第二章:[帰還──リターン](9/9)
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ユート一行はピニャ一行と合流をして、北条総理大臣に会うべく官庁へ。
まあ、当たり前だろうが警備員が訝しい目で見てきている……というか睨み付けてきている。
子供の遊び場じゃないとか何とか考えているのであろうが、御生憎様と言うべきか此方は総理大臣に招待されて此処に来ている。
高が警備員如きが口出し出来る範疇ではない。
そういえば、以前ユートが【ハイスクールD×D】世界に行った際、セラフォルー・レヴィアタンに連れられ冥界へ行ったのだが、門番の中級悪魔が人間であるユートを軽く見て勝手に追い返そうとしてきたのをぶん殴ったけど、あれにしても門番の越権行為だ。
魔王たるセラフォルーが連れて来たからにはユートは正式な客、それを追い返すなぞ門番如きが判断して良い案件ではない。
あの門番はユートに対し“感謝”をすべきだろう。
あの時にユートが自ら拳を振るっていなかったら、間違いなくセラフォルーが動いていたし、その結果は一〇〇%の死刑である。
つまり、ユートこそが命の恩人なのだから。
まあ、愚か者には理解も出来ない話だ。
そういう輩にはユートの行為も蛮行に映ったろう。
どうでも良い話だが……
さて、ユートはテュカやロゥリィらを伴いズカズカと官邸に入ると、特に気負いも無く訝しい眼で視てくる受付嬢へ話し掛ける。
「約束している。総理大臣に取り次ぎして貰える?」
「――は?」
行き成り来て総理大臣を呼べとか、受付嬢は思わず間抜けた声を上げた。
「北条内閣総理大臣に取り次ぎをしてくれ、そう言った心算なんだけどな?」
聞こえてはいるのだが、流石に有り得ないとばかりに受付嬢はジト目だ。
「こんな事で御咎めとかは嫌だろ? 取り敢えず取り次いでから考えたら?」
至極真っ当な意見を言われた為、電話の内線ボタンを押して北条総理大臣へと連絡を入れる。
知らないと言われたら、不審者としてガードマンを呼べば済むし、万が一にも追い返したら叱られ(クビになり)ましたという事態は避けたい。
保身的だが真理でもあるのであろう。
そして、とある世界での中級悪魔の門番よりは有能な受付嬢だった。
数分後、北条首相が執務室から降りて来る。
「いや、済まないね」
「せめて受付けくらいには説明をしていて欲しかったんだが、それを求めるのは贅沢だったのかな?」
「本当に済まない」
汗をダラダラと流しながら誠心誠意、頭を下げている日本国の内閣総理大臣。
日本国内に存在する小さな領土で、住むのも基本的に日本国籍ばかりだとはいえど、ユートは麻帆良という国の王という立場。
況してや、マッドがそれなりに居る麻帆良だけに、科学力は日本より遥かに進んでおり、力尽くでどうにか出来ないのは理解もしているだけに、下手な事など決して出来はしない。
今回、内閣総理大臣まで出張ってきたのは攫われた明石裕奈が日本人だから。
父親も今は亡き母親も、ちゃんと日本国籍を持った日本人である。
だからこそそれを悪く云えば盾に交渉が出来た。
日本だけではない。
ゲートや異世界に関して云えば、米国を始めとして中国や英国や仏国や伊国やや独国や露国など、各国もやはり興味津々だった。
当然だろう。
言ってみれば何の開発もされていない雄大な土地、そんな中にはレアメタルやレアアース、鉱物資源やら化石燃料といった手付かずの資源が惜しみ無く眠る。
相手は未開人なだけに、碌に手を付けていないのは想像に難くない。
事実、ユーキがそれとなく確認をしたら地下資源で使われているのは、貨幣となる金銀銅と武器や防具になる鉄くらいだった。
今時では流石に青銅は使われていないらしい。
製鉄法は要するに存在はするという事だったけど、使われているのは飽く迄も鉄の剣だと云う。
どうやら製鋼まではされていない様だ。
その癖、神のというより亜神の武具には神鉄と云う神秘金属らしきを使う。
神の世界とヒトの世界の隔たりを感じる一面だ。
ローリィから聞いたが、ヴァレッタでは活版印刷が出回り始め、製本が写本よりも楽になったらしい。
彼処の技術はその程度、転生した直後のハルケギニアとどっこいどっこいだ。
「さて、自己紹介をしよう……日本国内閣総理大臣の北条重則です」
「麻帆良自治国の自治長、緒方優斗。此方は左側からテュカ・ルナ・マルソー。ロゥリィ・マーキュリー。レレイ・ラ・レレーナ」
左から順番に紹介する。
「ふむ、テュカさんとやらはまさか?」
「気付いた通りエルフ」
「ほう?」
耳が横に長いという判り易い特徴。
「後ろに控えているのが、テュカの同胞であるユノ」
ユノがペコリと頭を軽く下げて挨拶。
「で、此方の赤い髪の毛の女性がピニャ・コ・ラーダ第三皇女。帝国の皇女殿下であり、今回の外交的な話に来た責任者。隣は護衛のボーゼス・コ・パレスティーで、パレスティー侯爵家の次女。此方の娘が一応、僕の秘書扱いなハミルトン・ウノ・ロー」
一気に紹介を済ました。
「秘書なのに名前が特地と同じ感じだね?」
「特地?」
「あ、ああ。我々はゲートの彼方側を特地と呼んでいるんだよ」
「向こうには向こうの名前が有るだろうに、手前勝手な呼び名で呼ぶのもどうかとは思うけど。とはいえ、呼び名が無いとやり難いのも確か……か」
名前はそもそも付いているのかさえ定かではなく、大陸の名前もユートは知らない訳だから。
「ああ。世界の名前は兎も角としてぇ、私達が住んでる大陸はファルマート大陸と呼ばれてるわぁ」
「へぇ、そうなのか」
律儀にローリィが大陸名を教えてくれた。
「まあ、今更ながら変更をしてもアレだから日本側は特地でも構わないか」
「そうしてくれると有り難いと思うよ」
「質問の答え、ハミルトンはそもそもがファルマートの人間。ピニャ殿下の側仕えの騎士だったんだけど、向こう側が僕に対して仕出かして……ね」
流し目でボーゼスを見遣れば、羞恥心からか真っ赤な顔で俯いてしまう。
「やらかしたのを許す代わりに貰ったんだよ」
「何とまぁ……」
今度はハミルトンが真っ赤な顔で俯いた。
羞恥心はボーゼスと意味が違う方向性、未だにナニかが入ってるみたいな感覚がそれを助長させる。
元婚約者とは仮にも貴族だし肉体的関係が無くて、初めてがユートだった事もあってか、男のモノを見る機会なんて全く無かった。
初めてのモノは通常形態だったが、それでも可成りの大きさ……一般的な日本人男性の勃起したモノでの平均よりやや大きめ。
勃起したら当然ながら、それより何倍もデカイ。
取り敢えず失神した。
性的な悪戯をされて起こされたのも手伝い、ユートとの情事を思い出せば出す程に恥ずかしくなる。
ならばハミルトンの態度は妥当なものであろう。
「にしても、君は綺麗処を揃えるものだね」
「うん?」
「三年くらい前だったか、君に頼んだ聖夜市の調査。小学生とはいっても美少女を複数人侍らしていたし、あの金髪の娘はアイドルだった筈だが?」
尚、複数人の美少女とはいっても約一名ばかり少年が混じっていたり。
パッと見では着物を着た大和撫子……美少女にしか見えないというのに下半身には付いている。
何でわざわざ着物を着て来たのかは謎だが……
謎にしておきたい。