扱い。

 自由恋愛なんて許されはしないくらいだ。

 女性聖機師は男性聖機師との間に子を成す義務さえ果たせば、それなりに自由も与えられている。

 まあ、その義務があるが故にそれなら少しでも良い相手を……と、肉食系になる場合も有ったり。

 この婚姻の管理は聖機師の資質がほぼ遺伝するからであり、力ある聖機師同士で子を作ればその子は親の資質を基本的に受け継ぐ。

 勿論、一〇〇%という訳ではないから資質の低い……乃至は持たない子供が生まれるケースも侭あった。

(この美少女もその内に、誰かしらと子を成す筈なんだが……確か剣士に惚れていたよな)

 別に腹違いの弟に思う処なぞ無く、寧ろ懐いてくる剣士を可愛がっているが、ユートと違いハーレム上等ではない彼に渡しても活かせないだろうし、

 それなら歳上組――ユキネも立派な歳上だが――に可愛がられていれば良くないか?

 そんな風に思えた。

 例えばメザイアだとか、ネイザイだとか。

 どっちも母親のレイアと同じ人造人間だけど。

 それにネイザイ・ワンはレイア・セカンドに本来の役目――異世界に転移して子供を成し、その子をこのジェミナーに送るというのを故意か偶発的か、奪われてしまって含む処があったりするが……

(折角だし)

 マリアやユキネとは仲良くなってみるのも、或いはアリであろう。

「足りない分を別の何かで補填するのはどうだ?」

「別の何か?」

「そうだな……頬に口付けとか?」

 ユキネが目を見開くが、マリアは少し考えてからすぐに……

 チュッ。

 ユートの頬にキスした。

「これで宜しいですか?」

 ユートもまさか本気にするとは思わず固まってしまったものの、すぐに再起動をしてペンダントを手に取るとマリアに渡す。

「良いよ、上げる」

「へ? お金は?」

「今ので充分」

 言われて思い出したか、マリアは真っ赤になる。

「この二つは互いに持つ事で意味を成すアミュレットでね、だから片方をそっちの娘に渡してからもう一方を自分で掛けるんだ」

「へぇ」

 マリアは二つのペンダントの内、ユキネに青い宝石の方を渡し自分は赤い宝石の方を首に掛けた。

「ほら、ユキネも」

「は、はい……」

 首に掛けられたペンダントがキラリと輝く。

 このアミュレットは見た目こそ普通のアクセサリーだが、実はとある人物から預かって解析した通信機能を持つ赤いオーブだ。

 但し、可成りの限定的な機能でしかないから数日は魔力を貯め、数分間しか話が出来ないチャチな物。

 何しろ、試験的な代物でしかなかった上に自動防御機能を付加してしまって、リソースが足りなくなってしまっていたから。

 本来のそれはもっと華美な装飾だし、掌サイズだから全く別物にしか見えなかったりする。

 通信機能について話すと驚かれたが、亜法が普通に存在するジェミナーだけあってか、二人は機能を受け入れたらしくお礼を言われてしまった。

 楽しくなりそうだと護衛らしき連中を見回しつつ、ユートはニヤリと笑う。

 意外と盛況な店は様々な品揃えであり、お金もガッポガッポと稼げているし、ハヴォニワ王国のお姫様や将来の護衛機師と御近づきになる切っ掛けは掴むわ、中々に順風満帆なジェミナーでの生活。

「後は亜法や聖機人を視られたら良いんだが」

 流石にそれは贅沢か。

 エナの海は五〇〇メートルしか大気中にはなくて、それより高地にはエナ自体が存在しない。

 亜法が扱えるのも聖機人が動かせるのも、基本的にはエナの海だけだとなるとエナの海そのものが何らかのエネルギー受容体か何かであり、

 ユートの見立てでは光鷹翼と同じか若しくは近しいエネルギーが僅かに含まれたモノ。

 訪希深が管理神ならば、有り得なくないとユートも思うし、その目的もきっと彼女のあの思惑だとは理解もしている。

 だからこそ、亜法というエナの海からエネルギーを得て使う技術に興味があったし、聖機人も是非に見てみたいとも思った。

 まあ、聖機人はそんなに高性能という訳ではなく、精々が通常がジムで尻尾付きで初代ガンダムだろう。

 せめて、00ガンダムとまでは云わないが、エクシアくらいの性能は欲しい。

 だが残念ながらエクシアは疎か、それより弱いMSにくらべても更に弱いのが聖機人だ。

 否、剣士ならエクシアには届くだろうが……

 飽く迄もユートが今生で関わったスパロボZ的に、独断と偏見が込みな印象でしかないけど。

 商品を片付け――亜空間ポケット内に――たユートは現状の住処に向かう。

 未だにお金を貯めている真っ最中なユートだから、今は安い宿に泊まる事しか出来ないが、いずれは大きな邸に住む心算だ。

 というか、それをしないとメイドも雇えない。

 せめてシエスタを喚びたいユートであった。

 まあ、まだ半年だ。

 一年は無理でも二年間を頑張れば、それなりの商会をそれなりの邸付きで持てる予定である。

 それまでは我慢我慢。

 という訳でユートは安宿に戻って新たな商品を準備をしており、アクセサリーは特に補充をしておく。

 割とアクセサリー販売率が高いのだ。

 この後、一ヶ月に一回はマリア・ナナダンが通っては買っていくアクセサリーだったりする。

第四章:[聖機師物語](2/2)
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 ジェミナーに着いてから凡そ二年の時が経過して、その間にもユートの設立した商会は大きくなる。

 商会そのものは僅か一年もあれば設立が出来たし、二年間で可成りの規模になって懐を潤していた。

 元より売るべき物は大量に用意されていたのだし、それを上手く貴族に売り付けて大金を獲る中で平民向けにも商品展開、実益と共に信頼も得ての商会活動は充分に功を奏したのだ。

 現在は正に大・商・会! の体を成している。

 今やハヴォニワ王国に於ける経済はユートが握り、シュリフォンやシトレイユにも触手は伸び、聖地学院の物流の約一〇%を任される程になっていた。

 高が一〇%と侮る勿れ、そもそも物流の一〇%とは即ち必要な物が全体の一割を担う訳で、食料品が多くを占めているのである。

 食料品だけに限定すれば実に七〇%を越えるから、ユートが食料品をストップすれば、聖地学院は餓えて暴動が起きるだろう。

 食料品以外は嗜好品で、アクセサリーや小説だ。

 平民用の簡易装丁な物、貴族用にハードカバー。

 ハルケギニア時代にやってた出版社を興しており、ジェミナーにバラ撒いたら可成り大ウケした。

 ジェミナーにも読み物は在るが、買うにはどうしても大金が必要となる。

 何より、ジェミナーだと本は技術書なんかが多く、娯楽関連は少なかった。

 聖地学院は学生が女の子ばかりで、恋愛が余りにも難しい聖機師や候補生ばかりな所為か、恋愛物が凄く受けたのは云うまでもない話であろう。

 況してや貴族はお金だけは余らせていて、ユートの商会を大きくするには充分だったとか。

 まあ、ハルケギニアでの貴族は金欠病が多かったりしたけど、このジェミナーの貴族は普通に金持ち一杯だったから。

 また、バトル物も割かし受けていたりする。

 実際、ハルケギニア時代に限らず前世でも小説を書いていたが、これも普通に受けたらしく出版された。

 勿論、既存の出版社から出されたのは言うまでもない事だろう。

 その関係でショートボブで着物を着た少女と紆余曲折があり、最終的には手に入れてしまったのは完全な余談であるし、彼女を此方に招喚して執筆させていたりするのも蛇足であろう。

 序でに山田さんも……

 そんな商会を興した者としては大成功を納めている訳だが、一ヶ月に一度だけど以前にアクセサリーを買った少女が訪れている。

 そう、マリア・ナナダン――ハヴォニワ王国の王女であった。

 本人は変装している心算らしいが、果たしてどれ程の効果があるのか疑わしい程度だし、何より護衛らしい女性達がストーキングをしているのが何ともはや。

「これ、続きはまだなんですか?」

 手にした小説は『幻刀』の略称で呼ばれる物。

「ああ、悪い。作者が割と気分屋だからね」

 一応、元の世界で完結をした作品だったのだけど、当たり前だがジェミナーでは存在すらしない作品。

 作者本人に再び書き出して貰わないと本に出来ず、その作者は気分屋というか完結した作品より新作を書きたがり、

 何よりユートとの彼方での想い出を恋愛的小説としたがったが故に、『幻刀』の再現小説は遅々として進まず、現在で漸く一二巻が刊行されている。

 マリアは早く一三巻を読みたいらしいけど、こればかりは作者が書き出してくれず出せていない。

 まあ、どうしても刊行をしたい時には寝技に持っていって、ヤりながら書き出して貰っているが……

 もう初めて結ばれてから何度もヤっているのだが、極度の恥ずかしがり屋な為に真っ向からヤるのに未だ
に照れがあるらしいから、作品の再現書き出しをしながら喘いでいた。

 そこに『爆炎の闇妖精』の作者も加わり、一風変わっている爛れた執筆作業を行っている。

 此方はサボり魔だから、やはりヤりながら書かせた方が実は進み易い。

 何故か全裸スキーだし、居ればちょくちょく挿入。

 あの小さな肢体は割かしお気に入りでもあった。

 尚、『爆炎の闇妖精』はシュリフォンで大人気。

 そりゃ、自分達の種族がある意味で主軸な噺だから無理もないけど。

 ユート自身も商会運営や困った作者を書かせる為の性交やら、時間が色々と圧してはいるもののハルケギニアからコピー小説を書いていたし、

 あの世界で普通に小説も書いていたから、勝手知ったる何とやらとばかりに少しずつ刊行中。

 ユートの作品は聖地学院の女生徒が主に購入。

 また、アニメで観知った『異世界の聖機師物語』の主要人物の名前など変更点を入れつつ、ライトノベルとして刊行をしてみた。

 とはいえ、それは飽く迄も異世界人が柾木剣士のみのストーリーでしかなく、ユートまで加わったからにはきっとこのラノベ通りにはいかないだろう。

 実際、目の前のマリア・ナナダンに男の影なぞ欠片も無かった筈なのに、今やユートの許へ年に最低でも十二回は訪れている。

 まだ九歳かそこらだが、二年前に頬とはいえキスをした事から、ユートを異性と意識しているのだろう。

 実際、ユートはこれでも幾人――幾千もの女性との繋がりがあるから解るが、マリア・ナナダンのユートを見る目には熱が宿る。

 条件付きで手に入れてみたり一夜限りの関係であったり、敵対していた相手を権能で手に入れてみたり、或いは敵対者を無理矢理に犯してみたりと、

 閃姫契約をしたりしなかったりした相手も多々在れど、最終的にユートを慕う相手の目には熱が宿っていた。

 マリアにもそれがあり、十歳未満ながら立派に女をしている。

 というか、一ヶ月に一度とはいえ定期的に来店する理由、気になる男の人への接触が目的なのだろう。

 ちみっちゃいマリアだったけど、一二歳の原作時間の時点でも充分に大人顔負けの対応が可能な辺りで、精神年齢がリアル年齢より高い証左。

 【リリなの】の主人公周りもそうだけど、得てしてこういう存在は居るもの。

 まあ、マリアがライトノベルにハマっているというのも事実なのだが……

「そういえば、ユキネの為にお買い物をしてからもう二年が経ちましたね」

「そうだな。当時は七歳だったマリアも今や九歳か」

 マリアの年齢が=原作のタイムテーブルと同義で、彼女が一二歳になったなら聖地学院に入学する事になる訳だから、つまりは残り三年の年月がある。

「実はお母様がユートさんに興味を持ったらしく」

「フローラ女王が?」

「はい」

「また、何で? 可愛い娘にコナを掛ける不届き者が~とか?」

「いえ、ユートさんの商会がハヴォニワで大手になりつつありまして」

「大手に?」

 まだ中小企業レベルかと思うのだが、ハヴォニワの色物女王から目を付けられる程度には大きくなったのだろうか?

「確かに全体……ハヴォニワ一国ではなく、シトレイユやシュリフォンや聖地学院やその他の中小国家などを含めれば、ユートさんの商会とは上からも下からも同じ数字で数えられます」

 早い話が殆んど真ん中。

「ですが、それは規模がという意味合いであって中身は既に大手ですわ」

「ほー、そんな事まで調べたのか? また御苦労様な話だな……」

 色物女王とはいえ娘の事はちゃんと想っている。

 そんな愛娘がお気に入りの男など、気にならない筈もないという事。

 とはいえマリアは王族であり、しかも一人娘という立場はちょっと大きな商会の主程度の立ち位置でモノに出来る身分ではない。

 せめて子爵より上の爵位でもないと、王配とするのも難しいであろう。

 最低限で伯爵。

 今は平民と考えれば爵位を与えるにも相当な理由が要るし、与えられる爵位も男爵くらいまでが精々だ。

 まさか女王とはいえ平民にポンと、マリアと契りを交わせる爵位を渡す訳にもいかないのである。

「まあ、それで御会いしたいので連れて来なさいと」

「まさか、今日?」

「流石にまさかですわ」

 行き成り『今日来い』とか言われても困る。

 服装やら身嗜みをなど、ちゃんと整えねば女王の前に出るに出れないだろう。

 こう見えてもユートは、前々世では貴族だった上に前世は王族だから女王の前に出る為の礼儀作法は万全だから、服装さえ何とかすればいつでも大丈夫だったりするのだが……

「一年以上とか待たされると困りますが、一ヶ月の内に双方で調整して会いましょうと、お母様は仰有っていましたわ」

「そう。なら明日以降での調整で頼む」

「明日? そんなに早くて大丈夫ですか?」

「問題無い。身嗜みを整える時間が欲しいだけだし」

「判りましたわ。それでは明日には迎えに来ますね」

 どうやら迎えもマリアが行う気らしい。

 マリアの護衛諸君も随分と御苦労様な事である。

 護衛や侍従と共に帰ったマリアを見送ると、ユートは溜息を吐きながら商売の引き継ぎをして、

 取り敢えずマリアに新刊を渡すべくあの二人には頑張って書いて貰おうと、ユート自身も二人を相手に頑張った。

 二人共が嘗ての世界にて堕ちまくっていたからか、所謂メロメロな状態で執筆活動もしてくれる。

 唯一、欠点が有るとしたらヤっているからだろう、執筆中の原稿がエロエロな内容になる場合が多いく、修正が必須な事か。

 しかも器用に原作キャラが主人公とかにエロエロをしているのを書き列ねて、普通にエロ小説として出せる勢いだったり。

 尚、暫く後に実際に発刊したら爆発的に売れた。

 『幻刀』や『闇妖精』のエロ小説が。

 勿論、女性には不評だろうから内密に売った。

 それでも一財産が出来る辺り、どれだけ娯楽に飢えていたかが判る。

 小説の類い――読み物も無かった訳ではなく、参考までに買ってユートも他の面々も読んでみた。

 内容はそれなり程度で、数が滅茶苦茶少ない。

 そもそもジェミナーには現行作家が居ないのだ。

 つまり昔に書かれたのが残されているだけであり、現行作家っぽい人間も趣味でやっているだけ。

 ユートやその仲間みたいな商売ではなかった。

 また、作画を行うという感覚が無かったのだろう、絵画は普通に存在しているのだが、小説に挿絵が存在していなかったりする。

 勝った!

 イラストレーターが存在するだけで勝つる!

 此方には歴戦のイラストレーターが居るのだから。

 その名もアルミちゃん。

 愛称だよ?

 実に漢らしい物言いに、素晴らしいイラストに感性がレズビアン……というか大好きなのは山田ちゃん。

 どうやってモノにしたのかと云えば、有り体に言うなら『将を射んと欲すれば先ずは馬を射よ』である。

 山田ちゃんを堕とした後に向こうからオファーが。

『お前のモノになってやるから、代わりにオレの要望を聞け』

 その要望とは――相棒の処女を奪ったらすぐに自分の処女を奪えだった。

 早い話が間接キスならぬ間接セ○クス。

 取り敢えず、損な取り引きではなかったから了承、これによりアルミちゃんをGETだぜ!

 現状、彼女がジェミナー製の『幻刀』や『闇妖精』のイラストレーターだ。

 因みに他にも作品を書いたりして貰っているけど、それらやユートのラノベのイラストレーターは彼女ではなく、エロマンガ先生というPNの人物である。

 勿論、和泉紗霧の事ではなく初代の方だ。

 今回、ジェミナーに於いて最初に召喚した閃姫とは特に戦いの無い、ある意味で平和な世界のラノベ関係者達だったが、シエスタでなくても問題が無かったのは山田ちゃんが居たから。

 花嫁修業だか何だかで、あらゆる方面で強化された彼女は、時にシエスタすら凌駕するのだから。

 そんな彼女らに城へ招かれた事を話し、お土産を貰ってこいと送り出された。

 そんなこんなで翌朝……馬車に乗ったマリアが悠然と現れる。

「さあ、参りましょう」

 真新しい赤いリボンを着けたマリア、これはユートが以前プレゼントした物。

 物自体はマリアが普段から着けている赤いリボンとデザインは変わらないが、中心部にはサファイアを使ったボタンが付いている。

 マリアはこれを丸っきり国宝の如く大切に保管し、ユートと会う時だけ身に付けていた。

 つまり、先日も着けてはいたのである。

 ある程度の仲良しになった時点で贈り物、フローラ女王が気になったのも無理からぬ事かも知れない。

 普通に考えれば明らかにマリアを狙っている訳で、本人もまだ幼いからどれだけ精神年齢が高いにせよ、寧ろ高いからこそ受かれてしまっているのだから。

 リボンを仕舞った宝箱を見つめながら、『ほぅ』と溜息を吐いて頬を赤らめている辺り所謂、初恋状態の純情乙女モードである。

 今も同じ馬車で見つめ合うより隣り合わせに座り、軽く頭をユートの肩へ預けて幸せそうな表情だ。

 一ヶ月に一回の逢瀬……どうやらマリアはこの事を楽しみにしているらしい。

 別にデートをしているだとか、一緒に食事をしているだとかの色事ではない、ないのだが……それにしても会うという行為が嬉しいみたいだ。

 ユートとしても幼いとはいえ、いつしか成長をすれば間違いなく美少女となるマリアに好かれるのは悪い気もしなかった。

 それにしても……

(馬車とか古めかしいな。この世界は先史文明が残っているし、車くらいは在ったと思うんだがな)

 飛空挺は存在するのに、それより技術的に簡単だろう車が無い筈はないけど、ユートも実は原作を余り覚えてないから車の有無までは識らない。

(ああ、でも全てに於いて亜法結界炉が使われるとなると、車は却って難しいって話になるのかね?)

 エナの海が地表から見て五〇〇メートルを喫水とする訳で、エナ自体が亜法の動力原……つまりガソリンや電気みたいなモノ。

 亜法結界炉とはつまり、エナ・エクストラクターという訳である。

 エナの海に遍在しているエナを抽出して駆動させる動力炉、オルゴン・エクストラクターみたいな感じであろうか?

(この世界にオルゴンが在るんなら、グランティード・レプリカはでかすぎるから兎も角、ベルゼルート・ブリガンディZEXなら使ってみても良いかな?)

 エナの海という明確なるエネルギー源が存在するからか、他のエネルギー源を用いた動力炉がこの世界には存在していない。

 ワウアンリー・シュメが結界工房の方で蒸気動力炉を開発をしている筈だが、今はまだ外で採用をされている物では無かった筈。

 ワウアンリーが持ち込む機工人、それが蒸気動力炉を搭載してエナの喫水外でも動くロボットだ。

 先史文明時代の遺産から造られたらしい聖機人みたいな人型機動兵器でなく、飽く迄も多目的型機動工作機械に武器を積んだ物でしかないのだが……

(先史文明時代の人間……技術は凄いが性根は余り誉められたものじゃなかったって事か)

 エナの海よりエナを抽出してエネルギー源とする、言うは易しとはこの事だろうか? そもそもユートの見立てではエナの海に存在する〝エナ〟とは、頂神が扱う光鷹翼のエネルギー。

 但し、可成り希薄な。

 大気中に数%も混じっていれば御の字程度。

 それでも神とさえ呼べる超常存在のエネルギーで、単純に抽出して動力原にしただけとはいえ、

 皇家の樹みたいなコンピューター兼エネルギー源が勝手にやってくれる訳でもなく確かに扱えたのだから、技術的には間違いなく高かった。

 然しながら聖機神を乱立させて、人造人間を徒に造り出して競技とか言っていた辺り、性根は彼のDCの副総帥とかアギラ・セトメとかイーグレット・フェフとかと変わらないだろう。

 まあ、その結果が滅亡という形で顕れたのだから、報いは受けている。

 とはいえ、単純に光鷹翼のエネルギーを扱うだけならユートにも可能であり、

 現に【スパロボZ】な世界で完成したジェミナス・ズィードも【獅子の心臓】と【アルハザードランプ】とユートの扱う光鷹翼を主機にして内臓されている。

 元々は【時流エンジン】と【ブラックホールエンジン】を使っていたのだが、鬼械神リベル・デインからデータを流用し、そこから三つの動力原を扱ったのがジェミナス・ズィード。

 尚、【時流エンジン】はラウル達から貰った物で、【ブラックホールエンジン】はマオ・インダストリーから提供され、旧式ジェミナと旧式ジェミナスはこれで運用をしていた。

 因みに、現在のゾディアックトルーパーは【恒星式反応炉】を用いている為、出力は第四世代の皇家の樹と同等であり、

 樹雷へ売ったパーソナルトルーパーもエンジンは此方に喚装していたから、瀬戸も林檎も驚いたし採用を決めたのだ。

 【鬼姫の金庫番】である立木林檎が、財布の紐を弛めた理由はそこにある。

 幾ら何でも本来の仕様のパーソナルトルーパーは、瀬戸にせよ林檎からしても玩具と変わらない。

 高がプラズマジェネレータでは、そもそも樹雷艦隊の艦載機足り得ないので、瀬戸も最初は男のロマン的な感覚で買う予定なのが、林檎と詳しいスペックを見て考えを変えた。

 後に蓮座連合に向かった山田西南に一機を都合し、立場上から自由に使える訳ではない神武の代わりを、充分に果たしてくれた。

 都合した機体はビルトシュバイン、ユートがゲームではよく使っていた物だ。



 閑話休題



 つらつらと考え事をしていたからか、自分の行動が何だったのか理解していなかったユートは、いつの間にか蕩けた瞳で腰砕けになったマリアを見て、取り敢えず自分の無意識での行動を鑑みる。

 言葉は交わしていないのだが、マリアが肩に預けていた頭をずっと撫でていたのを思い出す。

 ナデポなんて出来ないとはいえ、そもそも好意を持つ相手から頭を優しく撫でられていた為、幼いマリアは恋愛感もいまだ幼い事もあってか悦びしかない。

 況してやユートの異性への接触行為は、僅かながらでも性的な快楽を伴うから今のマリアの状態は寧ろ、正常とも云えるもの。

 仮令、下着が軽く湿っていたとしても……だ。

「初めまして。あらあら、マリアちゃんったら随分と貴方に懐いているわねぇ」

 目の前に居る女性は若く美しいが、何処か瞳が瀬戸に通ずると思えた。

「私はフローラ・ナナダンといいます。これでもこのハヴォニワの女王ですの」

「初めまして、女王陛下。僕の名前はユート。オガタ商会の長をしています」

 若く美しいと称したが、実際に若いのであろう。

 今のマリアは九歳。

 ならば最速で十年前にはマリアを宿した事になり、王族なら早い内から婚約や結婚をしてもおかしくはないのだから。

 この世界では王族は普通に聖地学院へ入学するみたいだし、ラシャラとマリアの入学時の年齢を鑑みればそれは一二歳。

 恐らく聖地学院を卒業後の割りとすぐ結婚、マリアを懐妊したのも早い内だと思われる。

 原作開始の三年後に彼女は三〇歳くらいの筈だし、今現在は二七歳であるのだと考えればやはり若い。

 となると、マリアをお腹に宿したのは一八歳の頃。

「それにしても、本当に懐いていますのね」

 マリアは現在、お姫様抱っこな状態で真っ赤になっていたりする。

 きっと自分には余り懐かないマリアが、普通にくっ付いているから嫉妬をしているのだろう。

 娘を玩具にするから僅かに恨まれてたりする訳で、自業自得だと思うのは間違っているだろうか?

 こうしてハヴォニワに於ける後の大商会の長であるユートと、女王フローラ・ナナダンが邂逅した。


2020/10/7